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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
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第16話 二重奏が彩る力

「この創遏……深紅の瞳。これはメル様の遺志」


 王喰状態で参戦したカイトを見て、ぺぺとネスタが共に尻込みをする。

 その内に秘めた絶大な力を知る二柱は、冷汗を滴しながら生唾を飲み込んだ。


「レオ、ずいぶん手こずっているみたいだな? アリスちゃんはどうしたんだ?」


 カイトに叱咤されたレオは、頭をゴシゴシと搔きながら、小声でぶつぶつと呟く。


「いや、アリスはあいつらに閉じ込められて……」

「はぁ? 何をやっているんだよ!」


 少し拗ねた表情でモゾモゾと喋るレオに、カイトが呆れ顔で振り返る。

 その顔に苛立ちを爆発させたレオは、逆上して開き直った。


「分かってるよ!! だから今助けようとしてるだろ! 別にカイトがいなくても俺一人で助けられる!」

「お前は守り人だろ?! もっとしっかりしろよ!」

「なっ! 糞カイトは守り人になることすらできねーじゃねーか!! 偉そうに俺に文句言うなよ!!」


 激しく口論を始めだす二人に、ぺぺとネスタは口を開けたまま呆けていた。

 気を取り直したぺぺが槍を握りこみ、創遏を集中しながら攻撃体勢に入る。


「お……おい。お前達がいがみ合っているなら、遠慮なく攻撃を……」

「「あぁ??」」


 口論を邪魔された二人は、同時にぺぺを睨みつける。

 二人から放たれる王喰の威圧感に、ぺぺとネスタは完全に飲み込まれてしまった。


「元はといえば、こいつらが襲撃してきたのが原因だ」

「あぁ、そうだ。街は滅茶苦茶だ。クロエさんも俺より先にセントレイスに到着している。さっき近くで発生した黒い柱はクロエさんのだろう。こんなところでグダグダしている時間はないぞ」


 カイトとレオが一気に創遏を爆発させる。

 二人から沸きだす強大な創遏は、王創のように派手に広がったりはしない。

 体の内側を駆け巡る創遏の一部だけが溢れ、シルクのベールのように柔らかな光となり二人を包む。

 相成れない色の王喰の光は、一瞬だけ弾けるように反発をする。

 しかし、信頼し合う赤と黄は、すぐにお互いを高め合うように調和を始めた。


「レオ、いくぞ!」

「おう!」


 二人が同時に駆け出した。

 辛うじて二人の姿を目に捉えたぺぺは、先行して迫るレオに向かい槍を突きつける。

 その攻撃を予測していたレオは、体を空中で捻りギリギリのところで攻撃を躱す。

 その勢いを殺さぬまま、ぺぺに向かい剣を振り下ろした。


 ぺぺの危機を察したネスタは、咄嗟に手を伸ばし二人の間に閉鎖空間デッドセントの壁を作る。

 しかし、レオはそこまで予測済みであった。


「同じことばっか繰り返してるんじゃねーよ!」


 目には写っていないが、そこに閉鎖空間デッドセントがあると確信したレオは、目の前に集中する。

 変色した黄色の片眼が光を強めると、それに呼応するように身体能力が跳ね上がった。


「こんなもんで俺達は止められねーぞ!」

「なっ! 私の閉鎖空間デッドセントが」


 レオのひと振りが閉鎖空間デッドセントで作られた透明の壁を斬り裂いた。

 いとも簡単に閉鎖空間デッドセントを破られたネスタは、驚きのあまりその場で硬直する。


「ぺぺ! 逃げて!!」


 閉鎖空間デッドセントを斬り裂いた余波により強烈な暴風が発生し、そのままぺぺに襲いかかる。

 風から身を守るように腕で顔を隠したぺぺは、一瞬だけ二人から視界をそらしてしまった。


 そして、その隙をカイトが見逃すはずはない。


「終わりだ!!」


 レオが作った道をたどり、一瞬でカイトがぺぺに詰め寄る。

 躊躇なく振り下ろした剣が、ぺぺを頭から真っ二つに斬りおとした。


「ぺぺ!!」


 目の前で死にゆくぺぺに、ネスタは必死に手を伸ばす。

 しかし、一瞬でネスタの背後に回っていたレオが無情な一撃を突き立てた。


「アリスを返してもらうぞ」


 心臓付近を貫いた剣から、赤い血が滴り落ちる。

 微かな呻き声を残し、ネスタの瞳から生気が途絶えていく。

 ぺぺとネスタの遺体が同時に光を灯つと、その体は空気に溶けるように消え始めた。


 数多の蛍のように光を放ち、ゆらゆらと空へ帰る。

 それはまるで、空にある天国を目指すように。

 レオとカイトは、その光を静かに見届けていた。


「カイト……敵を殺すってのは、何でこんなにも虚しいんだろうな」

「……そうだな。こんな争い、何の意味もない」


 二柱の神を倒したレオとカイトは、静かになった戦場で王喰を解除する。

 燃え盛る街並みに転がる無数の死体を、カイトは意味もなく無心に見下ろすことしかできなかった。


 静寂な間が数秒その場を支配したと思えば、急にレオの傍で空間が唸りをあげる。

 制御されていた空間は、主を失うことによって元の形に形成される。

 その形が完全に戻った時、力から押し出された異物は閉鎖空間デッドセントから吐き出された。


「へっ……あっ! レオ! それにカイトさん!?」


 何もなかった空間から、瞬間移動したようにアリスが現れる。

 レオは優しくアリスを抱き寄せ、安心したように小さくため息をはいた。


「良かった。ネスタを倒せばアリスを救えると確信していたが、確証は無かったからな」


 抱き寄せられたアリスは、頬を赤く染めながらレオに笑顔を返す。


「私はレオが救ってくれるって、確信も確証もあったよ?」

「へへっ。簡単にいってくれるな」

「私にとっては簡単だよ。レオを信じることは、息をするのと同じくらい簡単で当たり前のこと」


 お互いに見つめあい、ニヤニヤと笑いながら肩を寄せあっている。

 そんな戯れをひたすら見せつけられ、辛抱できなくなったカイトは頭を搔きながらレオに苦言する。


「もうそのへんでいいだろ。いちゃつくのは全部終わってからにしろよ」


 カイトの言葉で急に恥ずかしくなってきたアリスは、顔を隠しながら小さく何度も頭を下げる。

 照れ隠しをしながら謝るその姿は、なんとも愛らしいものであった。


「少し前にクロエさんの強烈な創遏を近くで感じた。その後すぐに、街に降り注いでいた赤い柱がなくなった。たぶんクロエさんも他の神を倒したんだ。きっとそのまま、グロース本部付近にある創遏に向かったに違いない。俺達もそこを目指すぞ!」


 カイト達は足早にその場を離れ、グロース本部を目指す。


 そこでは、ステラが歌を歌い続けていた。

 周囲の創遏が歌声に呼応し、ステラの目の前に小さな光の塊ができ始めている。

 その光は、自らの意思を持っているようにうねりをあげる。


 理を繋ぐ歌『生命の産声』によって、いままさに無から有が産み出されようとしていた。

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