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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
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第35話 使命

『俺は戦うことにしか興味がなく、戦いで他の神を殺すことで、自らの生き甲斐を感じることしか出来なかったクズだった。そんな俺がステラに出会ったのは、今より十億年ほど前の話だ』


 神が生きる世界【ルーデ】

 今より百億年前に創世されたと云われる世界。

 そこには数千ほどの神々が存在した。


 世界に点々と暮らす神々は、各々がそれぞれの生活を満喫し、永遠と等しい時を静かに過ごす。

 殆どの神が平穏に生きる反面、ごく一部の神は荒れ狂う本能を楽しむように破壊を好んでいた。

 メルはその中でも代表とされるほどの荒れ者であった。


 とある日、新たな血肉を求めて世界を放浪するメルの耳に、柔らかな歌声が響く。

 その声に導かれるように歩みを進めると、目に映る光景に心を奪われた。


 小高い丘で歌う女性。

 腰まで伸びた黒色の髪は無造作にそよ風を纒い、透き通るような美しい肌に、暖かな日の光が温もりを与えている。

 横顔から覗かせる緋色の瞳は、自らの深紅の瞳を導くように淡く煌めいていた。


『一目惚れだった。ステラを初めて見た時、俺の全ては彼女に奪われたような感覚だったんだ』


 ステラの美貌に一目惚れしたメルは、直ぐ様ステラへのアプローチを始めた。

 周りから見れば、それは軽い気持ちで美貌の女神に近寄る軽率な男の行動だろう。

 只でさえメルは悪名高い荒くれ者だ。

 誰もがそんな尻軽な男に、純粋無垢なステラが好意を抱くものかと決めつけていた。


 古くからステラの付人であったハイネンもまた、その軽率な行動を認めず、メルがステラに近寄るたびに間に割って入り邪魔をした。


『ハイネンにはこっぴどく邪魔をされたな。それでも俺は数百年の間、毎日のようにステラへ自分の想いを伝え続けたんだ』

「数百年?! いや、そもそもずっと気にはなっていたんだが、神には寿命ってものが存在しないのか? 確か、ノーマンドは不老不死なのは自分だけだって言っていたぞ!」


 歌姫の泉で出会った欠如の神ノーマンドは、自らを不老不死といっていた。

 そして、不老不死は制約を狂わせるものとし、ステラから意味嫌われていたとも話していた。


『確かに、不老不死なのはノーマンドだけだな。神は間違いなく死ぬ。ただ、老化といった概念は存在しない。不老ではあるが、不死ではないんだ。不死がいけないわけではないが、結果的に不死は制約を無視する力として認識された。ノーマンドが制約を無視できたことにより、神に与えられた制約がより厳しいものへと変化したからな。ステラも良くは思っていなかっただろう』


 制約といったものが神を締めつけているというメルに、カイトは率直な疑問を返す。


「その制約ってのは、いったい何で存在するんだ? そもそも何と制約を結んでいるんだ?」

『それを理解するには、もう少し話を続ける必要があるな』


 メルの猛アピールにより、初めは敬遠気味であったステラも、数百年の時を過ごすことによって、次第にメルを意識するようになっていった。

 そんなある日、ステラが語った自らの使命に、メルの心は更に大きく動く。


 ステラは始創から輪廻の理を継ぐ者として、その力を体に宿していた。

 自らが歌うことのできる【創生の産声】は、無から生命を産み出す理の歌。

 いずれ来る審判の刻に、その歌を使い新たな世界を創成することが自分の運命だと語った。


 しかし、その運命は残酷でもある。


 新たな理を創成することは、並大抵の所業ではない。

 限界を越えた理の歌は、確実にステラの命を代償とする。

 さらに、神の世界であるルーデも、新たな理の誕生と同時に閉鎖空間に封印されてしまうのだ。


『俺はそんな使命を全うする必要なんてないとステラを止めた。だが、ステラは永劫に続いてきた輪廻の理を、自分が止めるわけにはいかないと強い使命感に捕らわれていた。だから俺はその場で誓ったんだ。この先なにが起きようと、ステラは俺が守る。それが俺が俺に与える使命だと』


 そして、それから十億年ほど時が過ぎた頃、ついに審判の刻がやってきた。

 突如、始創が百億年の時を経て神の世界に再臨したのである。

 その理由は、百億の境である理の変革に、ステラが使命を果たすか見定めるためであった。

 そもそも始創は、監視人という存在を神の世界に紛れ込ませており、メルとステラの関係は筒抜けだった。

 奴らは既に結末を分かっていたのかもしれない。


『理の歌を強要されたステラは、覚悟を決めて歌い始めた。新たな世界【ファルディン】が創成され、新たに理を継ぐ【人間】がステラの力によって形成されていった。しかし、歌い続けるステラからは創遏が枯渇していき、その命は消えかけていた』

「それを……メルが止めたんだな」


 すぐに事を察したカイトに、メルは小さく頷いて答える。


『そうだ。俺は彼女の苦しむ姿に耐えきれず、その歌を途中で止めた。そのため、人間に輪廻の理が受け継がれる前に、世界の創成が終わってしまった』


 輪廻の理を狂わせた事実は、始創の怒りをかってしまう。

 始創は使命を果たせなかった神に対し、呪いともいえる制約を与えた。


 神の世界を残すことを制約の見返りに、三千年間の次元封印。

 さらには、三千年後も十年だけの再臨をした後に再び三千年の封印を永遠と繰り返すものであった。


 この制約を解除するためには、失敗作として誕生した人間とその世界の破滅。

 その後、新たに理を継ぐ世界を作り出すことが条件とされた。


『結局のところ、ステラには人間を滅ぼして新たに世界を作り死ぬか、制約のままに束縛されて生きているとはいいがたい永遠を繰り返すか。そのどちらしかなかったんだ』

「なんで……始創に何の権利があってそんなことを」


 一方的に神を支配する始創の存在に、カイトは苛立ちを覚える。

 よくも分からない理を押しつけて、その使命を果たさなければ容赦なく裁きを下す。

 そんな理不尽に従う意味は、カイトに理解できなかった。


『カイト、お前が思うことは良く分かる。だが、きっと始創も同じ道を歩んできたのだろう。永遠に繰り返される輪廻の理は、何も神や人間だけを束縛するものではない。誰が何のために作ったか分からない、ただ意味もなく繰り返されるその理は、皮肉にも全ての生命を産み出す核でもあるんだ』

「だからステラは理を正すために人間を滅ぼそうとしているのか」


 メルの行動によって理が崩れたにも関わらず、ステラは自らの力が足りなかったからだと悲観した。

 人間を滅ぼすことが神の救いに繋がると信じ、これより三千年の再臨の度に人間を滅ぼそうとする。

 だが、ステラの思惑はそれだけではなかった。


『それだけじゃない。人間を作り出したことを自分の業と背負いこみ、人間を滅ぼそうとしているのは事実だ。だが、ステラは同時にもう一つの行動を起こそうとしている』

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