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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第1章 始まりの歌
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第11話 修行、時々、修行

 ──シフが現れた次の日の朝。


「おはよー!! 朝だよカイト君、ナナちゃーん!!」


 朝日が昇りはじめ、まだ辺りは程よい薄暗さを残すなか、大きな声が海辺に響き渡る。

 ティナは朝から元気一杯で、カイトとナナがちゃんと起きているか部屋の前まで声をかけに来た。


「おはようございます! ティナさん朝から元気一杯ですね!」

「ナナちゃんはちゃんと早起き出来ているみたいね。カイト君は起きてる?」


 目覚ましの声にすぐ反応をしたのはナナだ。

 扉を開けて部屋から出てくると、髪は綺麗に束ねられ、身だしなみは綺麗に整っていた。

 そして遅れて現れたのは、寝ぼけ眼でボサボサ髪のカイトである。


「まだ五時ですよティナさん~」

「なにいってるの! 朝練だよカイト君!」


 ティナに渇を入れられ、カイトは渋々準備を始める。


「クロエさんももう起きているのですか?」

「クロエは朝から少し用事があるっていって、グロースに向かったわよ」


 カイトは意外だといわんばかりに口を開けた。

 何せここに来てからカイトが見たクロエは、酒を飲んでやる気の無さそうにぐーたらしている姿だけなのだから。


「なんか……クロエさんは朝が弱そうなイメージだったけど、しっかり起きているんですね」

「いつもはぐーたら寝てるけどね」


 驚くカイトの顔を見て、ティナはクスクスと微笑する。


「さぁ、準備して修行開始よ!」


 カイトが準備を終えると、三人は外に出た。

 薄暗さを残していた日差しは、いつしか気持ちのいい朝日に変わっており、まさに修行日和。

 カイトの眠気もすっかりなくなり、やる気が底から湧いてくる。


「まずは何をやるのですか?」

「カイト君は実戦経験が全然ないと思うから、とりあえず私とバンバン組手をしてもらおうかな」

「いきなり組手ですか?! なんていうか、筋トレみたいな基礎トレーニングから始まるのかと思ったんですけど」

「基礎トレーニングは大事だけれど、それ以上に戦場で生き抜くためにはやっぱり実戦経験がとても大切だと思うわ」

「そうなのですね」

「逆にナナちゃんは声量を上げるため、基礎トレーニングに励んでもらおうかな?」

「分かりました!」


 ナナにさらっと基礎トレーニングの内容を教えると、ティナはパンっと両手を合わせカイトに視線を向ける。


「さて、カイト君は私の攻撃を防ぎながら~……まずは私に一発攻撃を当てることを目標にしましょうか」


 そういうと、ティナが両手に創遏を込め二本の剣を作り出す。

 右手には真っ白で透きとおった美しい長剣、左手には正反対の真っ黒な黒刀。二刀を構えるティナからは、可憐で美しくも力強いオーラが漂っていた。


「双剣?! ティナさんは二刀流なんですか?!」

「そうよ。私の連撃を掻い潜るのは至難よ」


 カイトも剣を作り出し構える。


「さ~、思いっきりきなさい!!」

「いきます!!」


 激しくぶつかる二人の剣。

 カイトが全力で連撃を繰り出すが、ティナに全てを捌かれてしまう。


(凄い。ティナさんが強いのは分かっていたけど、俺の全力が簡単にいなされてしまう。だけど、まだまだっ!!)


「うぉぉおぉぉー!!」


 カイトは躊躇なくティナに斬りかかった。

 昨日の出来事が、カイトの向上心を高めるのに良い刺激になったようだ。


(いい感じね。躊躇なく私を倒しにきている。昨日のことでだいぶ吹っ切れたみたいね)


「いい感じ! だけどまだまだそんなのじゃ私に攻撃は届かないよ!」



 休憩無しで一時間ほど組手を続けたカイトとティナ。


「はぁ……はぁ……全く攻撃が当たらない……」


 汗だくのカイトに対し、ティナは汗一つ垂らさずに余裕の笑顔であった。

 本当に戦いから一線を置いているのか。

 あまりの力差に、カイトの頭にはそんな疑念が駆けていた。


「よし、朝練はこれくらいにして朝ご飯にしましょうか」

「はいっ」


 カイト達が朝ご飯の準備をしていると、気分良く鼻唄を口ずさみながらクロエが帰ってくる。


「カイト、お前は二番隊に配属されていたよな?」

「あっ、クロエさんお帰りなさい。そうですけどどうしました?」

「さっきグロースまで行って、お前を除隊してきたからな」


 突然の言葉に驚くカイト達。


「ええっ!? この前グロースに入団したばかりですよ?! なんで?!」

「ここで強くなるんだろ? グロースなんて肩書はここにはいらん! 今日からお前は俺とティナの部下(しもべ)だ!」

「もうっ!! 何でクロエは勝手にそんなことするのよ!」


 クロエの勝手な行動にティナが怒りをみせる。


「いえ。せっかくこんな偉大な二人にお世話になるのだから、そんなことにこだわっていられないです!」


 何故かクロエとカイトはあっさりと意気投合した。


「はぁ~。本当、男ってどうして勢いばっかなのかしら」


 そんな二人にティナは呆れていた。

 隣で見ていたナナも、軽くため息をついた後ティナに目を向け口を綻ばせる。


「ほんとうですよね」



 ──それから日が流れ、ティナとの修行が始まってから二ヶ月。


 春の陽気は薄れ、次第に夏の蒸し暑さを肌で感じるようになってきた。

 毎日、休むことなくティナとカイトの組手は行われる。

 どんどんと自分の動きについてこられるようになるカイトの成長速度に、ティナは驚きと楽しみを感じていた。


「ここだぁー!!」


 振りかざした剣が、初めてティナの腕を確実に捉える。

 攻撃をかわせないと判断したティナは、咄嗟に創遏を高め、腕の硬度を上げ剣を受け止める。

 金属同士がぶつかったような鈍い音が響き、ティナの腕はうっすらと赤く腫れ上がった。


(二ヶ月で私を捉えるなんて、凄い成長スピードね……)


「やっと一撃当てることができた! ティナさん強すぎですよ~」

「カイト君も凄いじゃない! 今のは全然手を抜いてなかったから驚いたよ」

「やった! ティナさんの指導が良いからですよ」

「よし、じゃあ修行を次の段階に進めるね」

「お願いします!」


 ティナは人差し指を得意気に立てると、ウインクをしながら次の修行内容を話した。


「実は、次の修行はすでにある人に話をしてあってね。その人の弟子と一緒に、セトナ砂漠に住むルードドラゴンの討伐に行ってもらおうかと思っていたの」

「ルードドラゴンって……無茶苦茶気性の荒い竜種ですよね? 俺で大丈夫ですか?」


 コルネオの件もあり、カイトは討伐任務に少し抵抗があった。


「大丈夫よ! カイト君はこの二ヶ月で確実に強くなっているし、一緒にいく人も実力者だから!」

「その一緒に行く人は誰なのですか?」

「ロランの弟子で、エレリオさんの実のお子さんでもあるレオって子よ」

「!? クロエさんと同じ弐王ロランさんの弟子で、最高司令官の息子ですか?!」


 エレリオの息子で弐王の弟子、カイトが想像したレオは完全なサラブレットである。


「そうよ。でも歳は十六だから、カイト君より少し下だね。実力は間違いないから安心して。明日の朝にグロースの正門前で落ち合うように伝えておくから」

「俺より年下なのか……分かりました!」


(相手の実力は分からないが、年上の俺がしっかりしないといけないな……)


 カイトがグロースに向かう準備をしているとナナがやってくる。


「カイトっ! 新しい修行でグロースに行くんだってね。私もティナさんにカイトの付き人を頼まれたの! 一緒に行こっ!」

「ナナが? 危ない修行になるかもしれないから気をつけろよ」


 首を傾げてカイトを見つめるナナ。


「カイトが守ってくれるんでしょ?」


 ナナに見つめられて赤面し、カイトは思わず顔を逸らす。


「たく、調子に乗るなよ……」

「へへ……」


 からかってみたものの、ナナの頬も自然と赤くなっていた。


「よし、一緒に行くか!」



 ──翌日。


 カイトとナナがグロースの正門に到着すると、少年と少女が門の前で待っていた。


「こんにちは! ティナさんからの依頼でここに来たんだけど、ロランさんの弟子って君のこと?」


 カイトが慣れ慣れしく話かけたことに少年は苛立ち、パタパタとウサギのように足でスタンプをする。


「お前がクロエ兄のとこで世話になっているカイトか?」


 少年が無愛想な返事をすると、隣にいた少女が軽く少年の頬っぺたをつねった。


「こら! 年上の人にそんな言葉使いしたらダメだよレオ!」

「うるせーなアリス。何でこんな弱そうな奴と一緒に討伐任務なんて行かないといけねぇんだよ」


 生意気な少年に、カイトとナナは呆然と立ち尽くす。


「すみません、私はアリス。こっちの生意気なのがレオです。話はティナさんから聞いています」


 茶色いショートヘアーを靡かせながら、アリスは丁寧に頭を下げる。

 そんな姿を横目に、レオは舌打ちをしながら不満げに息を吐く。


「こっちこそ宜しくね」


 ナナも軽く頭を下げると、アリスは目を輝せながらナナに近寄った。


「あなたがティナさんの言っていた……」

「おい、アリス! あんまり慣れ慣れしくするな!」


 アリスがナナと話をしようとすると、それを止めるようにレオが割って入る。


「俺はレオ=バルハルト。俺が尊敬するクロエ兄が何でこんな弱そうな奴を面倒見ているか知らないけど、ついてこられなかったら置いていくからな」


 茶色の髪をかきあげると、レオはしばらく鋭い目つきでカイトを睨み続けていた。

 その眼光は、誠実なエレリオに似ても似つかない獣のような瞳であった。

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