第13話 キルネ会議
カイト達がセトナ砂漠へ向かっている時と同じくして、ルーインではキルネの幹部達が集結していた。
キルネには九の師団が存在し、数字が小さいほど強さと権力を持っている。
その師団をまとめているのが総師団長レイズ=ミル=レバンテ。
普段はローブに身を包み仮面で顔を隠しているため、その姿を知るものはルーインでも少ない。
さらにその上にはキルネのトップであり、ルーイン最強の人物でもあるエンド=リスタードが君臨する。
師団にはそれぞれに特徴がある。
第一師団 師団長 リーンハイン。
キルネの最高戦力であり、唯一レイズの指揮下におらずエンド直属の師団である。
エンドからの指令がない時は師団長が自由人なため、普段は組織的に動かず好き勝手やっている。
第二師団 師団長 メルド。
第一師団の特性上、レイズの側近に位置する。
レイズとは古くからの繋がりがあるようで、エンドに忠誠を誓うというよりは、レイズを崇拝しているようだ。
第三師団 師団長 グラニア。
ルーイン全土の魔獣を従える魔獣使い。
グラニア本人も鬼族の最上位魔獣グルグランデと人間の混合種。
魔獣の王と呼ばれており、途轍もなく戦闘狂で自身の力にも絶対の自信を持っている。
第四師団 師団長 ジャム。
キルネの女部隊団長であり、とてもプライドが高く男が嫌いである。
彼女にはエンドだけが知る目的があるようで、その目的のためにキルネに属している。
第五師団 師団長 アーサム。
強い力には絶対服従、弱い者には凶悪な思考の持ち主。
自分の部下の思考を操り、平気で使い捨ての駒として使う。
第六師団 師団長 ドルドーム。
老人ながらもルーイン屈指の大魔導士で、部下の全員が法遏に特化している。
第七師団 師団長 シフ。
カイトとナナをコンサートの時に襲った張本人。探索能力に優れており、ファンディングの偵察や歌姫の強奪を専門としている。
第八師団 師団長 ネルチア。
危険な研究や実験が大好きなサイコパス。
人をいたぶるのは大好きだが、傷つけられるのは大嫌いで、カイトに傷をつけられたことを今でも根にもっている。
第九師団 師団長 クルル。
見た目は幼い少女だが膨大な創遏を秘めており、ドルドームに次ぐ大魔導士である。
幼い子のように、気分が害されるとすぐに切れる。
各師団長が円を作るようにそれぞれの席に座り、会合が始まるのを待っていた。
「メルドよ、リーンハインはまだ来ないのですか?」
レイズが空席であるリーンハインの椅子を見つめながら、低い声でメルドを叱咤する。
「申し訳ございません。来るように声はかけたのですがいつものことで。今もどこで何をしているのか」
「仕方のない人です。今回皆に集まってもらったのは、ネルチアとシフの報告を皆に聞いてもらい、今後のことを決めるためです」
始めにシフが席を立ち、報告をあげた。
「まずは私から報告いたします。最近、ファンディングで気になる歌声を持つ少女に出会いましてね。まだ彼女自身は自分の力に気付いていないようですが、間違いなく『四凰の歌』を内に秘めております」
シフの言葉に皆驚き、たまらずメルドが話に割って入る。
「四凰の歌だと!? 今まで三種しか発見されてなかったが、遂に四種目が見つかったのか?!」
「そうです。弐姫の称号を持つティナ=ファミリアの癒の歌。もう一人の弐姫リリー=ミルシアの鼓傑の歌。そして次の弐姫と噂されているアリス=フリューゲルの再生の歌。そして今回見つけたのがナナ=ルールラの統率の歌。この最高峰の歌の力が全てファンディング側にある事態です」
「何故その力を見つけながらも奪わずに帰って来たのだ!」
机を激しく叩き、メルドが声を荒げる。
「問題がありましてね。ナナ=ルールラを連れ去ることは簡単なのですが、直ぐ傍にクロエ=エルファーナとティナ=ファミリアがついているのです」
クロエと聞き幹部達の顔つきが変わった。
弐王の存在はルーインでも有名であり、力こそが正義のルーインでは、絶対的な力を持った弐王を軽んじる者はいない。
「彼らは彼女が四凰の歌を秘めていることに気づいているでしょう」
「クロエがいるのでは迂闊に手を出せんな。それにしても、奴らが四凰の歌を全て持っているとは。レイズ様どうなさいますか?」
メルドが尋ねると、レイズは首を傾げながらネルチアを指差した。
「ふむ。四凰の歌も気がかりですが、ネルチア? あなたも報告することがあるでしょう?」
「はい。私は少し前までデモードの森にある歌姫の泉で研究をしていたのですが、そこで出会った少年が泉の水を飲んだ後に力の覚醒をしました」
ネルチアの報告に、クルルが質問を投げる。
「泉の水を飲んだだけで強くなったの~?」
「それだけじゃないと思うけど、力の解放するきっかけになったのは間違いないわね。問題なのはその解放力よ」
「そんなに強くなったの~?」
「一瞬で私の右腕が吹っ飛ばされたわ。あの少年のことを思い出すと今でも苛立ちが煮えくり返る……」
「ネルチアちゃんの腕を吹き飛ばすなんて、その子が強いのかな~? その泉が凄いのかな~?」
「多分両方ね。あの泉は選ばれた人間の潜在能力を引き出すことができる。そしてカイトと呼ばれていた少年もまた、泉に選ばれる何かと潜在能力があった」
カイトと聞き、シフが話に割って入った。
「カイトとな? ナナ=ルールラと常に一緒にいるのが確かカイトとかいう少年でしたな」
レイズが頭上に球体を作り出すと、そこにナナの姿が写し出される。
「目的が分かりやすく纏まりましたね。奴らが力を使いこなす前にも、近日中にファンディングを襲撃します。目標はナナ=ルールラの強奪を最重要とし、そのカイトという少年。憎しきグロース、そして弐王の殲滅。少し前にオルドールの連中が第六戦争と呼ばれる程の争いを仕掛け敗北していましたが、我々キルネはオルドールの連中とは違います」
幹部達はレイズが作り出した球体を見つめ、無言ながらも士気が高まっていた。
「これは大規模な争いになりそうですな」
「メルドよ、次は必ずリーンハインを連れてきなさい。全面戦争です……」
──セントレイス。
カイト達が討伐任務から帰還し、グロース正門まで帰ってきた。
右手にルードドラゴンの角を持ったカイトは鼻高々と歩き、隣にいたレオに角を見せつける。
「最後は俺の一撃で決まったな」
「何言ってるんだカイト! ほとんど俺のおかげだろ!」
「もう! 二人はずっと言い合いばかりで!」
相変わらずカイトとレオは言い合いをしていたが、出発した時のことを思えば、見違えるほど仲良くなっていた。
「おかえり、みんな」
グロースの門前で出迎えたのは、ティナであった。
「ティナさん、聞いてくださいよ! とどめをさしたのは俺なのに、レオの奴が自分の手柄にしようとするんです!」
「だから何言ってやがる! ティナさんの前だからっていい恰好するなよカイト!」
「あら、二人とも凄く仲良くなって」
いがみ合う二人を見て、ティナは笑いながら二人の頭を撫でる。
「「仲良くありません!」」
カイトとレオは声を揃えて否定した。
「ほんと大変でしたよティナさ~ん」
ナナとアリスは、討伐任務よりも二人の相手でヘトヘトであった。
「お疲れナナちゃん。アリスちゃんもお疲れさま」
ティナがアリスの頭を撫でると、アリスは頬を赤くして微笑んだ。
「ティナさん! リリーさんが会いたがっていましたよ。いつになったら飯に行くんだって!」
「あら、じゃあ近いうちに皆で女子会ね!」
「はい! 楽しみにしてます!」
「さて、みんな疲れたでしょ? 今日はゆっくり休んでね」
出迎えを終え安心した様子のティナが家路に就こうとすると、レオが声をあげて呼び止める。
「そういえばティナさん! もうすぐ闘技大会ですけどクロエ兄は参加しないんですか? ロラン兄が気にしてましたよ!」
「ん~……クロエ参加するかな~?」
「ロラン兄が、クロエ兄が参加しないと俺が参加できないってうるさくて」
「ロランだけ参加したら優勝確定だもんね。クロエに言っておくね」
「お願いします! 俺もクロエ兄と戦いたいです!」
カイトは二人の会話に疑問を感じ質問をする。
「闘技大会って三年に一回開かれる、グロースで最強を決めるリストレア闘技大会のことですよね? グロースに所属してない人でも参加できるのですか?」
「グロースの関係者からの推薦や、クロエ達みたいな知名度があれば参加できるよ。そうだ、カイト君の次の修行は闘技大会にしようかな?」
カイトの闘技大会参加をレオが失笑した。
「カイトが闘技大会? まだ早いんじゃないですか?」
「そんなことないわ。カイト君も自分の実力がどこまで通用するか知っておいてもいいでしょう」
カイトがレオに尋ねる。
「レオも参加するのか?」
「もちろんだ! カイトと当たったらボコボコにしてやるよ」
「上等だ! ティナさん、俺も大会に参加します!」
「よし、じゃあ決定だね! 大会は一ヶ月後よ!」
急遽大会の参加が決まったカイト。
しかし、和気あいあいと盛り上がるカイト達とは裏腹に、着実とキルネの破滅の手が近づいていた。




