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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第5章 神殺しの戦い
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第6話 激情の脈動

 ──セントレイス北西部。


「お兄さん。いつまで悲しい素振りしてるの? しっかりしなよ、男なんでしょ?」


 少年は、地に伏せるシアンに向かい嫌味をはなつ。

 空間転移によって北西部まで飛ばされたシアンの前に立つのは、不条理を司る神『六聖』ベベロン=ム=シャンパザードであった。

 見た目は十五歳ほどの少年であったが、紫色の瞳から放たれる威圧感は、恐怖そのものである。


「貴様ら……何が目的だ」


 シアンは地面を見つめたまま、ボソボソと口を開く。

 小声で良く聞き取れなかったベベロンは、シアンの目の前まで近づき、耳を傾けて顔をしかめた。


「なになに? もっとハッキリ喋りなよ、イライラするな~。人間って見ているだけで、どうしてこんなに腹が立つんだろう?」


 人間を見下すベベロンの傲慢な態度は、虎の心を逆撫でる。

 近づけられた顔をシアンは鷲掴みにし、勢い良く地面に叩きつけると、ゆっくり立ち上がり、ベベロンを見下ろした。


「全員……俺が殺してやる」


 強い殺意がシアンを支配する。

 怒りのまま深碧の王創を身に纏い剣を作り出すと、切っ先をベベロンに向け、躊躇することなく突き刺そうとした。


 しかし、いきなりシアンの額を強い痛みが襲い、赤く腫れ上がる。

 突然の出来事にシアンは驚き、ベベロンから少し距離をとった。


(なんだ……いつ攻撃された……?)


 激情こそしていたものの、決して油断していたわけではない所に攻撃をくらい、シアンは平静さを取り戻す。

 ベベロンはつまらなそうに起き上がり、首を傾げながらシアンに問う。


「なに? 僕のことを殺すんじゃないの? なに躊躇ってるの? つまんない男だね」


 安っぽい挑発でおちょくるベベロンは、攻撃をする様子もなく、ただブラブラとシアンを中心に円を描くよう歩いてまわる。


「何してやがる? 歩いて見て回るだけじゃ、いつまで経っても俺を殺すことなんてできねーぞ。さっさとかかってこいよ」

「なぁに、そんなことはないよ。僕が何かしなくても、君は勝手に死んでいくさ」


 攻めてくる気配がないベベロンに痺れを切らしたシアンは、右手の中指にはめていた指輪に力を込める。

 すると、深碧の王創はシアンに飲み込まれ、全て体に吸収されると同時に左目が深碧に染まった。


「おや、それは喰らい歌。お兄さん達は王喰と呼んでいたね? まさかお兄さんみたいな半端者が使えるとは思わなかったよ」


 シアンが王喰に入ったことに驚いたベベロンであったが、焦りや怯えは一切見せない。

 そんな姿を気に食わなそうに見ていたシアンは、指輪が見えるよう右手を主張する。


「これのお陰だ。こいつは真創具、エルマンが完成させた王喰を発生させる起爆剤だ。つい最近完成したばかりで数はないが、隊長達は全員渡されている。予想外だったか?」


 真創具を見て感心したベベロンは、手を叩き笑みを浮かべる。

 その姿は、無邪気な子供そのものであった。


「へぇー! 凄いね! 喰らい歌は神でも使えるのは神聖くらいだよ。でも、お兄さんみたいな人がその力を使えても、僕には勝てな……」

「なら、そのまま死んでろよ」


 ベベロンが話し終わるのを待たず、シアンは一瞬で背後をとる。

 肩から腰にかけて斬り落とす勢いで剣を振り下ろすと、ベベロンが振り返る前にその背を斬り裂いた。


「ぐぁぅ」


 羽織っていたローブはベベロンの血飛沫で真っ赤に染まり、激痛に顔を歪める。

 シアンは剣を肩に担ぎ、威嚇するような眼圧でベベロンを睨みつけた。


「よう、誰が誰に勝てないって? あまり人間様舐めてるんじゃねーぞ、糞ガキ」


 そのまま息の根を止めようと、ベベロンの首に狙いを定める。

 しかし瞬きをした瞬間、ベベロンの背中の傷が無くなっていることに気がついた。


「やれやれ。さっさと僕の首でも斬り落としてくれたら早いのに」

「なっ!?」


 何事もなかったかのようにベベロンが立ち上がると、次の瞬間、シアンの背中から血飛沫が弾け飛ぶ。

 傷口から焼きつけるような痛みが身体を巡り、シアンはそのまま膝を突いた。


「なっ……いつの間に。それにお前、なんで傷が無くなって」


 ベベロンは腹を抑えながら笑い転げてシアンを指差しする。


「あーはっはっは。笑っちゃうよ。人間様を舐めるなって? いやー笑わせないでよ。言っただろ? お兄さんは僕に勝てないんだよ」


 シアンの斬撃によって破れたローブを脱ぎ捨てると、その姿は顔立ちからも容易に想像ができた、普通の少年そのものであった。

 上半身は裸体で、鍛え上げられた体とは程遠い、柔らかな質感。

 七分丈ほどのズボンをはき、そのふくらはぎには神々の証である十字の刻印が刻まれていた。


「さぁ、もっと気合いを入れなよ。僕を、神を殺すんだろ?」


 痛みを堪えながらシアンは起き上がると、躊躇することなく少年の腕を斬りつける。

 ベベロンの左腕を剣が掠め、うっすらと血が滲む。


「なに? 首を斬り落とすんじゃなかったの?」


 不思議そうにベベロンが傷口を見つめると、左腕についた傷が瞬く間に消え、同時にシアンの左腕に同じ傷が浮かび上がる。

 シアンは何か確信したようにその傷を確認すると、王喰状態を解除し、創遏を抑えこんだ。


「へぇ~。そうか、ただの馬鹿ではないんだね?」

「神々には固有能力のようなものがあると、事前に聞いてはいた。お前、傷を俺に転移しているな」


 自らの瞳を指差し、ベベロンは馬鹿にするよう舌を出して説明を始める。


「ご名答。僕の固有能力ソリッドは『反転世界ムーランド』。僕の体に受けた事象を、任意対象に転移する。お兄さんの攻撃によって負った傷は、痛みも全てそのままお兄さんに返される。分かるかな? 僕の首をはねれば、自動的にお兄さんの首が弾け飛ぶ。そして事象を転移した僕は、無傷のまま。お兄さんは僕に絶対勝つことができないんだよ」


 シアンは呆れ顔で眉間を抑え、ため息をついた。


「無茶苦茶な能力じゃねーか」

「理不尽だろ? 不合理だろ? 無茶苦茶だろ? 嫌気がさすかい? 勝てる気がしないかい? 諦めたくなったかい? しかたないよ、僕は不条理を司る神なんだからね」


 ベベロンは両腕を広げ、空を見上げながら高笑いをする。

 対抗作が思いつかず、シアンは思わず目を閉じる。

 隊員達は死に、自分も窮地に追いやられ心が折れかけていた。


 そんな時、死んでいった隊員達が走馬灯のように浮かび上がってくる。

 記憶に残る数々の隊員達が、光となって瞳の裏を泳ぎ、その中に一際目立つ暖かい光が語りかけてきた。


『たいちょ~うっ! 諦めちゃうでやんすか?』

(……ルル)

『らしくないでござるよ! 隊長はいつも突っ走ってないと!』

(ふっ……言っただろ。やんすかござるか、どっちかにしろって)

『いけずですね~。でも……そんな隊長が、大好きだよ』

(……ああ、分かっているよ)

『あっ自画自賛! やだやだぁ~…………隊長、勝ってくださいよ』

(……当たり前だ)


 シアンは目を開き、再び王喰を身に纏う。

 その瞳は、恐れを蹂躙する透き通った深碧の緑であった。


「なに? その生意気な目? 僕をイライラさせるね」


 剣を再び構えたシアンは、切っ先を空に掲げ宣言する。


「俺は弍王を越える男、シアン=ペルザ!! 蒼空に舞う戦士に誓う!! 俺が神を殺すと!!」

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