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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第1章 始まりの歌
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第18話 レオの戦い

 ──決勝トーナメントの始まりを告げるファンファーレが会場に鳴り響く。

 それを聞いた観客達は、盛大な歓声をあげて戦いの始まりを待っている。

 そして、その興奮止まぬ気持ちをさらに高めるように、巨大な掲示板へ試合内容が反映された。


【決勝トーナメント Aブロック 第一試合】

 レオ=バルハルトVSステイン=デモテール


「レオ、勝てよ!」

「おうっ!」


 カイトは、闘技場に向かうレオに激を飛ばして見送った。

 どことなく固いレオを心配してであったが、その思惑は当たっている。

 予選では隊長格と戦うことがなかったため、レオは予想以上に緊張していたのだ。


(ロラン兄にずっと修行をつけてもらって、ロラン兄からも隊長達と肩を並べる実力がついてきたと言われたことはあるが……実際に、隊長格と戦うのは今回が初めてだ)


 レオの対戦相手、ステイン=デモテール。


 第五部隊長のステインは、現在グロースに所属する人間の中でも、戦闘顧問をしている元グロース最高司令官グラスに次いで、二番目の古株である。

 創遏の中でも、武器や物を作り出す創成(ソウセイ)、自分の力を底上げする活遏(カットウ)を一切鍛えず、自然の力を操る法遏(ホウト)に超特化したのが第五部隊。

 その隊長である彼は、法遏の最高位称号である大天魔導士を取得している唯一の人物だ。


(大天魔導士。法遏だけだったら、クロエ兄やロラン兄にも引けを取らないと噂されている。さて、どう戦うか)


 闘技場で対面する二人。

 戦いに対する意気込みは、正反対であった。


「やれやれ、若いのや。これは親善試合じゃぞ? そんな怖い顔をして気負い過ぎんと、気楽に楽しもうや」

「年期の入った爺さんは余裕があるかもしれないが、あいにく俺は勝ち上がるのに必死なんでね」

「若いのぉ~」


 二人が戦いの構えをとる。

 それと同時に試合開始の合図が鳴り響いた。


 その瞬間、レオは剣を作り出すと超高速でステインの背後へ回り込む。


(法遏特化ならこのスピードについてこれないだろ!)


「もらった!!」


 剣先は、躊躇なくステインの背中を突き立てた。


「ふぉっふぉっ、なかなかのスピードじゃの~」


 レオの剣が背中に深々と刺さっているのに、ステインは顔色一つ変えず平気そうに笑ってみせる。

 そんな不気味な笑み以上に、レオは途轍もない違和感を手に感じていた。


「なっ、手応えがない?!」

「次はワシの番じゃの」


 ステインが詠唱を始めると、レオの周りに炎でできた球体が無数に現れる。

 一つ一つは拳ほどの大きさだが、獄炎とも呼べる強烈な熱量に、周囲の温度は急上昇。

 地表からはゆらゆらと湯気が立ち上り始めた。


「いくぞぃ!」


 ステインが杖を振りかざすと、炎の球体は空を踊るように淫らに駆ける。

 それは猛烈な連続攻撃に変化していくが、そのくらいでレオが怯むことはなかった。


「こんなものでやられるかよ!」


 レオは剣を強く握ると、圧巻の剣さばきで無数の球体を全て叩き落としていく。


「やるの~。これならどうじゃ?」


 更に新たな炎の球体が作り出される。

 今度はそれと同時に、いくつもの巨大なサイクロンを作り出し、ステインは追い討ちをかけた。


「なめるなよ爺さん!!」


 創遏を一瞬だけ爆発的に高めると、レオは周辺の法遏を己の圧力だけで消し飛ばす。


「くらえっ!」


 法遏を消し飛ばすと同時にレオがステインに向かい飛び込み、その胴を横凪で斬り払う。

 しかし、レオの剣はステインの体をすり抜け空を斬った。


「……?! これはまさか……」


 レオは自分に起きている異変に気がついた。


「ほっほっ、ようやく気づいたかの」

「幻覚法遏。しかもこれは……人間の感覚神経全てに作用する、かなり高度な幻覚法遏だ」

「さよう。試合開始と同時に飛びかかってきそうだったのでのう、感覚神経を支配させてもらったわい」


(くそったれ……こんな高度な法遏を試合開始と同時に、あの一瞬でかけてきやがったのかよ。これが隊長格の実力か……)


 幻覚を見せられていたレオは、自分ではステインと戦っているつもりであった。

 だが実際に周りの観客から見たら、レオがただ一人で剣を振るっているだけだ。


 控室で戦いを見ていたクロエ達は、異変の正体にすぐ気がついていた。


「法遏爺にいいようにされているな。レオの奴、大丈夫か?」


 クロエが尋ねると、ロランは腕を組んだまま戦いを冷静に見つめていた。


「法遏を主体で使う相手とはまともに戦ったことがないからな。ただ、レオに修行をつけているのはこの俺だ。あんな程度で負けてもらっては困るな」


 ステインはレオを翻弄しながら、様々な属性法遏を浴びせていく。

 火が渦巻き、風が斬り裂き、水流が体を押し潰す。

 数多の法遏を連続で受け、レオは身体中が傷まみれになっていた。


「さて、そろそろ終わりにしようかの……」


 ステインがレオの頭上に巨大な魔法陣を作り詠唱を始める。


(くそっ。目の前で詠唱している爺が本物なのか、それとも囮なのか、どっちかわからねぇ……)


「考えても分からねーなら、見えてるもん全部ぶった斬ってやる!」


 レオはなりふり構わずステインに特攻するしかなかった。


「判断が遅いぞぃ。これでもくらいなされ!」


 頭上に作った魔法陣に光が集い、超高質量のレーザーがレオに向かって降り注ぐ。


「ぐぁあぁぁー!!」


 ステインの法遏をまともに受けたレオは、その場に崩れ落ちる。

 勝利を確信したステインは後ろを振り返り、悠々と闘技場を去ろうとした。


 しかし、レオはふらつきながら無言で立ち上がる。

 その体からは、黄色がかったオーラが溢れ出始めていた。


「なっ! あの一撃を受けてまだ立ち上がるのか?!」

「うらぁぁぁ!!」


 レオが気合いの入った大声を上げると、創遏を更に激しく滾らせる。

 その力は、ステインの幻覚法遏を無効果するほどであった。


「ワシの法遏を自力で解除しおった?!」


 レオから溢れ出た創遏にステインが圧倒されてできた一瞬の隙を、彼は見逃さなかった。


「もらった!!」


 再び一瞬で背後に回ると、ステインの体を渾身の一撃が貫いた。


「ぐはぁっ……」


 背中を斬り裂かれ、ステインはそのままの勢いで地に伏せる。


「俺を甘くみたのがあんたの敗因だ」

「全く、なんてタフな坊やだ……」

「確かにあんたの一撃は強烈だった。だがな、俺が普段相手にしているロラン兄の一撃はもっと強烈だ。勝ち方としては納得いかないが、今回は俺の勝ちだ」


 ステインが降参を宣言。

 同時に、試合終了のアナウンスが会場を盛り上げた。


 第一試合 勝者 レオ=バルハルト


 フラフラになりらがらも、レオは一人で歩いて控室に戻ってきた。


「傷だらけだな、みっともない。まだまだ修行が足りてないぞ!」


 帰ってきたレオに、ロランは容赦のない喝を入れる。


「そんなこと言われなくても分かってるよロラン兄。俺はなんとしてもクロエ兄とやりたかったんだ」


 二人のやり取りを見て、クロエは嬉しそうに笑った。


「はっはっは、まあ良くやったよ。俺との戦いの前にしっかり傷を治してこい」

「分かった、クロエ兄負けるなよ!」

「負けるわけねぇだろ」


 医療センターに運ばれるレオ。

 その姿を見ていたカイトは、決勝トーナメントのレベルの高さに圧倒されていた。


「レオですら……あんなに手こずるのか。しかも俺の相手はロランさん」

「何をビビっているんだカイト! ティナやナナも見ているんだぞ、シャキッとしろよ!」

「そ、そうか、ティナさんやナナも見ているんだ。俺も頑張って良いところ見せないと」


 震えるカイトの背中をクロエが叩くと、子犬のようにビクッと跳ねる。

 それを見ていたロランは、思わず微笑した。


「それよりもクロエ、次の次はお前の試合だろ? そろそろ準備しておけよ」

「あーそうだな、相手はルディか」


 対戦相手の噂をすると、クロエの元にルディがやってきた。


「久しぶりだねクロエ。相手が私だからって、手を抜くんじゃないよ」

「相変わらずツンツンしてるな~。もっと甘えてきてもいいんだぞ~」

「うるさい!!」


 クロエにからかわれ、頬を赤くするルディ。

 その光景を見てカイトがロランに尋ねた。


「あの人は第三部隊 隊長のルディさんですよね? 男嫌いでプライドが高いって聞いていたのですけど、クロエさんとは仲良さそうですね」

「あ~、ルディはクロエに惚れているからな」

「惚れてるわけないだろ!!」


 ルディが咄嗟に反論する。

 その頬は更に赤く染まり、まさに純粋な可愛らしい一人の女性。

 先程まで纏っていた隊長としての風格は、クロエを前に意味を失くしていた。


「今日こそは私が勝つからね!」

「はいは~い、頑張ってね~」


 第三試合 クロエVSルディ


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