表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
161/167

第47話 二人の赤子

 ティナが目を覚ますと、ロランとリリーも安心したように肩を落とす。

 そんな二人を見上げると、ティナはペロッと舌を出してウインクをしながらおちゃらけた。


「二人もごめんね。心配かけちゃったね」


 不出来なウインクに、リリーはため息をついてあきれ顔になる。

 しかしリリーは気づいていた。

 霞んでいた瞳の奥に、いつもの力強い光が戻っていたことに。


「無理してるんじゃないよ。まぁ……その顔ができるなら、乗り越えられたみたいね」


 ティナは首を横に振ると、リリーの目を見て笑顔で答える。


「違うよ、私はまだ乗り越えられていない。そう……クロエの死はあまりにも大きすぎて、私一人で乗り越えることはできない」


 そのままカイトとナナを抱き寄せると、三人で顔を寄せ言葉を続けた。


「だから、三人で乗り越えるの。私には、頼りになる子がいるんだから」


 カイトとナナはきょとんと目を合わせると、溢れていた涙を拭い、笑顔でそれに答えた。


「そうですね。皆で強く生きましょう!!」


 ロランは三人を見つめると、椅子に腰掛け真剣な顔になる。

 今なら伝えても大丈夫だろうと意を決めると、とあることについて話始めた。


「ティナ、カイト君、ナナちゃん。今だからこそ俺から伝えておくことがある。クロエと俺の過去についてだ。それはクロエがヴェルモットとの戦いで見せた力も関係してくる。心が痛む話になるが、聞く覚悟はあるか?」


 カイトとナナは突然の話に驚いて固まったが、ティナはすぐに答えを返した。


「私も知らなかった力ね。ロラン、教えて。私は知りたい、クロエの過去に何があったのかを」

「俺達も知りたいです。いや、知っておかないといけない!」


 ティナに遅れてカイトとナナも大きく頷く。

 それを確認してロランは、ゆっくりと話を始めた。


「俺も一部は親父とヒースさんに聞いた話だ。この過去を知るものは、俺とクロエ。親父とヒースさん、それにグラスさんと当時のグロース上層部だけだった。まぁ、今となっては俺一人になってしまったな」



 ──話は今から約二十八年ほど前に遡る。


 何もない大地に小さな赤子が二人。

 温もりを求めるように泣き叫ぶ赤子の周囲は、見渡す限り荒れた大地が続く。

 そこに現れた一人の男は、その光景に息を飲んだ。


「なんだこれは……ここには、間違いなくオリバーの街があったはずだ。一体、何が起きたっていうんだ」


 セントレイスから遥か北の大陸。

 ファンディングでは、セントレイスについで四番目に大きな街『オリバー』。

 ある日、突然その街が跡形もなく消えた。


 事件は前触れなく起きる。

 大地を大きく揺らす地震が突如発生し、ルーインの大規模な襲撃を疑ったグロースは、地震発生地であったオリバーの緊急調査を決定した。

 その筆頭指揮に選ばれたのが、当時一番隊副隊長に就任していたエレリオであった。


 エレリオは隊を率いてオリバーを目指すと、あり得ない風景に激しく取り乱す。

 何度かオリバーに来たことはあったが、空を飛びどれだけ進めど、その街並みが見えてこない。

 それどころか、木々や山川も見当たらず、動物などの生命も見当たらない。

 自分がどこを飛んでいるのか疑心暗鬼になりながらもオリバーを目指すが、何もない大地で唯一見つけることができたのは、粗雑な布にくるまれた二人の赤子だけであった。


「何故こんな所に赤子が? それに、辺りには何の創遏も感じとれない。ルーインの襲撃ではないのか?」


 エレリオは部隊に周囲の調査を任せると、二人の赤子を抱える。

 黒髪の赤子はスヤスヤと眠り、金髪の赤子はひたすらに泣き声をあげる。


「もう大丈夫だよ、怖かったね」


 赤子をあやすように優しく揺さぶると、その首元にぶら下がるプレート形のペンダントに気がつく。

 そのペンダントを捲ると、それぞれに名前のようなものが刻まれていた。


「エルファーナと……グエリアス。この赤子の名前か?」


 ペンダントに刻まれた名前を口にしたその時であった。

 黒髪の赤子がエレリオを睨むように目を開く。

 すると、あり得ないほどの巨大で禍々しい創遏が辺り一面に放たれた。


「なっ?! なんだこの創遏は!?」


 あまりの力に突風が巻き起こり、エレリオが吹き飛びそうなほどの衝撃が大地を襲う。

 咄嗟にグッと足に力を入れて衝撃に耐えると、赤子の目を見て背筋に悪寒が走る。


「な……んだ、この目は?」


 黒髪の赤子の両目はどす黒く染まり、中央には見たことのない白い記号が十字に羅列する。

 同時に金髪の赤子が泣き止むと、その両目は純白に染まり、中央には同じく謎の黒い記号が十字を刻んでいた。

 そしてその二人には、エレリオがたじろぐほどの巨大で異質な創遏が纏わりついていた。


「まさか、この赤子が……やったというのか? この小さな赤子が、オリバーを消し飛ばしたって……そんな馬鹿な」


 動揺するエレリオの元に、周囲を調査していた部隊が慌てて帰ってくる。

 突然現れた巨大な創遏と衝撃に、何があったのかとエレリオに質問が飛び交った。


「これは……」


 エレリオが答えに困り赤子に目を配ると、赤子達は何事もなかったようにスヤスヤと眠っている。

 先程まで纏わりついていた創遏も消え、今はただ、可愛らしい吐息だけが溢れていた。


「……いや、俺にも何が起きたのか分からない。一先ず救助できたのはこの二人の赤子だけだ。一旦グロースに帰って状況報告をしよう」


 エレリオは先程の出来事をはぐらかすと、唐突に部隊へ帰還指示を出す。

 部隊は戸惑いを隠せなかったが、状況があまりにも不透明なため、誰も反論する者はいなかった。


 グロースに帰還したエレリオは、部隊長であるグラスにオリバーでの一件を話す。

 グラスにだけ赤子に秘められた創遏について話をすると、事を重大にみたグラスは赤子のことを極秘にするように命じた。

 赤子は一先ずグラスが預かることになり、今後どうするか、近くグロースの上層部で審議にかけられることとなった。


 しかし、その審議がどういったものになるか、エレリオには明白である。

 当時のグロース最高司令官であるラグレッド=バルハルトは、厳格で規律を重んじることで有名であった。

 オリバーの街を消し飛ばすほどの力を秘めた謎の赤子。

 そんなものを頭の固いラグレッドが良しとする筈がない。

 会話も成り立たない赤子であることを理由に、二人の赤子は間違いなく殺処分されることになるだろう。


 その見え透いた未来に、エレリオは一人頭を悩ませていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ