表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
126/167

第12話 黒の憤怒

 セントレイス各地を火の海に変える赤い光柱。

 それは、豪炎の女神スルト=エミ=レンティアの固有能力ソリッド熱暴走ジャイミング』によるものであった。


 無数の赤い光柱は、逃げ惑う住民達を焼き殺し、セントレイスの街並みを崩壊させていく。

 グロース本部があった場所から少し離れた上空で、スルトは創遏を高めたまま、火に飲まれる街を見下ろしていた。


「燃える……燃え盛る……燃え尽きる……また燃える」


 朱色の瞳に刻まれた十字の刻印が光を放つと、新たに無数の光柱が降り注ぐ。

 火の海に変化する街並みを見て、スルトはぶつぶつと一人呟きながら笑みを浮かべていた。


「痛み……苦しみ……死……無力……哀れ……」


 半端に焼け焦げた人々はその場にのたうち、永遠と感じる地獄を味わっていた。

 熱により皮膚がただれ、剥き出しになった筋肉がねちゃりと地面に接着する。

 痛みに耐えきれず動くと、その度に傷が悪化。

 それでも死ぬことを許されない苦痛が、情弱な悲鳴となって街に漂っていた。


「弱者……権利……傲慢」


 弱者の悲鳴を楽しむように、スルトはあえて止めを刺さないよう加減して攻撃を拡散する。


「悲鳴……歓喜……神……絶対……」


 力加減をしたまま創遏を高めると、スルトは更に新たな光柱を作り出そうとした。

 しかし、急に聞こえてきた歌声にその手が止まる。


「これは……傷が治っていく」

「痛みが消えていく……痛くない」

「この優しい歌声……女神様が、女神様が来てくれた」


 荒廃した火の海に、柔らかな歌声が響きわたる。

 その歌を聞いた人々の傷は瞬く間に治り、荒れた心に安らぎを与える。

 創遏を使い広範囲に届いた歌声は、癒の歌であった。


「無意味に人々を傷つけ、その悲鳴を楽しむ外道が神ですって? 随分と性根の腐った神様ね」


 桃色の王創を纏い、双剣をたずさえたティナがスルトの前に歩み寄る。

 その瞳には強い殺意が宿り、普段の温厚な姿はみる影もなかった。


「グロースに真創具をとりに来ただけだったのに、こんなことが起きるなんて。あなた達が何を考えているのか知らないけれど、これ程の怒りを覚えたのは何年振りかしら」

「歌……目的……排除」


 スルトはティナの姿を確認すると、街に向けていた全ての熱暴走ジャイミングを一つに収束させる。

 そこから作り出された燃え盛る刀を手にとり、ティナに向かい振りかざす。


 太刀筋に炎を残しながら振り下ろさせた刀を、ティナは双剣を交差させ受け止めた。

 その衝撃で炎は更に荒ぶり、周囲の気温が急上昇する。

 五十度を軽く越える体感温度の中、ティナは汗一つ流さず冷たい瞳でスルトを睨みつけた。


 ──冷血な歌姫。

 ティナがグロースの隊長になる前についていた通り名。

 感情を表に出さない、氷のような冷たい瞳が由来である。

 今でこそ温厚で軟らかなイメージが強いが、スルトの残虐な仕打ちに昔の血が滾っていた。


「歌姫……優先……対象」

「私たち歌姫が狙いなの? だったら初めから私たちだけを狙いなさい!!」


 ティナの剣舞がスルトに牙を剥く。

 雪解け水のように優しく、春風のように軽やかに舞いながら繰り出される剣技は、相対する敵をも魅了する。


「歌……力……破滅」

「破滅ですって? あなた達は人間に何を求めているの? なぜ私たちを襲うの?!」


 ティナの質問に対し、スルトは歯を噛み締めて感情を剥き出しにする。

 その表情は、まるで仇を見つけた被害者のように憎悪でみちていた。


「人間……危険……神……滅び」

「神が……滅びる?」


 スルトが創遏を一気に高めると、背後に炎で作られた輪が現れる。

 ゆらゆらと燃え盛る輪は神秘的に輝き、ティナの視線を釘づけにした。


「人間……殲滅……神……運命」


 次の瞬間、炎の輪が二羽の火の鳥に変化を遂げる。

 目にも止まらない速さで飛びかう火の鳥は、嘴をティナに向け猛スピードで突撃した。


「くぅ……」


 ティナは咄嗟に双剣を振りまわし、火の鳥を一羽ずつ斬り裂いていく。

 しかし、火の鳥は斬ったそばから分裂し再生を始めた。

 二つに別れた火種は、それぞれが瞬く間に元の形に戻る。

 斬り裂くほどに数が増え、再生したものは休む間もなく再びティナの命を狙った。


「数が……多すぎる……」


 二羽だった鳥は、あっという間に数十羽ほどに増える。

 それでも抵抗する度に数が増え続け、ティナの手では捌ききれなくなっていた。


「隙……」


 火の鳥の対処で手一杯だったティナに、スルトの刀が容赦なく振りかざされる。

 何とか刀を右手の剣で制止するも、がら空きになってしまった横腹に一羽の火の鳥が嘴を突き立てる。


「つぅ……」


 刺傷と火傷が同時に襲う。

 頬を噛み締めて痛みを誤魔化すが、身体中を駆け巡る激痛にティナは顔を歪めた。


 囲まれていては危険と判断し、痛みを堪えて活遏を足に集中する。

 距離をとることだけに全力を注ぎ、思いっきり空を蹴ると、一瞬でスルトの包囲網から抜け出した。


「はぁ……はぁ……」


 左手で傷口を抑え、創遏を集中し止血する。

 それでも痛みそのものが消えることはなく、肩で息をしながら辛そうに汗を流した。


「人間……危険……排除」


 スルトが再び刀を構えると、火の鳥も同時にティナを見定めた。

 力の差に圧倒されるも、ティナは諦めることなく、よろめく体で剣を構える。


「終演……」


 今にも火の鳥が襲いかかる──その時であった。

 スルトの後方から激しい爆発音と共に、黒い柱が天を貫く。


「異常……異常……異常」


 黒い柱を中心として暴れ出る創遏に、スルトは強い恐怖を感じる。

 恐怖した理由は、力が強大であるからではなく、それが異質だったからだ。


「危険……危険……危険」


 黒い柱から男性の人影が現れると、怯えるスルトに向けゆっくりと近づいていく。

 その人影を見るや、ティナは強い安堵に思わず笑みをこぼしてしまった。


「あぁ……そうだ。今の俺は危険だ。どうしようもなく機嫌が悪い」


 王喰を発動し、片目を黒に染めた男が怒りに震える。

 その激情に周囲の空間が媚びへつらう。

 この男の逆鱗は、世界をも支配するのだ。


「俺が今から貴様を排除する」


 漆黒の長刀を肩にかつぎ、怒りを振り撒きながら姿を現したのは、クロエであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ