第14話 リストレア闘技大会 前日
──リストレア闘技大会。
グロースが生誕してから今までずっと続いてきたといわれる、伝統的な大会の一つ。
三年に一度しか開かれず、この大会で優勝したものには多大な名誉が与えられ、英雄の石碑に名前を刻まれるという。
六年前の大会では弐王であるロランが優勝。
三年前の大会ではクロエが優勝している。
大会はトーナメント形式の一対一で行われ、強固な結界に囲まれた空間で、相手が戦闘不能になるか降参することで勝敗が決する。
グロースの隊長や副隊長はもちろん、他にも数多くの強者が参加し、セントレイスでは盛大な祭として街全体が歓喜する大イベントだ。
討伐任務から一ヶ月が経ち、ティナと共にカイトは闘技場の前にやって来ていた。
「ティナさん、結局クロエさんは大会に参加するのですか?」
「ん~。めんどくせーとか言ってたけど、ロランに説教されて結局参加するみたいよ」
説教をされるクロエを想像して、カイトが笑みをこぼす。
「そうなんですね。でも今日はトーナメントブロックの抽選会なのに来てないですよね?」
「クロエは大会優勝経験があるから特別シード枠だね。問答無用でベスト十六に入るから、カイト君がクロエと戦おうと思うと、最低でも三勝しないといけないね」
「三勝ですか、なかなか厳しいですね。せっかくティナさんに鍛えてもらって、自分があれからどれだけ強くなったか試したかったのに」
「あら、カイト君は見違えるように強くなったよ。それに、相手がクロエじゃなくても自分の限界を試せる相手は沢山いるわ」
「ん~。それでもやっぱり、相変わらず相手にしてくれないクロエさんに思いっきりぶつかってみたいんですけどね」
「ふふ、いい心構えね。だいぶ頼もしくなったわ」
二人が話しながら歩いていると、後ろからレオとアリスが声をかけてきた。
「カイト! あれからちょっとは強くなったか?」
「レオ! 相変わらず年上のお兄様に生意気いいやがって!」
何だかんだ仲の良い二人は、ルードドラゴン討伐後も何度か一緒に討伐任務に出かけお互いを鍛えあっていた。
「ティナさん、カイトさん、こんにちは! 今日はナナさん、来てないのですか?」
「アリスちゃん、こんにちは! ナナちゃんはクロエと家で晩御飯の準備をしてもらっているの」
「そうなんですね。ナナさんもルーインに狙われているって聞いたので心配してましたが、クロエさんがいるなら大丈夫ですね」
ナナと会いたかったのか、アリスは少しだけ寂しそうに目を細めたが、仕方ないかとため息をつく。
カイトは四人の先頭に立つと、レオについてこいと手招きをした。
「もうすぐ抽選が始まるし、行くぞ!」
意気揚々と闘技場の門をくぐり中に入ると、カイトとレオは会場の雰囲気に圧倒される。
闘技場はセム・ステラ程ではないにしろ、途轍もなく巨大であり、観客動員数も数万人は余裕で入れる大きさであった。
「闘技大会は今まで見に来たことがなかったのですが、会場は凄く広いのですね」
「三年に一度の大会だからね。凄く沢山の人が見に来るよ」
「……そのなかで戦うのか」
「何だカイト? 緊張してるのか?」
硬くなっているカイトをレオが笑う。
「うるせー! レオだって参加するのは初めてだろ!?」
「俺は別に緊張してねぇーしー!」
虚勢を張っていたが、レオの表情も分かりやすく硬直していた。
硬くなっている二人の肩を、ティナが優しく叩く。
「さぁ、ここからは参加者だけが入れる抽選会場よ。行っておいで!」
「「はいっ!」」
抽選会場の大広間にたどり着くカイトとレオ。
すでに数多の参加者がおり、各々が闘志を滾らせていた。
数多くいる参加者の中で、カイトは知っている人物を見つける。
「エルマン隊長! それにテスラさん!」
聞き覚えのある声に、エルマンとテスラがカイトに気づく。
「久しぶりじゃないかカイトー! 元気にしていたかい? 二番隊に入ってすぐあんなことがあって、そのあとすぐに除隊ってなったから心配していたんだよ!」
「テスラさん、まともに連絡できなくてすみませんでした。今はクロエさんとティナさんにお世話になっていて」
「弐王と弐姫に?! それは初めて聞いた! 隊長知っていました?」
驚いたテスラはエルマンに尋ねる。
「私は知っていたよ」
「何で教えてくれないのですかー!!」
「ゴメンゴメン。特に聞かれなかったから」
呑気に答えるエルマンに、テスラは頬を膨らませて怒りを声に出す。
「テスラさんも大会に参加するのですか?」
「ああ、優勝できるとは思ってないけどやれるだけやってみようと思ってね。カイトはあれから大分強くなったんじゃない? 何だか雰囲気が変わったよ」
「そうですか? 自分ではよくわからないです」
「カイトも存分に自分の力を試すといいよ」
「はいっ! やっぱりこの大会の参加者はみんな凄い人ばかりなのですか?」
「そういえばカイト君はグロースからすぐ除隊してしまったから、グロースの実力者についてあまり詳しくないね。せっかくだし私が教えてあげよう」
おもむろにエルマンが説明を始めた。
「まず、あそこにいるのがグロース第三部隊 隊長のルディ=スタイン。グロースの歴史でも数少ない女性隊長で、とてもプライドが高い。そしてあちらの彼が第四部隊 隊長のシアン=ペルザ」
綺麗な赤髪を靡かせ、気品ある風格を纏うルディ。
若そうに見えながらも気迫のこもった瞳から、確実な強者であることを漂わせるシアン。
どちらも、隊長に相応しい雰囲気を携えていた。
「凄い面子ですね……」
「そして彼が第一部隊 隊長。グロースで実質エレリオさんに次いで二番手のラヴァル=リンガット。とても正義感が強く、普段から自由で遊び人なクロエ君のことが大嫌いだね」
エルマンが指差す先には、長い青髪に落ち着いた風格の男が立っていた。
「グロースの二番手……」
「他にも沢山の強者がいるからね。今回もなかなか盛大な大会になりそうだ」
「この中でどこまでやれるか、楽しみだ!」
「いい顔つきになったねカイト君。さぁ、抽選が始まるから今度は闘技場で会おう」
そう言って去っていくエルマンとテスラ。
間もなくして抽選が始まり、カイトとレオの順番が回ってきた。
「俺はFブロックか……」
カイトに続いてレオもくじを引く。
「俺はAブロックだ! カイトとやれるのは決勝戦しかないな。俺がボコボコにしたかったのに残念だ」
「何言ってやがる! レオだって決勝戦まで勝てないだろ? そっちにはシード枠でクロエさんがいるぞ!」
「それを言うなら、そっちにはロラン兄がいるだろ! まぁ、カイトはロラン兄と戦うまで勝ち残れないだろーけど。一回戦の相手がラヴァル=リンガットとは、くじ運がないね~」
掲示板に次々と書き出されるトーナメント表。
そこには、カイトの名前の横にラヴァルと名前が書かれていた。
(確かに、まさかいきなりグロースの一番隊 隊長と当たるとは思ってなかった……)
同様を隠せずに震えるカイトを、ラヴァルは遠くから観察する。
(カイト=ランパード。エレリオさんがやけに気にかけていたが、実力はどんなものか……)
第一試合
カイト VS ラヴァル