第27話 グロース会議
グロース本部では、今回のルーイン襲撃により対策に追われ、エレリオとエルマンが司令室で話し合っていた。
「今回のコンサートでの襲撃は予測されていたが、まさか第二支部が奇襲に遭うとはな」
「やはり相手の狙いはこちらの戦力の分散でしょうか?」
「それで間違いないだろう。ティナのコンサートでは、戦力を分散して警戒にあたらざるをえない」
「それでは相手の思う壺ですね」
「ああ。しかし、分かっていても相手の策略に乗るしかあるまい。ここでの奇策は、一歩間違えば壊滅的な被害を生みかねない」
エレリオが頭を抱えると、ため息と同時に頭痛が襲いかかる。
国を託されている重みが、彼はたまに嫌いになってしまう。
「仕方ないですね。恐らく、次の襲撃では幹部達が何人かやってきても可笑しくないでしょう。他の皆にも覚悟していてもらわないと」
「そうだな。各部隊の隊長、および副隊長、第二支部の皆、そして弐王達にも協力を要請する。皆に集まるように伝達を頼んでいいかエルマン?」
「分かりました」
エルマンの呼びかけに早速グロース本部に皆が集まり、会議の準備が始まる。
そして、クロエ達の元にも召集の伝達がやってきた。
「流石に親父たちもかなり警戒を強めているな」
伝達を聞いてクロエとカイトが話をする。
「クロエさんどうしますか? 流石に今回は俺達も参加した方が良くないですか?」
「そうだな。いつもは気にもしないが、今回はティナとナナのコンサートも近い。流石に親父達に協力するか」
「それじゃあ早速グロースに向かいましょう!」
「ああ、すぐ準備しろ」
グロースに到着するクロエとカイト。
「流石に今回はやってきたな」
ロランとレオがほぼ同じく到着していた。
「まぁな。親父達はどこだ?」
「既に会議室に集まっているみたいだ。俺達も行くぞ」
会議室へ入るクロエ達。
会議室には既に各部隊とエレリオが席についていた。
「クロエにロラン、それにレオとカイト君、よく来てくれたね」
部屋に入ってきたクロエ達に向かい、エレリオが頭を下げる。
「中々な面子が揃っているな。今回は俺も参加させてもらう」
クロエの言葉に一番早く反応したシアンが声を荒げる。
「普段何もしないクロエ様が珍しく参加するなんて、自分勝手な奴は楽なもんだ」
「おーおー、弱い奴はよく吠える」
「なにっ?!」
向かい合い口論になる二人。
口論といっても、シアンが一方的に喧嘩をふっかけているようであった。
「やめないか二人とも!」
今にも暴れだしそうなシアンを、エレリオが止めに入る。
「今日はそんなくだらない口喧嘩をするために集まってもらったのではない! クロエとロランは、本来なら私に従う必要が無いところを集まってもらったのだ。来てくれただけでも感謝する」
「チッ……」
シアンはつまらなそうに舌打ちをした。
「それでは本題に入る。皆も分かっているとは思うがルーインの度重なる襲撃、間違いなくキルネの仕業だろう。歌姫強奪にこだわる奴らは、今までの襲撃で我々の様子を探り、近日開かれるティナのコンサートで本格的に攻めてくると思われる。だが、前回の第二支部が奇襲にあったことを考えると、どうしても戦力を分散しなければならない」
ルディがエレリオに尋ねる。
「分散は奴らの思う壺じゃないですか? それに、そこまで危険を予測しているのならばコンサートを中止にしては?」
エルマンがそれに答える。
「確かに戦力の分散は奴らの狙いだろう。しかしエレリオさんの考えでは、即席で考えた奇策では更なる危険を生む可能性が高いため、相手の策略に真っ向から立ち向かうべきだと結論が出た」
ロランが続いて話にまざる。
「戦力を分散させるといってもコンサート会場、グロース本部、第二支部、セントレイスと奴らが攻めてきそうなところは大体絞れる。それに弐姫はセントレイスの象徴。コンサートの中止は、市民達の活力を大幅に下げることになるだろう」
クロエも話を聞いて、堂々と腕を組んで答えをだした。
「キルネなんぞにビビってコンサートを中止にしたら、市民達からのグロースの存在価値を下げることにもなるしな」
エレリオが皆の話をまとめて作戦を打ち立てる。
「今回の抗争は、第六戦争の様な大規模な戦いになるかもしれない。皆には確固たる覚悟を持って警戒にあたってほしい」
「了解しました」
「それでは各々の持ち場を決めたいと思う」
机の上に周辺の地図を開くエレリオ。
「まず、セム・ステラはクロエとカイト君、君達に任せようと思う。一番危険が伴う場所だが君達二人に任せて大丈夫だろうか?」
クロエとカイトが余裕の表情で答える。
「愚問だな」
「任せて下さい!」
二人の即答に安心したエレリオは、次々と配置の指示を出した。
「次に第二支部だが、此方は距離が離れているのでどうしても援軍を送るのに時間がかかってしまう。なので初めから少し多めの戦力を配備しようと思う。第二支部の皆は勿論、こちらからは第四、第五部隊を配備する」
第二支部 支部長のサルトが頭を下げる。
「ありがとうございます。第四、第五部隊が来てくれるなら心強い」
胸を撫でおろすサルトに対し、シアンが一層不機嫌になった。
「俺が第二支部のお守りかよ」
サルトがシアンに頭を下げて機嫌をとる。
「頼りにしているぞ、シアン」
「たく……分かったよ」
「次はグロース本部だが、ここには私とロラン、それにリリーとアリスにはここで待機してもらう」
ロランが仕方ないかとばかりに返事を返す。
「残念だな。リリーもアリスもティナ達のコンサートを楽しみにしていたのにな」
「彼女達には申し訳ないが、奴らの標的である以上四人を一ヵ所に固めるわけにはいかないからな」
「何だよそれ、アリスせっかく楽しみにしてたのに……」
先ほどまで無言であったレオは、小声で愚痴を垂れた。
「レオ、これは遊びじゃないんだ」
エレリオにきつく叱咤され、レオは無言にもどり眉間にシワを寄せる。
「最後にセントレイスだが、周囲を第一、第二、第三部隊に任せる」
「分かりました」
「セントレイス中央はレオ、お前に任せる。できるか?」
エレリオの言葉をレオはあてつけのように無視をした。
「まぁ良い。もしも襲撃にあったら近くの部隊と連携し、被害を最小限に抑えるように頼む。そして最後に、歌姫と市民の安全を第一に考えつつも、自分を犠牲にせぬように。皆の無事を祈る」
会議が終わり、皆解散する。
帰り際、ロランがレオに忠告する。
「親父が嫌いなのは分かる。だが私情を挟むなよ」
「分かっているよロラン兄。アリスの傍にいられないのは不本意だけど、自分の持ち場は責任持って死守してみせるよ」
「もしキルネが本格的に攻めてきたら、お前にとって初めての大規模な戦場になる。死んだら許さんぞ」
「大丈夫だよ、ロラン兄こそアリスを頼むよ」
そういってロランと別れるレオ。
(私情なんて挟むもんか……親父のことなんてどうだっていい……)
日は流れ、ティナとナナのコンサート当日を迎えた。