第19話 誇り高き女騎士
ルディ=スタイン
現三番隊 部隊長であり、グロースの女部隊をまとめあげている女性兵の憧れの的である。
幼い頃から戦いの才能に溢れていたにも関わらず、女であるがゆえに男達から見下され続けてきた。
実力を中々認めてもらえなかったために、プライドの高い彼女は大の男嫌いであり、そのため現三番隊は女性だけで統一されている。
しかし、ルディに実力が無かった頃から才能を見出し、彼女を評価し、周りに彼女を認めさせたのが他でもない、クロエであった。
そんなクロエには唯一心を許し慕っていた。
完璧主義で誇り高いルディにとって、クロエは数少ない弱点の一つ。
そう、彼女はクロエに惚れているのだ。
闘技場で向かい合うクロエとルディ。
「ルディと試合をするのはかなり久しぶりだな。少しは強くなったか?」
「それはやってみれば分かるでしょ? 手を抜くんじゃないよ」
「まぁどんなに頑張っても制約の指輪があるからな。二割の力しか出せないから、手加減しているのと変わらないな」
からかうようにクロエは笑って答えを返す。
「それならそんな指輪、私が壊してあげる」
「そこまで俺を追い詰められたらな~」
試合開始の合図が鳴り響く。
「いくよ! クロエ!」
ルディは自分の周りに無数の剣を作り出すと、それぞれを遠隔操作し、次々とクロエに向かって飛ばす。
「相変わらず創成メインの戦い方みたいだな」
数百はあるであろう剣が、間髪入れずに空を飛び回る。
クロエは瞬時に剣を作り出し、飛んでくる数多の剣を軽々と全て叩き落としてみせた。
しかし、叩き落とされた剣はすぐに浮かび上がり、再びクロエに向かって飛んでいく。
ひっきりなしに飛んでくる剣を全ていなしながら、クロエはルディへ向かって一直線に走る。
「これだけの数の武器を同時に操るとは、流石だな!」
「それを簡単にいなしてこっちに向かってくるあんたは大概だよ!」
あっさりと距離を詰めたクロエは、容赦なくルディに斬りかかった。
近距離で剣を交えながらも、無数の剣をルディが冷静に操り、手数でクロエを圧倒する。
そのあまりの勢いに、クロエは咄嗟に上空へ回避すると、反撃をしようと剣を構え直す。
「甘いよ!」
クロエが叩き落とした剣で地面に傷をつけ、魔法陣を作っていたルディ。
その魔法陣がルディの法遏によって光を灯すと、上空のクロエに向かって大量の稲光が飛んでいく。
「くっ……」
稲光を超高速で避けるも、クロエは左腕に一撃もらってしまう。
「驚いたな。法遏が苦手だったルディがこんな戦法を使ってくるとは」
「いつまでも自分の苦手なものを克服しないのは、弱い奴のすることだよ」
追い討ちをかけようとするルディ。
しかし、クロエは一段階ギアを上げ、一瞬でルディの背後をとる。
「でも、俺のことは相変わらず苦手なんじゃないのか?」
ルディの髪をクロエが優しく撫でる。
「?! やめろっ!!」
顔を赤くしながらも、ルディは咄嗟にその手を払う。
大勢の観客を前に、クロエの軽率な行動はルディの怒りを買った。
「私の気持ちを知りながらからかうなんて、最低な奴がすることだ!」
ルディが涙を浮かべながら剣をクロエに突きつける。
それを見ていたティナは、観覧席でクロエの行動に激怒していた。
「ルディにあんなことして……女の心を弄ぶのは絶対に許さないっていつもいっているのに。試合が終わったら覚悟しなさいよクロエ……」
ティナの逆鱗を見て、ナナは震え上がる。
(ヤバい……ティナさんがこんなに怒っているの初めて見た……)
クロエはルディから少し距離をとった。
「悪かったよルディ……ごめんな」
「クロエがティナ一筋なのは十分に分かっている。私の気持ちが叶うことなんてない」
ルディが一気に距離を詰め剣を振るう。
「それが分かっているなら、俺なんか想ってなくてもいいんだぞ。それに俺がティナからルディに乗り換えようとする男だったら嫌だろ?」
ルディと剣を交わしながらクロエが答える。
「そんな男だったら好きになんてなっていない! クロエがそんな男じゃないのは良く知っている!」
「なら尚更だ。他に良い男を見つけろ! お前みたいな良い女はなかなかいない。俺だってティナがいなかったら惚れていたかもしれない」
「そういう気を使ったような優しさが、余計に人を傷をつけるのよ! 私は自分が惚れた男が私のことを見てくれなくても構わない!」
ルディは、いつも仲良く手を繋ぎ歩くティナとクロエを遠目で見ていた。
「私は、クロエとティナが幸せならそれでいいのよ!」
クロエに渾身の一撃をルディが放つ。
それを正面から受け、クロエの胸からは血が滴り落ちた。
「やっぱり……お前は大した奴だよ」
顔つきが真剣になったクロエは、先程とはまるで別人であった。
「お前の気持ちには戦いでしか応えてやれないからな。今出せる全力でお前を倒す」
クロエが創遏を制約の指輪の制限ギリギリまで一気に高めると、黒いオーラがクロエを纏い、膨大な創遏がルディを圧倒する。
「ルディ……いくぞ」
剣に黒い創遏を纏わせ、クロエの強烈な一撃がルディに襲いかかる。
クロエの一撃を咄嗟に防御するも、圧倒的な力に防ぎきることができない。
ルディの体は一瞬で傷だらけになり、その場に倒れてしまった。
「試合終了! 勝者、クロエ!」
クロエ勝利のアナウンスが入り、医療班がルディの元に駆け寄る。
しかし差し出された医療班の手を払い、なんとか自力でルディは立ち上がる。
「次は……私が勝つからね」
「ああ、またやろうな」
最後は二人とも笑顔であった。
クロエが闘技場から戻ると、怒りに満ちたティナが腕を構え立っていた。
「あの、ティナ、さん……その……」
額から冷や汗が次々と流れ落ちる。
クロエはこれまでにない殺気をティナから感じ取っていた。
「……正座しなさい」
「……はい」
怒涛のティナの説教に頭の上がらないクロエ。
ルディはそれを見て笑っていた。
「ティナ、それぐらいにしてあげて」
「ルディ……ごめんなさい」
「いいのよ、クロエがどんな人か良く知っているから」
目を合わせ軽く微笑みあう二人。
「クロエと仲良くね、ティナ」
「……ありがと」
手を振って去っていくルディ。
ルディが去っていったのを確認したティナは、クロエを鋭い眼光で睨み付けた。
「すみませんでした」
クロエは土下座姿のまま謝りをこう。
「全く、次は本当に怒るからね」
(十分怒っていたじゃねーか)
「何か言った?」
「いえ……何も言ってません」
カイトは耐えきれず隣で笑いを溢す。
「クロエさんにも弱点がありますね」
「うるせー。カイトももうすぐ試合だぞ、死ぬ準備はできているか?」
「死ぬってどういうことですか!」
「ロラン兄は厳しいぞ~」
医療センターから戻ってきたレオがカイトに忠告する。
少し離れた所で精神統一し、気合を入れるロラン。
その真剣な顔を見て、カイトは肝を冷やした。
「何とか生きて帰って来ます……」
Bブロック 第三試合 カイトVSロラン まもなく開始。