第25話 それぞれの正義を掲げる者達
闘技場での襲撃以降、グロース本部ではルーインの目的が分からず数回にわたって会議が行われている。
今日もグロースの会議室では、険しい顔をした隊長達が集まっていた。
「皆、度々集まって頂き感謝する」
部隊の集合を確認すると、初めにエレリオが話を切り出した。
「相変わらずあれからルーインの目立った動きが確認できず、闘技大会での襲撃の意図が分からずにいる」
第三部隊長のルディが口を開く。
「何回もいっているが、やはり奴らの目的は歌姫の強奪じゃないか?」
ルディの言葉に否定的な意をだしたのは、第二部隊長のエルマンであった。
「しかし、それにしては幹部達が襲撃してきていない。同時刻に他の場所で襲撃もない」
第五部隊長のステインが他の推測を話し出す。
「やはり、実力者の集まる闘技大会でこちらの戦力を見極める魂胆だったのではないかの?」
それにもエルマンは反駁した。
「だがそれにしては大胆過ぎる。セントレイスに大々的に攻め込むより、少数で偵察した方がリスクもないだろう」
第四部隊長のシアンが苛立ち痺れを切らす。
「こんな結論のでないことを話していたって無駄な時間だ。今すぐにでもルーインに攻め込むべきです!」
再びエレリオが答える。
「まぁ焦るなシアン。奴らはファンディングに来る手段を確立しているが、我々が次元を越えるにはそれ相応の準備と人員が必要だ。それには時間もかかる。遠征部隊がいつでも帰ってこられるように、次元解放は乱用するわけにはいかない」
第一部隊長のラヴァルは堅実な提案をした。
「どんな理由にせよ、あの大掛かりな奇襲以降、今まで襲撃がないのは不気味だ。時間を空け、こちらが油断するのを待っているかもしれない。このまま警戒態勢を怠らない方がいい。それに、第二支部の皆にもいつでも応援に来てもらえるように準備してもらっていた方がいいだろう」
シアンは、そんな硬い話し合いに意味はないといわんばかりに声を荒げる。
「第二支部の奴らなんかに助けを求める必要はない! 俺が一人で殲滅してやる!」
エレリオが話をまとめ始めた。
「ここはラヴァルの言う通り、第二支部にも戦闘態勢を維持してもらおう。もうすぐリリーとアリスの大規模なコンサート、そしてそのすぐ後にはティナのコンサートも控えている。そのコンサートにはナナという新しい四凰の歌を秘めた子をデビューさせるつもりだとティナから聞いている。奴らがそのどちらかのタイミングで再び攻め込んでくる可能性はかなり高いだろう」
「チッ、後手に回ってばかりでどうするんだ……」
自分の意見が通らず、シアンは一人苛立ちをつのらせる。
「シアン! 俺達の役目を見失うな! 俺達グロースの戦士は、ファンディングの安全を守るのが役目だ。戦いを求め周りとの統率を乱す者は隊長に相応しくないぞ!!」
ラヴァルは無鉄砲なシアンを怒鳴りつけた。
「……すみませんでした」
不服ながらも謝罪するシアン。
エレリオもシアンに声をかける。
「まぁシアンの気持ちは良く分かる。だが何にせよ、今は警戒態勢を維持したまま普段通りの職務に取り組んでくれ。皆には苦労をかけるが宜しく頼む」
「了解しました!!」
解散する隊長達。
グロース本部の屋上で一人シアンが佇んでいた。
(どいつもこいつも守ることしか考えていない……弐王にさえなれれば俺も自由に戦うことができる。そもそも組織に縛られる必要があるのか……?)
考え込むシアンの元に一人の女性が歩いてくる。
「ヤッホー! 隊長! なに一人でふて腐れているんです?」
「ルル……」
やってきたのは第四部隊 隊長補佐 ルル=リーフィアであった。
「元気ないですね?! 何かあったならこの相棒であるあたしにどんと相談してください!」
「うるさいからどっかいってろ……」
「つーめーたーいー!! 隊長! ここは極寒でやんすか?! この太陽のようなあたしがいるのに何ですかこの南極点は!!」
ルルの言葉にシアンが笑みを浮かべる。
「たく、本当に騒がしいなお前は……飯でも食いに行くか?」
「飯とな?! 今度は急にデートの誘いですね~。隊長はいけずですね~」
「……」
無言で歩き出すシアン。
「ちょっ! 待って下さいよ隊長~! ラーメン奢ってくださーい!」
(本当、こいつといると考えている自分が馬鹿らしくなる……)
それから三日。
リリーとアリスのコンサート当日。
セム・ステラはグロースの隊員達で厳重に警備されていた。
「何だいこの兵隊の数。楽しいコンサートなのに、お客さんがびびっちまうよ」
リリーが不満を垂れる。
「仕方ない。今日はルーインから襲撃が再びあってもおかしくないからな」
ふて腐れたリリーを、ロランは宥めるように答えた。
「そんなのロランがいれば十分じゃない。それに、クロエとティナも見に来るっていっていたから、セム・ステラの警護なんていらないでしょ」
「そう怒るな、グロースにも立場があるんだ」
膨れるリリーにロランも手を焼いていた。
そこへ真っ白なドレスで着飾ったアリスがやってくる。
「リリーさん! 今日は宜しくお願いします!」
「アリスー! 可愛いじゃないか! 衣装似合っているよ! レオは一緒じゃないの?」
「ありがとうございます! レオは周辺の見回りをしてからこっちに来るみたいです」
「さすがレオね。愛しのアリスに何かあったらいけないからね~」
「愛しって、恥ずかしいですリリーさん」
「ふふ、可愛い。あまり緊張はしてないみたいだね?」
「はい、コンサートは初めてじゃないので大分落ち着いてます」
リリーがアリスの頭を優しく撫でる。
「よし、それじゃあコンサートの最中は私のことをリリーさんじゃなくてリリーと呼びな」
「えっ!? そんな、それは無理です!」
「駄目よ。ステージの上では歌姫は皆同じアーティスト。そこに師弟の関係なんて存在しないわ」
アリスは緊張で固くなっていた。
「そんなこといわれると緊張します……」
「なに甘えているの! ステージの上ではアリスの子守りなんてしないわよ! 私を越えるつもりで歌いなさい」
アリスは目を閉じ──大きく深呼吸をする。
「頑張ります……いえ、頑張るねリリー!」
「その調子よ! さぁもうすぐ開幕よ」
セム・ステラには大勢の観客が開幕を待ちわびていた。
開幕のカウントダウンが始まり会場が熱気に包まれる。
カウントダウンが五秒を切ろうとした時、レオがアリスの元に駆けつける。
「はぁ……はぁ……間に合った。アリス!!」
レオに気づいたアリスは、安心したように吐息をこぼした。
「思いっきり歌ってこい!!」
レオの言葉に、アリスはウインクで返事をする。
幕が上がり──コンサートが始まった。




