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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
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第20話 触れてはいけない脅威

 青白い閃光がロドルフを飲み込むと、獲物を刻む斬激音が周囲に響く。

 しかしその音は、肉を斬り裂くような生々しい音ではなく、鉄と鉄をぶつけたような金属音だ。


 閃光が落ち着きをみせると、青柳あおやぎ色の結界がロドルフを守っていた。

 超電磁砲アグロ・ブリデッタから放たれた刃によって傷ついた結界は、役目を果たし崩れ落ちる。

 結界が崩壊すると同時にロドルフが顔をあげると、右目が青柳色に染まっていた。


「どうした? 今ので仕留めたと思ったか?」


 真創具を使い、王喰状態に入ったロドルフには、傷一つついていない。

 結界を使い、超電磁砲アグロ・ブリデッタの猛攻を無傷で凌いだロドルフを前に、グラディは少し驚いていた。

 決して手加減したわけではない。

 むしろ確実にその命を捉えたと確信していたため、ロドルフが無傷で耐え凌いだことを信じられないでいた。


「まさか超電磁砲アグロ・ブリデッタを耐えきるとは。あなたを侮っていたみたいですね」


 一瞬だけ動揺したが、グラディはすぐに次の行動に移る。

 更に数千もの超電磁砲アグロ・ブリデッタを創成しようと創遏を両手に込めた。

 だが、一瞬の動揺。

 その一瞬見せた隙は、強者の戦いでは致命となる。


「判断が遅れたな?」


 グラディが動揺すると同時に行った瞬き一つ、ロドルフは見逃さなかった。

 王喰に入ったことにより、先程よりも数倍にも増した速度でグラディの背を捉える。

 あまりの速さに驚いたグラディは、目を見開いたまま振り返った。


「遅い!」


 けたたましい咆哮をあげながら、ロドルフの巨大な斧が振り落とされる。

 創成が間に合わないと判断したグラディは、右腕に活遏をかき集めると、咄嗟に盾のように身構えた。


「……くぅ」


 ガキンと金属音が響く。

 斧を受け止めた右腕が赤く腫れ、うっすらと斬れた皮膚からは真っ赤な血がゆっくりと滴る。

 久しく感じる痛覚に顔を歪めると、歯ぎしりをしながら頬をひきつらせ怒りを露にした。


「流石の活遏だな。俺の一撃でその程度の傷しか入らないか。腕を両断するつもりだったが、鋼の塊に斧を叩きつけたような固さだ」


 少しだけ優位に立てたロドルフは、得意気に斧を振り回し、挑発するように余裕を見せつける。

 相手の怒りを逆撫でするのが目的であった。

 そしてそれが目的とあれば、ロドルフの行動は十分過ぎる程に意味を成した。


「人間ごときが……この私に傷を……この美しい肌を……私の体はステラ様のものなのに」


 底知れず吹き出す怒り。

 バンビーの話を聞いた時とは比べ物にならなかった。


「貴様だけは絶対に許さない……死にたいと願っても簡単には殺さない」


 無限とも思えるほどの創遏が、グラディの体から湧き出していく。

 美しく透き通っていた銀色の瞳は、溢れる創遏によって濃く染まる。

 サラサラと風に靡いていた髪は、重力を無視するように天へ向かって逆立っていた。


「これは……少し規格外だな」


 怒りを買って隙を見いだすつもりであったが、ロドルフは目の前の変化に後悔する。

 グラディの力が想像以上に膨れ上がり、今もなお上昇を止めない。

 決して起こしてはいけなかった神聖の怒りに触れ、無意識に斧を握る手が汗ばんでいく。

 一瞬気圧されたが、圧倒的な力に立ち向かうため、一度唾を飲み込むと自らを鼓舞するように叫ぶ。


「臆するな!! 俺はグロースの隊長。目の前にいかなる強大な敵が現れようが、その心は決して崩れたりはせんぞ!」


 意を決したロドルフは、力強く斧を握り直すと、グラディに向かい駆けようとする。

 しかし、何故かその足は動かなかった。


「なっ?!」


 一瞬。

 そう、一瞬である。

 強者の戦いで一瞬の油断は致命的。

 一瞬気圧されたロドルフの隙を、グラディは確実に仕留めた。


「いつの間に?!」


 動かない足に目を向けると、無数のとても小さな剣がロドルフの靴に突き刺さっていた。

 その剣には法遏が練り込まれ、うっすらと光を放つと突き刺したものをその場に固定する。

 それに驚いていたロドルフは、自らが更なる失敗を犯したことに遅れて気がついた。


「ぐぅぁ……しまっ……た」


 思わずグラディから目を剃らしてしまった。

 足元に目を向けた瞬間、次は両手の平を鋭い剣が串刺しにする。

 握っていた斧は地に落ち、両手と両足を拘束されたロドルフは、空に張りつけにされた。


「ぐぁあぁぁ!!」


 行動を制御されたロドルフに、慈悲なき追い討ちが襲いかかる。

 鋭い切先の刀身に、いくつもの小さな棘が生えたような剣を作り出すと、グラディはなんのためらいもなく腹部に突き立てた。


「まだまだ殺さない……永遠と思えるほどの苦痛をその体に刻んであげましょう」


 突き立てた剣を力強く握ると、そのまま右へ左へと細かく揺する。

 剣が動く度に小さな棘が内蔵を抉った。

 全身に走る激痛は、その命をもてあそぶように蝕んでいく。

 その感触に快感を得たグラディは、薄気味悪い笑みを浮かべながらもう一つ同じ剣を作り出す。


「がぁあぁあぁぁ!!」


 先程突き立てた部位のすぐそばに、もう一本の剣も突き立てる。

 ロドルフの口からは大量の血液が溢れ、立て続けに迫る激痛が、意識を失うことすら許さない。

 人間らしかった悲鳴は、気づけば獣の叫びのように荒々しく変化していた。


「苦しめ……もっと苦しめ。私を傷つけた罪は、惨死でも償えない」


 グラディが二本の剣を握ると、次は剣に法遏を流し込む。

 微弱な電流を流し込み、ロドルフの意識が途切れるのを防いでいた。


 そんな殺さないように加減された攻撃は、突然の終わりを迎える。

 ロドルフの叫びをかき消すように、どこから途もなく力強い歌声が空に響く。


「なんだ……この歌声は?」


 攻撃の手を止め、グラディは歌声に耳を傾ける。

 同じく歌声を聞いたロドルフは、口角を上げ小さく微笑んだ。


「きて……くれた……か」


 何かに安心したロドルフは、その笑みを残したまま意識を切らす。

 それと同時に、グラディの遥か後方から、突如強大な創遏の塊が白き光の柱となって天を貫いた。


「なんだこの創遏は?!」


 咄嗟にグラディが後ろを振り返ると、白き柱から法遏のような光がロドルフに向かって照射された。

 ロドルフがその光に包まれると、体に突き刺さっていた剣が全て溶け、開いた傷口がゆっくりと閉じていく。


「なっ?!」


 驚いたグラディが再びロドルフに目を向けると、その一瞬の間に一人の男が姿を現した。

 その男は崩れ落ちるロドルフを優しく抱き締めると、グラディの目に止まらぬ速さでルディ達の元まで移動する。


「ロドさん、後は俺に任せてくれ」


 ロドルフを寝かせると、男は白き大剣を作りグラディへ向けた。


「ここからは、俺が貴様の相手をしよう。この、弐王ロラン=グエリアスがな」

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