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神喰らう歌が貴方を殺すまで  作者: ゆーたろー
第4章 神々の再臨
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第25話 嫉妬と愛は同居済み

 カイトが過去を知ってから一週間が過ぎた。


 マールとグラディの再臨をきっかけに慌ただしくなっていた日々であったが、それまでが嘘のように平和な時間が戻ってきている。


「カイト! そっちのお花にお水お願いね!」

「あぁ、分かった」


 ナナの瞳はあれから緋色に戻ることはなく、少しずつではあるが、カイトも自分の心にゆとりができていた。

 今日は、ティナとクロエがセントレイスに出掛けており、カイトとナナは留守番がてら、家の周りにある花壇の手入れを任せられていた。


 カイトと二人で静かな時を過ごす。

 こんな平和で幸せな時間が、いつまでも続くことをナナは願っていた。



 しかし──幸せな時間とは、いつも突然の終わりを告げるものである。


 地鳴りのような音と共に、地面を這う土煙がもの凄い勢いで二人に迫ってきた。

 咄嗟に身構えたカイトであったが、その勢いに巻き込まれ、土煙と共に後方へ弾き飛ばされ地面に転がってしまう。


「な……んだ……何がぶつかってきた……」


 カイトにぶつかったことによって勢いを止めた土煙はゆっくりと空へ消えていき、倒れるカイトを抱き締めるようにクスハが寝そべっていた。


「カァーイィートォォー! 逢いたかったよー!」

「ク、クスハ?!」


 突然現れたクスハは、子猫のようにカイトに体を擦り寄せ、唇をそのままカイトに近づける。


「コラァァーーーー!!」


 ナナが慌ててクスハをカイトから引き剥がすと、不満そうに口を尖らせながら横目で文句を吐き出した。


「ちぇ、いいじゃん。私だってカイトとキスしたいもん! ナナだけズルい!」

「なっ! 誰からその話聞いたのよ!?」


 ナナとカイトは顔を赤くしながら慌てふためいた。

 二人しか知らないキスを、何故クスハが知っているのか。


(あの日のことを知っている人は……)


 カイトが犯人を想像すると、真っ先に思い浮かんだのはニヤケ顔で笑っているクロエであった。


(……絶対にあの人だ)


 カイトはその場に座り、額に手を当てながら大きくため息をつく。

 そんなカイトの腕をクスハが強引に引き寄せ、豊満な胸元に挟み込むと、耳元に顔を近づけて色目を使う。


「ナナが抜け駆けしたんだからね。今日は私に付き合ってもらうんだから」


 困っている様子のカイトだったが、優しい吐息が耳にかかり、その頬は若干赤く火照っている。

 クスハは追い討ちをかけるよう、胸をカイトに押し当てそのまま抱きついた。


 その様子を見ていたナナは、ガクガクと震えながら怒りを露にする。


「なっ、何してるのよー!!」

「うわっ! またナナが怒りそう! 行くよカイト!」


 クスハはそのままカイトの腕を引き、一目散にセントレイスへと向かってしまった。


「ごめんねナナー! 夕方には帰ってくるからねー!」


 捨て台詞を吐きながら、怒涛の勢いでカイトを誘拐してしまうクスハ。

 腕を引っぱられたカイトも、顔を赤くしてまんざらでもない様子であった。


「胸を押しつけられたからって……」


 一人残されたナナは自分の胸に手を当てる。

 クスハは着痩せしていて分かりにくいが、小さな体に似合わず、そのバストはリリーと同じFカップ。

 紛れもない巨乳なのである。


 それに比べナナはというと、贔屓目に見てもBカップ。

 いや、クスハと比べたら絶壁といっても間違いないだろう。


 胸に手を当てると、改めて顔を赤くしたカイトに腹が立ってくる。


「カイトのバカー!! へんたーい!!」


 必死に負け惜しみを叫ぶが、既に二人の姿は見えなくなっていた。


 暫くして、クロエとティナが家に帰ってくる。

 玄関の扉を開けると、居間の机に顔を乗せ、とてつもない苛立ちに包まれているナナと目が合った。


「ナ、ナナちゃん? ただいま……どう、したの?」


 ナナはピクリとも動かず、細くしかめた目でティナの胸元に目を向ける。


「お帰りなさい。ティナさん、何カップですか?」

「えっ……どうしたの、急に……」


 ナナの鋭い視線に、ティナがたじろむ。

 何やら強い殺気を向けられているような感覚であった。


「いいから教えて下さい、何カップですか」

「ディ、Dカップだけど……?」

「……はぁ。やっぱり胸ですよね」


 謎の問いかけをしてきたナナは、不満そうに顔を机に擦りつける。

 何となく状況を把握したクロエは、笑いながらナナの肩を叩いた。


「ナナ、無いものは無い。諦めろ」


 そのまま大笑いしたクロエに向かい、ナナがフライパンを構えて振りかぶろうとした。


「おいおい! そんな怒るなって! どうせクスハがカイトを連れ回してるんだろ? セントレイスであいつらを見かけたぞ?」

「えっ?! 何してたんですか?」

「どうだったか。遠目で見ただけだから話しかけたりはしてないが、楽しそうに笑いながら買い物していたぞ?」


 クロエの報告を聞き、テンションはドン底まで落とされ、ナナは再び机に顔を擦りつけ始める。

 ティナはクロエの頭を軽く叩き、余計なことを言うなと小声で呟いた。


「そんなにへこむなら、カイトに揉みまくってもらえばいいじゃねーか? 言うだろ? 好きな人に揉まれれば大きくなるって」


 ナナはバッと顔を起こし、顔を真っ赤にさせ目を大きく開く。


「む、む、むっ、胸をも、も、揉ま、まっ?!」


 純粋な女の子には、胸を男性に揉まれる何てハレンチな発想は頭になかった。


「なんだ? もしかして、ずっと一緒に暮らしているのに、まだ寝たことないのか?」

「ね、ね、ね、ね! ね、寝る?!」


 クロエの言葉は、ナナの羞恥心を剥き出しにした。

 頭から蒸気機関車のように湯気を出し、口をポカンと開けて目を泳がせる。


「寝るっていってその態度ってことは、どんな意味か分かってるんだろ? 全く、カイトも奥手だからな。ナナも自分からグイグイ攻めないと、クスハに遅れをとるぞ?」

「い、え、いや、そんな、寝るって」


 動揺するナナが面白くてたまらないクロエは、止めの一撃を刺しにいく。


「安心しろ。こう見えて、ティナも激しいのが好きでな? 夜に酒なんて飲んだら、もっともっとって……」


 雄弁に喋るクロエが、ガツンと痛々しい音と共にその場に崩れ落ちる。

 調子にのったクロエに、ティナの鉄拳制裁がくだったのだ。


「全く、この馬鹿」


 ティナが顔を真っ赤にして拳を振り下ろしていた。

 その赤い顔を見るに、クロエの話もあながち間違っていないらしい。


「ナナちゃん、この馬鹿の話はあてにしなくていいから! そんな気にしてちゃダメだよ!」


 倒れたクロエの耳を引っ張り、床を引きずるようにしながら、ティナは恥ずかしそうに部屋へそそくさと逃げていった。


 一人残されたナナは、カイトとベッドで抱き合う姿を妄想し、頭の上に浮かんだ自分の空想を必死に手で追い払った。

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