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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
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第13話 力の根元

 黒き瞳に染まるクロエが剣を突きつける。

 その切先に立つスルトは、クロエから放たれる創遏にただ震えていた。


「貴様を排除する」


 煮えたぎる怒りを発散するかのように、クロエは剣を両手で力強く握る。

 そのまま、十数メートルほど離れているスルトに向かい静かに振り下ろす。

 クロエの剣から放たれた斬撃は、スルトの体を一瞬で縦に真っ二つに割ると、そのままの勢いで後方の山を消し飛ばした。


「あっ……あぐぅ……」


 真っ二つになったスルトは、目を見開きながらうめきをあげる。

 そんなスルトに追い討ちをかけるように、一呼吸遅れて暴風が吹き荒れる。

 強烈な風は鋭い鎌鼬となり、スルトの体を粉々に斬り刻む。

 クロエの斬撃によって斬り裂かれた空気が、力に耐えきれず暴走したのであった。


「きゃあっっ」


 風圧に吹き飛ばされたティナは、流星ように勢いよく宙を転がる。

 その衝撃を包み込むように、クロエは優しくティナの体を抱き締めた。


「遅くなってすまなかった」

「全く。無茶苦茶しすぎだよクロエ」


 クロエの腕に包まれ、安心したようにティナが笑みを浮かべる。

 しかし、横腹の傷口から再び血が滲むと、また苦しそうに顔を歪めた。


「すぐに歌で回復するんだ。俺はまだこいつの相手をしないといけない」


 優しくティナを地におろすと、クロエは立ち上がり空を見上げる。

 先ほどスルトがいた場所には、いくつもの火の粉が舞っていた。


「もしかして、あれでまだ生きているの?」

「……みたいだな」


 火の粉が瞬く間に一ヶ所へ集うと、そのまま大きな火の玉となり人の形へと変化を遂げる。


「はぁ……はぁ……」


 再び元の姿に戻ったスルトは、苦しそうに息をしながら汗を流していた。


「あれくらいじゃ死なないみたいだな。跡形もなく消してやるよ」


 クロエが宙に浮くと、スルトの目の前に立ち殺意を向ける。

 それに対し、スルトはカタカタと震えながら一人呟いていた。


始創しその力……危険……お前は危険」

「あっ? 始創しその力? 意味の分からん言葉を使うんじゃねーよ」

「お前と戦う……許可されていない……まだその時ではない」


 逃げ腰のスルトは、クロエを避けるように後退りする。


「まだその時じゃない? だったらお前は選択を間違えたな」


 クロエが右手を突きだすと、手の平に創遏を集中し詠唱を始める。

 禍々しく膨れあがる創遏に、スルトは慌てて振り返り背を向けて逃げ出した。


「ステラ様……いけません……お逃げくだ……」

「誰も逃がさねーよ」


 詠唱が終わると同時に、スルトが真っ黒な球体に閉じ込められる。

 それを確認したクロエが、突きだした右手を強く握りこむ。

 その動作に合わせるように球体が一瞬で圧縮され、スルトもろともその場から消えて失くなった。


「貴様はティナを傷つけた。俺を恐れるなら、それだけはやってはいけなかったな」


 圧倒的な力でスルトをねじ伏せたクロエは、王喰を解除しティナの元に駆け寄る。

 癒の歌で傷を治したティナは、そのまま辺りを見渡した。

 街はスルトが残した火種によって今も燃え盛り、建物は無惨に崩れ落ちる。

 周囲にいた民衆こそティナの歌声で救えたが、それでも被害は甚大であった。


「……酷い。なんでこんなことを」

「さぁな。敵の考えなんてのは、理解しようとするだけ無駄だ。傷は大丈夫か? 戦場はここだけじゃない。特にグロース本部があった場所から漂う創遏は異質だ。そこに向かうぞ」


 グロース本部の方角を見つめるクロエを、ティナは後ろから強く抱き締める。

 怒りなのか、悲しみなのか。

 その小さな体は、無力に震えることしかできなかった。


「……クロエ、お願い。グロースを、セントレイスを救って」

「……分かっているよ」



 ──同刻

 セントレイス南西部。


「アリスに何をしたんだ!」

「歌姫は邪魔になりますからね。閉鎖空間デッドセントに幽閉させてもらいました」


 空間の女神ネスタ=ノノ=カウロスと交戦していたのはレオであった。

 戦いが始まると同時に、ネスタの固定能力ソリッドによってアリスが異空間に囚われる。

 周囲一帯の空間を操るネスタに、レオは苦戦をしいられていた。


「意外と冷静ですね。情報通りの人物ならば、歌姫に手を出せばあなたはすぐに取り乱すと思っていたのですが」


 レオは黄色の王創を纏い、精悍な眼差しでネスタを睨みつける。

 怒りの感情をコントロールし、冷静に相手の実力を見定めていた。


「確かに、少し前の俺ならとっくに暴れ散らしていたよ。だけど、今は違う。何をすればいいか、どうすればアリスを救えるか。考えることを覚えたんだ」


 レオの意思を嘲笑うようにネスタは笑みをこぼす。

 堪えきれなくなった笑いは、相手の気持ちを逆撫でするように不快な響きを奏でた。


「何が可笑しいんだよ」

「いや、ごめんなさいね。あなたが余りにも幼稚だったから、つい可笑しくて。考えることを覚えたって、馬鹿丸出しじゃないの」


 眉間に筋をたて、顔をピクピクと引きつらせ苛立ちを剥き出しにする。

 ネスタの笑いに、剣を握るレオの力が自然と強まった。


「好き勝手に笑いやがって。お前のその笑い、黙らせてやる」


 レオが一瞬で間合いを詰め、首筋めがけて剣を振りかざす。

 その剣に向かいネスタが手をかざすと、レオの剣はネスタに届く前に止まってしまう。


(くそっ! また攻撃が止まった?!)


 先ほどから何度か攻撃を仕掛けていたが、レオの攻撃は全てネスタに当たる直前で止まってしまう。

 レオの動きに何か力が作用しているというよりは、剣とネスタの間に空気の層のような見えない壁がある感じであった。


「その程度の力では届きませんよ。空間を支配する私に、人間が勝つことはできません」


 灰色の瞳がレオを睨むと同時に、茶色の長い髪が風に揺らぐ。

 髪が靡くと、背がぱっくりとあいた純白のドレスから十字の刻印が光を見せる。

 その光は底深く、周囲の空間を魅了する。


「ステラ様は人間を殲滅すると決めた。それはもう変えることはできない」

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