表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
143/167

第29話 信頼の絆

「はぁ……はぁ……」


 ステラの法遏を自力で解除したロランは、辛そうに肩で息を吐く。

 満身創痍の体から放った渾身の一撃は、ヴェルモットを捉えるも、致命傷を与えるほどのものではなかった。


「その傷で良くステラの法遏を解除したな。いや……法遏が弱まっている?」


 ヴェルモットがステラを睨みつけると、視線を躱すようにステラは俯いた。


「メルと再開して心が揺らいだか? そんな気構えだから理をいたずらに狂わせたのだ。貴様は人間を滅ぼすことだけを考えろ。それができぬなら、制約により主が神を滅ぼすぞ」


 鼻で笑いながら見下すヴェルモットに、ステラは歯を噛み締めながら睨み返す。

 見開いた眼孔からは怒りや憎しみが滲み、鋭い殺意が共に向けられる。


「そうだ。その尖った殺意を人間に向けろ。貴様が考えている情弱な思考は、まさに始創への冒涜だ。それを理解しながらも、創成者であるがゆえに従わなければならない。腹立たしい思いをしているのは、貴様だけではないのだぞ?」


 ステラからの殺意に全く怯むことなく、ヴェルモットは威嚇するように鼻を膨らませた。

 その様子を遠巻きから見ていたロランは、何とか突破口がないか思考を巡らせる。

 そんなロランにすがるように、レオは視線で助けを訴えた。


「レオ……悪いが俺にも打開策が浮かばん。ハッキリいってヴェルモットは強すぎる。そのうえ、クロエもカイト君も戦う余力は残っていない」

「いえ……もしかしたら……もしかしたら一つだけ手があるかもしれません」


 頭を悩ませるロランに策を提案したのは、創遏を使いきり、立っているのもやっとなカイトであった。


「俺はメルと入れ替わった瞬間、自分の精神世界でメルと対話しました。その時に聞いたのですが、前に繋心せんかと呼ばれる力を使えたことがあります。本来はメルの固有能力ソリッドみたいです。みんなの創遏を繋ぎ合わせ、自分の創遏に変える力。それができれば……もしかしたら」

繋心せんか? 闘神の固定能力ソリッドだと。そんな力が……一体どうすれば使うことができる?」


 自分の周りに集中し、何とか繋心せんかを引き出そうと手探りで方法を模索する。

 しかし、何故その力を以前使えたのか。

 何がそのトリガーとなったのかを思い出すことができず、カイトは気持ちばかりが焦っていた。


(なんでだ……繋心せんかを使えたことは覚えているのに、何がきっかけでその力が使えたのかを全く思い出せない。なにが……なにが足りないんだ)


 カイトが勇み足になっていることを感じとったロランは、カイトの傍に寄ると気持ちを落ち着かせるように肩を叩く。


「落ち着くんだ、君一人で戦っているのではない。俺とレオで時間を稼ぐ。君は自分の力を信じるんだ」


 レオに目を向けると、その口元は小さく震えていた。

 いくつもの戦いを経験したとはいえ、彼はまだ十七になったばかりだ。

 明確な死を直感させるヴェルモットに、恐怖を抱かないわけがない。

 そんな震える体に喝を入れると、力強い眼でカイトを見つめ返す。


「カイト……俺は……カイトを信じている。カイトは、俺のライバルなんだからな!」


 レオの言葉にカイトは思わず身震いする。

 体の底に残っていた闘争心に火が灯り、その灯火は瞬く間に身体全体を駆けた。


「あぁ……俺がなんとかしてみせる。だから、少しの間まかせたぞ……レオ!!」


 カイトは空に向かって声をあげる。

 身体を巡る闘争心を発散する、精一杯の叫び声。

 その気迫につられ、レオも同じく声をあげた。


「レオ、いくぞ!!」

「はいっ!!」


 二人の男の絶叫ぜっきょうを合図に、再び戦闘の火蓋が切れる。

 その叫びは、決して恐怖に怯える声ではない。

 圧倒的な力に立ち向かう、覚悟の咆哮であった。


「声をあげて強くなれるのか? 愚かな弱者どもめ。その微かに残った希望、今すぐに断ち切ってやろう」


 ロランとレオが同時に空を駆ける。

 迎え撃つヴェルモットが両断するように腕を振り落とすと、二人は咄嗟に左右へ展開。

 右側面に位置をとったレオは、剣を両手で強く握り締める。

 自らの創遏を刀身に集中させると、そのまま全力で振り落とした。


「貴様の剣では、我の鱗に傷をつけることなどできん!」


 ヴェルモットに剣が当たる直前、レオは持ち手を握り換える。

 斬り払うように振るわれた軌道を無理やり変えると、鱗と鱗の隙間を縫うように剣を突き立てた。


「ぐぅ……こざかしい!!」


 刀身の三分の一ほどがヴェルモットの体に突き刺さる。

 微かに飛び散った血液は、傷口ができた証拠。

 しかし、その小さな傷口ではヴェルモットにたいしたダメージを与えなかった。

 飛び回る小蝿を叩き潰すように、レオ目掛けてヴェルモットの腕が襲いかかる。

 だが、それよりも早い超速度でロランがレオの真後ろに現れた。


「うぉぉぉおぉおぉぉ!!」


 怒声をあげながらロランは大剣を振るう。

 レオがつけた小さな傷口を的確に捉えると、ヴェルモットの胴体を斬り裂き、巨大な傷口に変化させた。


「やった!!」


 レオの口から思わず歓喜がこぼれた。

 ヴェルモットの胴体を分断するまでには届かなかったが、大きく開いた傷口からは大量の血が吹き出している。

 間違いなく大きな手応えを感じたレオとロランは、休むことなく連携攻撃を続けた。


 しかし、その勢いを突然の歌声が止める。

 レオとロランの燃え盛る闘志を沈めるような、冷たい歌声。

 戦闘に集中していたはずの二人は、無意識にその歌声に心を引き寄せられた。


『鎮魂の歌』


 女神ステラの歌声は、一瞬で空間を支配する。

 闘志が抜け落ちたように脱力したレオとロランは、ただ呆然とステラを見つめることしかできなかった。


「そうだ。初めからそうすれば良いのだ。貴様は人間を殺すことだけ考えていろ」


 協力的なステラの歌声に気を良くしたヴェルモットは、そのまま腕を振り落とす。

 無防備にヴェルモットの攻撃を受けたレオとロランは、勢いよく地面に叩きつけられると、そのまま意識が切れてしまう。


「レオ!! ロランさん!!」


 二人がやられたことに焦るカイトであったが、お構いなしにステラの歌声が全土に響き渡る。

 歌声に心を支配されていくカイトは、思考がどんどん鈍くなっていくのが分かった。

 思考が奪われ、心が奪われ、ただ無意識にステラを見上げることしかできない。

 そんな虚無感がカイトを支配しようとした──その時であった。


 ステラの歌声をかき消すように、別の歌声がその場に響く。

 優しく……懐かしく……そして、どこか寂しい歌声。

 確かに記憶のどこかにあるその歌声に、カイトは我に返り驚いた。


「この歌声……これは……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ