第17話 決勝トーナメント
ラヴァルとの戦いを終え、カイトは医療センターで傷を治していた。
そこへレオがやってくる。
「カイト! ラヴァルに勝つなんてやるじゃないか!」
「あれは勝ったって言えるのか? 向こうが勝手に降参してくれただけで、俺は全然歯が立たなかった」
「過程はどうあれ勝ちは勝ちなんだから素直に喜べよ!」
困惑するカイトの肩を、レオは笑いながら叩く。
年下とは思えない図々しい態度にため息を返すと、カイトは次の対戦の話題に触れた。
「レオの次の相手は誰なんだ?」
「俺の相手は第四部隊の副隊長、ドラグ=トーラスだな。元々は第四部隊の隊長だった人だから、副隊長の中ではかなりの実力者だよ」
「元々隊長だったのに副隊長に降格したってことは、今の第四部隊長はとんでもない実力者なのか?」
レオは軽く頷くと、少し真剣な面持ちで話を返す。
「現第四部隊長のシアンは、戦いの天才といわれているからな。カイトが今十八歳だろ? シアンは十七歳の頃に隊長へ昇格しているからな。今は二十歳にして既に隊長三年目の化物だよ。世間からは将来の弐王とまでいわれているし」
「それは凄いな……」
「まぁ、本当に凄いのはドラグさんなんだけどな。自分よりも大分年下の餓鬼の実力を認め、必死に手に入れた隊長っていう肩書を捨てて二番手に徹しているんだから」
「自分のプライドを捨てるのは、レオには絶対に真似できないな」
レオの素直な姿を想像し、カイトは思わず笑ってしまった。
「それはカイトもだろ! どっちにせよ俺は二回戦、三回戦もクロエ兄と当たるまでは、苦戦してみっともないとこを見せるわけにはいかないからな。カイトも頑張れよ!」
「おうっ!」
その後も大会は予定通りに進み、二回戦、三回戦と試合が終わっていく。
宣言通りレオは二回戦で当たったドラグを圧倒する力を見せつけ勝利。
三回戦も危なげなく勝利し、決勝トーナメントまで勝ち進む。
カイトは二回戦、三回戦ともに副隊長以下の選手と当たり、苦戦しながらも修行の成果を存分に発揮し勝利。
無事に決勝トーナメントまで勝ち進むことができた。
ナナとアリスも二人の活躍を観覧席で見守り、決勝トーナメント進出が決まると、飛び跳ねながら喜びを分かち合う。
「やりましたねナナさん! カイト君も決勝トーナメント進出ですよ!」
「うん! レオ君も流石だね!」
カイトの成長を見て、ティナは嬉しそうに微笑んでいた。
「二人ともやったね! でも本当の実力を試されるのはここからよ」
その言葉に、ナナは少し不安そうな顔をする。
「そうですよね。決勝トーナメントからはクロエさんやロランさん、それに大会を勝ち進んだ隊長や副隊長格の人達が相手になるのですよね」
「カイト君がラヴァル以外に隊長格と当たらなかったのは運が良かったわね。だけど、ここからはその人達を避けることは出来ないからね」
決勝トーナメントの準備が進められるステージを見ながら、ナナはティナに質問した。
「決勝トーナメントの相手はいつになったら分かるのですか?」
「この後、くじ引きで対戦順が決まるわ。まずは二ブッロクに分かれ、一対一の勝ち抜き戦が行われる。最後に残った、各ブロックの二人で決勝戦だね。カイト君はシード枠にロランがいるブロック。レオ君はクロエがいるブロックだから、カイト君とレオ君は決勝戦でしか当たらないわね」
決勝トーナメントの抽選会場についたカイトとレオ。
周りには各隊長や副隊長、クロエとロランが立っていた。
クロエを見つけるや、カイトとレオは手を振りながら駆け寄る。
「クロエさん!」
「おー! カイト! まぐれで勝ち残れたな」
クロエは笑いながらカイトをおちょくった。
「まぐれでも勝ち進んだんですからいいじゃないですか!」
「クロエ兄!」
「レオ! また強くなったな! まだまだ俺の相手には不十分だがな」
子供のように扱うクロエに、レオは拳を突き立てて精一杯の抵抗を見せる。
「油断してるとボコボコにしてやるぞー!!」
「おーおー、やってみろ」
クロエとレオがじゃれあっていると、そこへロランが歩いてきた。
「レオ、あまりはしゃぐな……」
「ロラン兄、だってクロエ兄が~」
「まったく。クロエももっと真面目にやれ」
「ヤダヤダ真面目君は」
ロランははしゃぐ二人に渇を入れると、カイトの前に立ち手を差し出した。
「初めまして、君がカイト君だね」
「初めまして! 弐王のロランさんに会えるなんて光栄です!」
握手をしながら、カイトは緊張していた。
クロエと同じ弐王の称号を持つロランが目の前に立っている。
完全無欠ともいえるその強さは、全ての男達の憧れなのだ。
「クロエとティナが弟子を引き受けたと聞いてね、君には会いたいと思っていたんだよ。もし対戦することになったら良い戦いをしよう」
「はい! 宜しくお願いします!」
カイト達が話をしていると、エレリオが会場にやってきてくじ引きの始まりを合図する。
「皆の者、よく決勝トーナメントまで勝ち抜いた。くじ引きを始める前に、毎回のことだが少しルールを説明させてもらう」
創遏を使い、巨大な電光掲示板のようなものをエレリオが作り出す。
そこにトーナメント表を映し出し説明を始めた。
「決勝トーナメントは全十六名で行われる勝ち抜き戦。八名ずつのブロックに分かれ一対一で戦ってもらう。まぁ予選となにも変わらないのだが、シード枠であるクロエとロランには制限をつけさせてもらう。皆も分かっているとは思うが、二人は他者と力の差が圧倒的すぎるため、創遏を二十パーセントまでしか出せないように制約の指輪をつけてもらう」
カイトは驚き、口を開けたままクロエに目を向ける。
「二十パーセントですか?! クロエさん大丈夫なんですか?」
「何も問題ないな。むしろ十パーセントくらいまで抑えたほうがいいんじゃないか?」
笑いながら答えるクロエを、第四部隊長のシアンが睨みつけていた。
「おー、最近の若いのは怖いな~」
「クロエ。あいつを叩き落として俺が弐王になってやる」
クロエの挑発的な態度にシアンは苛立ち、敵意を剥き出しにする。
いらぬ争いが始まる前にと、エレリオは早々に抽選を開始した。
「さて、それでは対戦抽選を始めるぞ!」
順番にくじを引く選手達。
抽選結果が次々と電光掲示板に表示される。
Aブロック
第一試合 レオ=バルハルトVS第五部隊 隊長 ステイン=デモテール
第二試合 第四部隊 隊長 シアン=ペルザVS第二部隊 副隊長 テスラ=ラル
第三試合 クロエ=エルファーナVS第三部隊 隊長 ルディ=スタイン
第四試合 第二支部 支部長 サルト=アマーカスVS第五部隊 副隊長 リー=フー
Bブロック
第一試合 第二部隊 隊長 エルマン=サーチスVS第三部隊 副隊長 ミル=ランクス
第二試合 第一部隊 副隊長 リンド=メルシアVS第二支部 第二部隊 隊長 ボア=ファランクス
第三試合 カイト=ランパードVSロラン=グエリアス
第四試合 第二支部 第一部隊長 ジャニス=ルードVSグロース戦闘顧問 グラス=フルートル
レオはトーナメント表を見るや、カイトに笑いながら話かける。
「一回戦目に運がないなカイト!」
「いきなりロランさんかよ、絶望だ……」
項垂れるカイトの元にロランがやってきた。
その目は、無邪気とも思えるほどに生き生きと輝きを放つ。
「いきなり戦えて嬉しいよ。いっておくが、俺はラヴァルのように優しくないからな。宜しく頼む」
反対に、カイトの目は絶望に染まっていた。
「よ、宜しくお願いいたします……」
決勝トーナメント カイトVSロラン