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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
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第51話 求めたもの

 ロランの話を黙って聞いていたカイトは、あまりの緊張に息をするのも忘れていた。

 まだ話を続けようとするロランであったが、カイトの神妙な面持ちに話を一旦止める。


「大丈夫か?」


 話の流れが途切れた瞬間、カイトはぶはぁっと息を吐き、固まった緊張をほどく。

 日常の中ではクロエのお気楽な姿ばかり見てきたため、想像の数倍重たい話に、思わず返す言葉を失っていた。


「もうすぐ話は終わるが……どうする? やめておくか?」


 ロランが少し笑いながらカイトに話かけると、首を少し横に振って返事をする。


「意地悪を言わないでくださいよ。ここまで聞いて最後を聞かないとか、俺しばらく眠れなくなりますよ」


 真剣に言葉を返したつもりであったが、眠れなくなるといった言葉にティナは思わず笑いを堪える。

 そのまま笑いはナナやリリーにも伝染し、重くなっていた空気が一気に軽くなった。


「わ、笑わないでくれよ! ロランさん、それでその後はどうなったのですか?」


 恥ずかしくなってきたカイトは、話題を戻すようにロランへ質問を投げる。

 ロランが話を続けようとしたが、それよりも早く何かに気づいたティナが更に質問を上乗せした。


「ねぇロラン、七歳ってことは約二十一年前よね? もしかして……」

「ティナは流石に勘が良いな。史上最悪の戦争と呼ばれた世界第四戦争。その戦争は異色であった。襲撃された地域は跡形もなく消滅し、敵の姿を目撃した者はいない」

「……それって、まさか」


 ティナとロランの話に、カイト達の顔色が悪くなる。

 特にカイトにとってその真実は、何よりも辛いことであった。


「ラグレッド達が死んだことにより、俺とクロエが起こした暴走は親父とヒース以外に目撃者がいなかった。それを良いことに、今回の事件は全てルーインの襲撃と片付けられる。そしてこの事が火種となり、グロースを中心とするファンディングの精鋭部隊がルーインへと乗り込んだ。そして疑わしいといった曖昧な理由だけで、ルーインにあった一つの派閥であるサーネリア王国を殲滅したんだ」


 世界第四戦争の真実。

 半日ほどでファンディングの三割を滅ぼした最悪の戦争を引き起こした張本人は、クロエとロランである。

 当時はまだ七歳であったため、その時はよく分からない話であったが、それは歳を重ねるごとに二人の心を締めつける罪であった。


 勿論、それはクロエとロランが真に望んでやったことではない。

 産まれ持った巨大過ぎる力の代償である。

 だがルーインに罪を擦りつけたエレリオとヒースの行動は、我が子可愛さにやった身勝手だ。

 そしてそれを感情のまま容認したグラスにも大きな責任がある。


「俺とクロエは、ルーインに罪を擦りつけて生きてきた。今でもその罪の意識が心に襲いかかってくる。だが、もっと辛かったのは親父やヒースだろう。彼らは俺達を救うために、その後振りかかる途轍もない責務を全て背負ってくれた。だから俺達は決めたんだ。親父とヒースが繋いでくれた命、その全てを正義と平和のために使うと」


 戦争のきっかけ。

 それはカイトにとって他人事ではない。

 カイトは過去に戻り、後先考えずに起こした行動によって第五戦争の引き金を引いた。

 それだけではない。

 バンビーに上手く使われたことにより、間接的に始創の復活の手助けをしてしまっている。


 それなのに、神を殺し、たいした罪の意識もなくのうのうと生きている自分がどうしようもなく虚しくなった。

 クロエ達が如何に日々苦しんでいたか。

 それにすら気づかず、自分達が被害者だと善人ぶっていることにどうしようもない悔しさが込み上げてくる。


「……でも、クロエはいつも私のことを守るって。私を守るためなら、グロースだって滅ぼしてやるって。世界なんてどうだっていいって、いつも気楽に笑っていたよ」


 ティナは、分かりきっていたことをあえて口にした。

 それは何故か。

 ふと目に入ったカイトの震える拳の意味を、ティナは分かっていたからだ。


「……俺は馬鹿だから、自分の正義感を貫くことでしか罪に抗うことはできない。だが、クロエはそんな偽善が大嫌いだった。罪人であることを誰よりも受け入れ、それでもなおティナにその身を尽くした。だけど分かっているだろう? あいつがグロースを敵に回したことなんて一度だってない。あいつが世界のために戦わなかったことなんて一度だってない。いつも不器用にピエロを演じ、周りからの感謝は一切求めてこなかった。それがクロエの自分に決めた罪への誓いだ」


 カイトは俯いたまま、口を震わせて答えを求めた。


「クロエさんは……何を求めていたのでしょう。クロエさんと一緒に暮らすようになって、初めはなんて自由気ままに生きている人なんだって感じました。でもクロエさんは、いつも一人で強さを求めていた。誰にも見せつけず、ただ世界のために一心不乱に強さを求めていました。クロエさんは、強さの先に何を求めていたのでしょうか」


 ロランは立ち上がると、窓から空を見上げる。

 そこにいるはずがない兄弟を探すようにじっと見つめると、カイトに背を向けたまま答えてみせた。


「俺達が力を求めるのは、強くなりたいからではなかった。俺達が力を求めるのは、強すぎる力を制御したいからだった。クロエの創遏が黒を示すのは、自由に生きているからではない。きっと……強すぎる自身の力から、自由になりたいと願っていたからだろう」


(自由を……願っていた)


「カイト君。この話を聞いたことで、自分の過去に罪を背負う必要はない。それは決して恥じることではない。罪人……それはあくまで俺とクロエがたどり着いた答えだ。君にはそこを目指してほしくない。そんなことは、きっとクロエも望んでいない。過去に支配されるのではなく、未来を見据えてほしい。君にしかできないこと、それを探すんだ」


 ロランが話を終えると、薄暗くなった星空に一つの流れ星が煌めいた。

 何の意味もないただの流れ星。

 しかしその流れ星は、立ち止まる星光の中でどれよりも自由に空を駆けていた。


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