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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第1章 始まりの歌
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第22話 四凰の歌

 闘技大会での襲撃から一週間。

 あれからは特に何も起きず、未だに襲撃の意図が分からずにいた。


「おはようございます」


 闘技大会が終わってからも、カイトとナナは相変わらずクロエ達の家で住み込みの修行を続けている。


「カイトおはよ!」

「おはようカイト君! 闘技大会では色々あったけどもう落ち着いた?」


 ここ数年、セントレイスが直接的に大規模な襲撃を受けたことはなかったため、戦場に慣れていないカイトは強い不安感に苛まれていた。

 朝御飯の準備をしていたティナとナナは、椅子に腰かけたカイトに暖かいお茶を出す。


「はい。結局何が目的で奴らは襲撃してきたのでしょう?」

「それが分かったらグロースのお偉いさん達は頭悩ましてねーよ」


 一口お茶を含むと同時に玄関の扉が開き、外からクロエが帰ってきた。


「クロエさん、おはようございます! 朝から何処に行っていたのですか?」

「色々とな。カイト、今日は俺に付き合え」

「俺ですか? クロエさんが俺に用事なんて珍しいですね」


 クロエの呼び出しを聞いて、ティナは何か察したように微笑みを浮かべる。


「ティナさんは何か知っているのですか?」


 ティナの顔を見て、ナナが不思議そうに尋ねた。


「何となくね。カイト君とクロエが二人で出かけるみたいだから、ナナちゃんは私とお出かけしない?」

「はい! 分かりました!」


 朝ご飯を食べ支度を終えると、カイトとクロエはすぐに準備を終えて外に出る。


「よし、行くぞカイト!」

「はい! どこに行くのですか?」

「すぐそこだよ」

「?」


 未だに何をするか分からず、カイトは一人困惑した。


「いってらっしゃい」


 クロエ達を見送るティナとナナ。


「さて、多分クロエ達はしばらく戻らないだろうから、私達もちょっとお出かけしましょうか」

「はい! 私達はどこに行くのですか?」

「すぐそこよ」

「えっ?」


 クロエと同じような言葉を、ティナは笑いながら返した。



 家から少し離れた広大な森林に着くクロエ達。


「ここが目的地ですか?」

「そうだ」


 特になにかあるわけでもない森林。

 何故この場所に来たのか検討もつかなかった。

 唯一目で確認できたのは、周り一面の木々には謎の傷が沢山ついていたことだ。


「傷だらけの木ですね。もしかして、何かの討伐にでも?」


 剣を作り出し、突然木に向かって斬撃を飛ばすクロエ。

 しかし、クロエの斬撃を受けても木には傷一つ入らなかった。


「急にどうしたのですか?! それにクロエさんの斬撃を受けたのに、木が全く傷ついていない?!」

「ここの木々は、地脈から膨大な創遏を吸い上げていて異常なまでの強度を持っている。俺の斬撃でも生半可な力では傷一つ入らんさ」

「こんな場所があったなんて。その木々がこれだけの傷を……一体何者が……?」


 首を傾げるカイトであったが、クロエの回答に困惑が増す。


「この木の傷跡は全部俺がつけたやつだよ」

「えっ!? どういうことですか?!」

「この森は、俺が全力を出しても崩壊することはない。俺の修行場所だ」

「クロエさんの修行場所?! クロエさん普段お酒ばっか飲んでいるのに、何時修行なんてしているのですか?!」

「昔の話だバーカ。ここに連れて来たってことはどういう意味か分かるな?」

「……」


 カイトに緊張が走る。

 自然と手に汗がにじみ、昂る心に思わず生唾を飲み込んだ。


「剣を構えろ。俺を殺すつもりでかかってこい。今日から毎日、俺と真剣で組手だ」


 クロエの言葉に、カイトは思わず顔がにやけてしまう。


「やっと……やっと、クロエさんが俺に修行をつけてくれるのですね」

「俺はティナみたいに優しくないぞ」

「望むところです!!」



 一方、いつも歌の練習をしている花畑にやってきたティナとナナ。


「さて、今日から本格的にナナちゃんの歌のレッスンを始めようと思うんだけど、ナナちゃんはどうかな?」

「本当ですか?! でもカイトの修行が……」

「クロエがカイト君を連れ出したってことは、今日からカイト君の修行はクロエにバトンタッチね」

「そういうことだったのですか! 遂にカイトがクロエさんに認めて貰えたってことですね!」


 ナナは自分のことのように嬉しさを表にだした。


「この前の闘技大会での成長を見て、クロエもカイト君の潜在能力と頑張りを認めたようね。それにカイト君だけじゃない。私はナナちゃんのことも認めているよ」

「……私がティナさんに」


 ティナに誉められ、ナナは恥ずかしそうに顔を下げた。


「ナナちゃんには間違いなく歌姫の素質がある。しかも私やリリー、アリスちゃんと同じくらい、もしくはそれ以上のね」

「そんな! さすがに大袈裟過ぎますよ!」

「私の眼は節穴じゃないわよ、自信を持ちなさい! それに歌姫の力は使い方を間違えるととても危険な作用があるの」


 歌に危険がある。

 その言葉に、ナナの表情は急激に強ばった。


「歌が、危険……ですか?」

「歌姫の力の中でも、もっとも強力といわれている四つの力。四凰(しこう)の歌」

「……四凰(しこう)の歌?」

四凰(しこう)の歌には私の『(いやし)』。リリーの『鼓傑(こけつ)』。アリスちゃんの『再生(さいせい)』。そしてナナちゃんの内に秘めた『統率(とうそつ)』があるの」

「わ、私にそんな力があるのですか?!」

「初めはまさかとは思ったのだけれど、キルネがナナちゃんに目をつけたことで確信に変わったかな」


 最近の出来事を思いだすと、ナナは無意識に小さく震えた。

 それはまさにティナの言葉を証拠づける、確かな事実であったからだ。


「そんな……でも、何でその力が危険なのですか?」

「それぞれの力を正しく制御できている内は大丈夫なんだけど、誤って力の制御を間違えると大変なことになるわ。私の歌は、傷を癒すことができ、力を限界まで使えば死後間もない人を蘇らせることもできる。だけど一歩間違えれば、蘇った死者は肉体が魂と同化せず体が崩壊してしまう。治した傷も加減を間違えると、過度の治癒に耐えきれず逆に腐敗してしまう。リリーの歌は、聞く者の力を増大させるけど、力を上げ過ぎると肉体についてこれず精神が暴走してしまう。アリスちゃんの歌は物質を復元することができるけど、力を誤れば原子崩壊が起きる。人間や物を塵にすることができるかも……」

「そんな力が歌に……私には一体どんな力があるのですか?」


 ティナの話を聞き、ナナの顔は更に強張っていく。


統率(とうそつ)の歌には、人々の心やエネルギーを繋ぐ力があると聞くわ。だけどそれは生命の自我を奪い、破滅へと追いやる恐ろしい力かもしれない」

「……私、歌はない方がいいのでしょうか? そんな怖い力を制御できるとは思えません……」


 (うつむ)いたまま、ナナは恐怖に涙を浮かべる。

 自身に眠る力に自覚がない分、恐怖は何倍にも膨れ上がっていた。


「だからこそ、正しい力の使い方を覚えるのよ」


 震えるナナを、ティナは優しく抱き寄せた。


「人にはそれぞれ才能があるの。それは、望んでも望まなくても産まれたその時から決まっている。そしてあなたには歌の才能がある」

「私はただ……歌が好きなだけです……」


 涙を抑えきれず、ナナは泣き崩れてしまう。


「私も四凰(しこう)の歌が自分に秘められていると知った時、とても怖かった。凄い悩んだよ。でもその力を自覚し、世の中のために歌うと覚悟したわ」


 ナナの涙を優しく拭き取ると、ティナは目を合わせるように顔を寄せた。


「でもね、私の中にある一番大切なことは、今でも歌が大好きだってこと」


 ティナの優しい笑顔は、ナナの恐怖を飲み込んでいく。


「歌が好きだって気持ち、いつも忘れないで」


 ナナはティナの想いを感じとり、涙を堪えながらティナの目を強く見返した。


「私も、みんなのために歌えるようになりますか?」

「ナナちゃんはきっと立派な歌姫になれるよ」


 溢れてくる涙を必死に堪えていた。

 それは決して我慢しているからではない。

 この人の想いに答えたい、そんな感情がナナの涙を抑え込んでいた。


「私に力の使い方を、歌を教えて下さい!」


 決意に満ちた顔を見て、ティナは小さく頷く。

 ナナの決意と同時にそよ風が吹き、彼女を応援するかのように花がゆらゆらと優しく舞い踊った。


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