第19話 創成の真髄
金糸雀色の光が辺りを包む。
全創遏を込めて作られた一つの剣は、無限という絶対的な暴力を押し退け、グラディに向かい振り落とされる。
その美しい光に魅了されたグラディは、頬を緩ませ優しい笑みを見せた。
「とても美しい……そして」
ルディの剣が振り落とされると同時に、グラディが右手に創遏を集中させる。
その手に創成された剣には、ガラスのように透きとおった銀色の瞳と同じ、銀色の光を纏っていた。
「とても儚い力ですね」
ルディの太刀筋に合わせるように、グラディの剣が風を斬る。
剣と剣がぶつかり合った瞬間、金糸雀色の光は打ち砕かれ、その刀身は跡形もなく粉々に粉砕された。
「そ……んな……」
銀色の刀身は金糸雀色を消し去るだけでは止まらず、そのままの勢いでルディに振りかかる。
左肩から右腰まで真っすぐな線を描くと、真っ赤な血しぶきをあげてルディを彩っていく。
両断こそされなかったが、深々とえぐられたその傷口は、痛みを与えることなくルディの意識を刈りとった。
「ルディ!!」
空から意識なく落ちるルディを、ロドルフが咄嗟に受け止める。
絶え間なく溢れる血流に、瞬く間に青白く変化する顔色。
猶予のない事態に、ロドルフはすぐさま回復法遏を唱え応急処置を施す。
なんとか止血だけ行うと、ジャムの横にゆっくりと寝かせ二人を結界で覆った。
「ルディ、死ぬんじゃないぞ。お前達にはまだまだ未来があるんだ」
ロドルフが空を見上げ、グラディを視界に捉える。
その瞳には、力強さと共に、静かな怒りが滾っていた。
「彼女の力は評価に値します。己に眠る全創遏を創成に注ぎ込む。それによって作られた武器には、自らの魂が宿ります。まさに創成の真髄。彼女は確かにその域へ踏み込みました。ただの人間が神の聖域に達そうとしたのです。ですが……私を越えるには全然足りません」
雄弁に語るグラディに対し、ロドルフは首の骨を鳴らし戦闘態勢に入る。
「ルディの処置を待ってくれるとは、案外優しいのだな」
再び巨大な斧を創成すると、深みのある黄緑色の創遏を漂わせながら怒りを剥き出しにする。
恐れを蹂躙するその青柳色には、絶対的な強者に打ち勝つために必須である、圧倒的な自信と勇敢な心が宿っていた。
しかし、その全てをかき消すほどの強い怒りが、銀色の瞳から放たれる。
「私が待ったのは、彼女の力に敬意を示したからです。それよりも、あなたはバンビーが相手をしていたはず。なぜここにいるのですか?」
抑えきれない怒りがグラディの体を包み込む。
先程一瞬だけ作った微笑みは見る影もなく、獲物に弓矢を放つような冷たい視線でロドルフの体を硬直させる。
「バンビーだと? 空間転移されたあと、俺は一人だった。周りには誰もいなかったから、強力な創遏を感じたこの場所に駆けてきたんだ」
ロドルフの経緯を聞き、グラディの怒りが頂点に達した。
怒りにより膨れ上がった創遏が周囲の大地を威圧する。
その圧力に耐えきれなくなった大地は、地鳴りをあげながらセントレイスの街全体を震わせた。
「なんと愚か……ステラ様の指示を無視するとは。もうあの男を放ってはおけないですね。神聖の称号を私の力で剥奪してやらなければ」
天変地異を引き起こすほどの力を前に、ロドルフは臆することなく立ち向かう。
空へ浮かび上がると、グラディの正面に立ち斧を持つ両手に力を入れた。
「そちらの事情は知らんが、こっちにはこっちの事情がある。ルディやジャムの無念は俺が背負わせてもらう」
腰を低く落としグラディに狙いを定めると、足の裏に力を込める。
今まさに懐へ飛び込もうとした時、一瞬の閃光がロドルフの頬を掠めた。
「なっ……なんだそれは」
頬にできた傷から血が滴り落ちる。
それと同時に、緊張で額から汗が吹き出してきた。
「あなたは、私に近寄ることすらできませんよ」
グラディの後方に、次々と見たことのない武器が創成される。
鉄のような塊が複雑に構成されると、その中心部には機械的な何かが青白い光を灯らしている。
先端は発射口のように丸く口を開け、青白い光が力を溜めるようにバチバチと稲光をたてていた。
「なんだ……その武器は?」
一つ一つにばらつきがあるが、数メートルほどの大きさをした何かが瞬く間に何千と創成されていく。
「これは超電磁砲と呼びます。一つ一つに超エネルギーを収束する機関が備えられ、溜め込まれたエネルギーは光の刃となってあなたを襲う」
一足早くエネルギーを溜めた一つの超電磁砲が、ロドルフに照準を合わせた。
途轍もない危機感を悟ったロドルフは、咄嗟に超スピードでその場を離れようと空を蹴る。
「遅い」
ロドルフの超スピードを凌ぐ光速の刃が放たれる。
回避が間に合わないとふんだロドルフは、斧を盾のように構え応戦。
しかし、構えた斧は軽々と斬り裂かれ、光の刃は脇腹を掠めた。
脇腹に鋭い斬り傷を刻んだ刃は、そのまま遥か後方の山まで駆ける。
山頂にぶつかると、その一部を消し飛ばし、満足したようにその刃を収めた。
「こんな……馬鹿げたことが」
ただの一撃で、遥か遠くの山を抉りとる。
しかもそれが自分の回避速度よりも速いことに、ただ絶望感が押し寄せてくる。
その現実を前にして、ロドルフは呆然と口を開け頬を引きつらせていた。
「これもまた創成の真髄。創成とは想像力と創造力の融合なのです。超電磁砲のような複雑な創成物、人間では想像することも創造することもできないでしょう」
グラディが両手を広げ、創遏を更に集中させる。
銀色の瞳が淡く輝くと、胸の刻印が呼応するように激しく光を放つ。
次々と創成されていく数千の超電磁砲は、グラディの莫大な創遏を吸収し、エネルギーの収束を完了させる。
「あえてもう一度いいましょう。私は創成の神、神聖グラディ=バン=ブロス。人間を殲滅するために再臨した神」
ゆっくりとロドルフに向かい右手を差し出す。
その動きに合わせ、全ての超電磁砲がロドルフに照準を定めた。
「超電磁砲……照射」
グラディの合図を受け、全ての超電磁砲から光の刃が発射される。
その閃光により、ロドルフの目の前は一瞬で青白く染まった。