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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
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第42話 過去からの予言

 しばらくの間セントレイスを金色に彩った光は、役目を終えたように無へと消える。

 凄絶たる争いを終え、静けさを取り戻した世界は、とても無惨であった。


 セントレイスの街は見渡す限りが崩壊し、今もなおいたるところで炎が立ち昇る。

 強靭な戦士たちも皆、力尽きたように地へ伏せ、失われた命に心を震わせる。

 失ってしまったものは、決して還ってくることはない。

 残されたものは、失ったものを背負いこの先も生きていくしかないのだ。


「神の世界は完全に消滅した。残った俺達は、何をすればいいんだろうか。メルは最後に言っていた。始創が人間の世界を終わらせにくると。俺達は……まだ争わないといけないのだろうか」


 真っ直ぐに空を見上げたまま、カイトは瞼を閉じる。

 今まで当たり前のように自分の中にいたメルの存在が失くなると、どうしようもない虚無が襲いかかってくる。

 自分の一部を失ったような感覚は、望んでいたはずなのに、何故だかとても寂しかった。

 そんなカイトの心情を感じとったナナは、何も言うことなく背中を抱き締める。

 その優しい温もりは、確実にカイトの心に響いていた。


「ナナ……ありがとう」

「……うん。カイト、ありがとう」


 ナナの手を握りその命を感じると、自らの意思を再確認することができる。

 メルが残した言葉。


『俺と同じ道を歩むな』


 その想いを心に誓い、メルに感謝する。

 ナナと向き合うように振り返り、その体を強く抱き締めると、肩を震わせながら小さく呟いた。


「ナナは……俺が必ず守る」


 その言葉に途轍もない重みを感じたナナは、少しだけ寂しそうに瞳を濁らせる。

 ただ今だけは、カイトの強い想いを素直に受け入れることにした。


「……カイト。私を……これからも守ってください」


 守るとは何なのか。

 メルがステラを殺したこともまた、守るといったものであった。

 自らが歩む道、それを決めるのは神でも始創でもない。

 そう、その道を決めるのは自分自身なのだ。

 お互いの想いを確認するように、カイトとナナは強く抱き合う。

 他の皆も、そんな二人を見上げて瞳を揺るがせていた。



 ──その時、世界が再び激震する。


「やぁやぁ、おめでとう。人間が神を虐殺する。中々に愉快だったね」


 突然現れた声に、その場にいた全員がカイト達の更に上空へ目を向ける。

 どこからやってきたのか、そこには手を叩いて人間を祝福する男の姿。

 その姿に、カイトは目を見開いた。


「な……なんで貴様が……?」


 男は大口で笑い声をあげると、腹をかかえながら人間を見下している。

 内面が読み取れず、ただ無邪気に遊ぶ子供のような男。

 カイトだけがその男の正体を知っていた。


「なんでだと思う? なんで俺がここにいるのかな~?」

「ふざけるな!! 神の世界は消滅したはずだ!! なのに、なんで貴様が生きているんだ! バンビー!!」


 突如現れた男の正体は、過去を司る神バンビー=バンビー=バンビーであった。

 バンビーは優艶に空を漂うと、相も変わらずふざけた口調でカイトをおちょくった。


「いや~期待通りの活躍だね。流石メルの遺志に選ばれた器だ、君を焚きつけたのは正解だったよ。これ以上にないほど楽しませてもらった」

「質問に答えろ!! なんで貴様がここにいるんだ!! 神は消えたはずだろ!!」


 バンビーが鋭い眼光でカイトを威圧すると、カイトは強い金縛りに支配されたように動けなくなってしまう。

 いとも簡単にカイトの自由を奪うバンビーに、ナナもまた息を飲み固まってしまった。


「不思議なことを聞くね? 君自身が答えを言っているじゃないか。神は確かに消滅したよ。それなのに俺はここにいる。とても簡単な問題だよね? 俺は、神じゃないんだよ」


 カイト達のただ呆然と立ち尽くす姿に笑いが堪えきれなくなったバンビーは、再びおちょくるように大声で奇声をあげる。

 そのまま右手の人差し指を立てると、指先に小さな黒い球体を作り始めた。


「俺はね、始創ベルグード様に作られた監視人だ。本当の名はバンビーナ=ラグ=レグール。過去を司る神などではない、輪廻の理を司る始創様の目だ」


 レイズと同じ監視人だと告げるバンビーに、カイトは思考がついてこなかった。

 バンビーはカイトを利用し、未来の神パーリミアを殺した。

 パーミリアは未来予知をすることで、バンビーの思惑と正体に気づいていたのだ。

 バンビーが神でない異端であること、神と人間の争いが既に始創の手の平で遊ばれていた出来事であったことを。


「俺はあくまで監視人だ。始創様が再臨を果たしていない以上、直接的に理の変革を促すことはできない。パーミリアの力と一部の記憶を剥奪できても、その命を消すことは許されなかった。だから君を過去に連れたんだよ。邪魔でしかたなかったパーミリアを君に殺させる。さらに君の精神状態を不安定にすることで、メルが君の体を支配できるようにしたんだ。想定外だったのは、メルが予想以上に臆病者だったってことだね。さっさと君の体を奪ってステラを殺せば早かったのに、最後まで君の戦いを見守っていた。無様でどうしようもなくつまらない男だったよ」


 好き勝手に言葉を並べるバンビーに、カイトは牙を向ける。

 どこまで始創の思惑通りなのか分からないが、メルの想いを踏みにじるような発言を許すことはできなかった。


「貴様にメルの何が分かるっていうんだ!!」


 残された創遏を振り絞って金縛りを解除すると、カイトはありったけの力でバンビーに向かい剣を振り下ろす。

 しかし、その斬撃はバンビーに届く前に消滅する。

 強固に張られたバンビーの結界が、カイトの攻撃をかき消したのだ。


「やぁやぁ、それはつまらないね。分かっているんだろ? そんなボロボロの体で俺に勝てるわけがないじゃないか」


 バンビーが眼光に力をいれると、周囲の空気が衝撃波のように駆け、カイトを体を吹き飛ばす。

 無様に大地へと叩きつけられたカイトは、痙攣する体を無理やり起こし、バンビーを怒り眼で睨みつける。


「ふ~む、それはいい目だね。安心してくれよ、俺は今この場で全ての人間を滅ぼすつもりなんてない。ベルグード様が目覚める前にそんな勝手なことをしたら、俺自身が消されちゃうからね。俺がここに来た理由は、君たち人間に残された時間を教えにきたんだよ」


 バンビーが左手の指を二本立てると、黒球を作り出している右手の人差し指と合わせて三の数字を表示する。


「……三年。オベルダが目覚め、始創様の復活は急速に早まった。予言してあげるよ。三年後、始創様の目覚めによって人間の世界は完全に終わりを迎える。そして狂った輪廻の理は、元の形に戻る。それまで、残された余生を存分に楽しむがいいさ」


 そう言うと、バンビーは人差し指に作った黒球を空に放つ。

 その黒球は直径数センチほどの小さなものであるのに、そこから放たれる創遏は、今までに感じたことのない異様な創遏量を滾らせていた。


「おっと……その前に、俺のお遊びから生き延びることができたらね?」

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