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僕と彼女と記憶と後悔  作者: 上川 三真
1/4

アイス珈琲とクリームソーダ

異世界とか、エルフとか、ドラゴンとか、魔法少女とか、お兄ちゃん好きの妹とか、転生とか、巨大生物とか、空飛ぶ何チャラとか、同級生からモテまくるとか、お隣さんが巨乳美女とかは出て来ません!


実際に作者が経験した恋愛を主人公の工藤(くどう) 恵人(けいと)の目線で綴った、恋愛ショートストーリー集となります。


1話完結型で読み易さを考慮しているつもりですが、初めての執筆なので、文章のテクニック等はありません。


1話、10分程度で読めるかと思います。

是非、よろしくお願いします!



やっぱり来ないか…

(2回目 もう3時 帰るか)

前回もランチの約束? と言うかランチに誘ったが、彼女は来なかった

(この前も3時間待ったし、念のため今日は4時間待ったし、家にも3回電話したけど、誰も出なかったし)

流行りのデートバイブル誌を見ながら考えた僕の完璧なプランは実行される事なく、まだ3時なのに少し暗くなり始めた薄曇りの空と共に、今日の終わりを告げようとしていた



「さてと…」

4時間の間、何十回も見た時刻表を確認し切符を買う

終点駅のホームのベンチで折り返しの電車を待つ

意味もなく、何度も時計を見上げる

家族連れ カップル 耳障りな学生達 はしゃぐ子供…

他人を見ているのは楽しいもので、つい目で追ってしまう

特に綺麗な人は…

(彼氏いるのかな?)

時々合ってしまう目がとても気まずい… 

特徴的な駅員のアナウンス

(何回聞いただろう? 白線の内側にお下がりください)

ゆっくりと滑り込む折り返し運転の電車

「何すっかな?これから帰って」

小さな独り言



乗車待ちの列に並ぶ僕に、不意に襲いかかる声

「ギリギリセーフ 危なかったね!」

「待った?」

振り返る僕の瞳に満面の笑みが映り込む

(待った? 4時間だぞ! 良く言えたもんだ 

それに何なんだよその罪悪感の微塵も無い笑顔は? 

俺との約束のために来たのか? 4時間遅れで? 

普通の男は待っていないだろう!)

4時間待っていた僕もなかなかだが

4時間遅れて来る彼女もなかなかなものだ

(ねえ、もしかして前回も来たの?)

聞けない僕と、何も言わない彼女の、少しぎこちない時間が過ぎる

「あぁ、大丈夫 CD見たりしてたから」

「良かった!」

(良かった? 4時間ここで立っていたんだぞ!って俺も小さい男だな…)

「うん」

「何か買ったの?」

「何も」

(来てくれて本当に良かった… 切符、もう1回使えるかな?)

小さな男を乗せずに走り出す電車の音が、心なしか明るくなった冬の空に吸い込まれていった



「寒いね」

独り言の様に通り過ぎる彼女の言葉に頷きながら、ポケットの中の僕の右手は少し汗ばみ、速まる鼓動に引っ張られながら、僕の体温は確実に彼女よりも高くなっていた

商店街から流れる「愛は勝つ」が僕に少しの勇気を与える



彼女は行川美千(ゆきかわみち) 

中学の同級生で昔から自分の事をミッチと呼ぶ

中学の時は特別仲が良いわけではなく、殆ど話をした記憶も無い

どちらかと言うと少し悪い方のグループに属していたが不良ではない

僕が通う高校と同じ駅の女子高に通う

遅刻の常習犯で朝の電車で見掛けることは滅多にない

帰りの電車で時々見掛けるが、いつも彼女の回りには沢山の友達がいたので、高校生になっても話をしたのは数える程しか無かった



帰りは僕が手前の駅で、彼女は次の駅で降りる

僕が降りた駅のホームで、僕を追い越していく電車の窓越しに軽く右手をあげて無言の「またね」を送り合う



ただ、それだけの友人以上友達未満的な、微妙な関係だった

(高校生になって可愛くなったな… 

もっと中学の頃から仲良くしておけば良かったな…)

そんな事を思いながら何も無い駅の階段を昇る

違う車輌に乗っていた同級生と合流し、

馬鹿話をしながら家に帰る

「けー君彼女出来た?」

「学校、女子のが多いんでしょ?」

僕が進学した商業高校は女子が7割、工業高校から見たらパラダイスなのだろう

(現実はそんな良いものでは無いが…)

「羨ましいな!」

「けー君 したことあるの?」

「…まぁね」

(無いよ! 彼女出来た事無いんだから…)

「今度コンパしようよ!」

「工業高校悲惨だよ 同級生に女子6人しかいないんだから」

「しかも全員ブス」

(そこは少し同情する)

「そう言えばさ、この前修平がさ…」

(何度も聞いた話)

何故? 最近は急に昔のどうでもいいことを思い出すのだろう

思い出したいことは思い出せないのに…



「ポケベル買えばいいのに!」

「あぁ でも何か今更だし そのうちPHSレンタルしようと思ってるから」

(そりゃポケベル欲しいけどさ、あれば待ち合わせももっと楽になるだろうし、でも使い方も知らないし…)

当時、女子高生のあいだではポケベルが必須アイテムでスマホなんて物はまだ存在していない

携帯電話が庶民にも普及がし始めたが、とても高価で、購入するよりもレンタルが主流だった

PHSは簡単に言えば携帯電話の低機能 低価格版といったところだか、それでも庶民には最先端で憧れのアイテムだった



「お腹空いたね! 何か食べた?」

「あぁ、まだ何も」

(食べてる訳無いじゃん ずっと駅で待っていたんだから!)

「それじゃあさ、マックの裏の焼きそば屋行こうよ! ミッチあそこ大好き!」 

「いいよ」

(焼きそばか…ちょっと違うけど旨いからいいか)

「昨日ね高校の時の友達がね…」

「ゆきちん覚えてる?」

「今度東京にコンサート見に行くんだ」

他愛ない会話 半歩先を彼女が歩き、どんどん進んでいく

彼女の左手を探す僕 ポケットの中の弱気な右手

冬の西陽はとても眩しく彼女を照らしていた



高校の時に何度か行ったことがある

昔から人気の焼きそば屋。

(社会人になってから行くのは初めてだな)



「ラッキー 全然並んで無いね!」

3時半 この時間に行列が出来ている飲食店は、いくらバブルと言っても世の中そうは無いだろう

油でベトついたテーブル 

普通 大盛 特盛 たった三種類のメニュー 

あの時のおばさん

(変わっていないな)

「けー君 どれにする?」

「俺は普通で」

「おばちゃん、普通二つ 一つは青のり抜きで!」

(青のりあった方が美味しいのに)

明るい彼女の声が空いた店内に響き渡る



「ねぇ、ピッチ何処にするの? 私もピッチ欲しいな! でも高いよね?」

「あぁ、まだちゃんと決めていないけどねツーカーかな? 仕事でもあれば便利だしね」

「けーくん、営業だっけ? 大変じゃない? 私には絶対無理!」

「そうかな? ミッチ、美人だから営業やったら売れると思うけどな 俺だったら何か勧められたら絶対買っちゃうもん!」

(少しドキドキしながら言ってみた)

「この前うちの犬がね…」

「あぁ、柴犬だっけ?」…

(もう話が変わったのか マイペース 天真爛漫 自由奔放)

真っ直ぐ僕の目を見つめながら話す彼女

(本当にズルい)



殆ど話した事がなかった中学の時のあだ名で呼び合う事に少し違和感を覚えながら、彼女は気にする素振りも無く、出来立ての焼きそばに大量のマヨネーズと七味唐辛子をかけ始めた

「ミッチこれ好き! ミッチスペシャル♥️ ちょっと食べる?」 

(これだよ 素なのか? あざといのか?)

「あぁ、大丈夫。 俺はそのままが好きだから」 

(瞬間的に答えてしまった バカだ! こんなチャンス2度と無いぞ!) 

ふと、14歳の立志式に立てた誓いを思い出す

【後悔しないように生きる】



「中学の時ってさ、けー君、ミッチ嫌いだったでしょ?」

(いきなり何を言い出すんだ?)

「そんな事無かったと思うよ」

(そういう時期もあったけど)

「あまり話はしたことないけどね…」

「ほら、ミッチって、ちょっと悪そうで話しづらいって言うか…」

「そんな事無いよ!」

「そうかな?」

「そうだよ!」

「そか」

「うん」

「中学の時ってさ…」

(食べたかったな… ミッチスペシャル♥️)



何度か考えたけど思い出せなかった

何がきっかけでミッチをデートに誘うようになったのか?

 


高校の友達もそうだ

僕らの高校は2年生になる時だけクラス替えがあった

高校2年と3年は同じクラスメイトだ

高校3年の夏に急に仲良くなったクラスメイトがいたが、それまでは殆ど話をしたことが無かった

ダンスをして バイクに乗って バンドやって カラオケ行って お酒を飲んで タバコを吸って 色々悪さもした

卒業して30年になるが、今でも2年に1回位、当時の仲良し4人が集まって酒を飲む

毎回同じ話をして、毎回この疑問に突き当たるが、4人とも覚えている者はいない。

きっと今後もそれを思い出す事は無いのだろう…

何がきっかけで親友になったのだろうか?



「聞いてる?」

「あっ ゴメン」

「ミッチ、帰っちゃうよ!」

「本当にゴメン」

「もーう、ミッチ見たい映画があるんだけど」

「ミッチスペシャル♥️ 少し貰えば良かったな…って考えてた」

「でしょ! だから言ったのに!」

「残念でした!」

勝ち誇った笑顔

(正直、映画は嫌いだ。 あの暗い空間で2時間もじっとしていると100%の確率で頭痛になる)



計画ではお洒落な裏通りのレストランでランチをして

流行りのDCブランドショップでアクセサリーをプレゼント

彼女の好み通りに街を歩いて、人気のジャズバーでカクテルを

僕にしては少し背伸びしたデートプランだったのだが…

完全に彼女のペースだ



「いいよ。 何の映画?」

「プリティーウーマン 観たことある?」

「無いよ でも人気だよね!」

(昔は映画良く観たんだけどな)

初めて見た映画は【誘拐報道】

母親が貰ってきた映画招待券で観に行った映画だった

小学生の僕には難しい映画だった事だけは覚えている

(あの映画は誰が出ていたかな?)



横一列に並んだ、僕と彼女のトートバッグと彼女が、人波に押されて映画館に吸い込まれていった



「結構混んでるね 前の席しか空いてないけど、前でもいい?」

「ミッチ前だと首が痛くなるから、ここの階段で見ようよ」

(階段だと疲れるけど、可愛いからいいか それに椅子席よりも近いし)

当時の映画館は詰め込めるだけ詰め込んだので、満員の時は立ち見や階段に座って観るのが普通だったが、今は知らない

ギリギリ腕が触れない間隔を保ちながら、彼女はスクリーンを見つめていた

(ミッチ 胸大きくなったな… なんて、何を考えているんだ俺は!)

僕の右手と彼女の左手は磁石のS極とS極同士

多分、彼女は何も考えていないだろう 映画に集中することが出来ない、隣に座る男の事などは

(ねぇねぇ! 手、握ったら怒る?)

心の声は決して届くことはない

相変わらず弱気な僕の右手はコートのポケットの中で、チケットの半券を握りしめていた



彼女を待った永遠のような4時間

何も出来ずに終わった刹那の2時間

「映画、面白かったね!」

「あぁ、そうだね」

「憧れちゃうよね♥️ 私も誰かいないかな?」

「ハハッ そうだね」

(告白のチャンス到来)

映画館を出た二人は自然に駅に向かって歩き出す 

少しだけ勇気を振り絞って

「この後 まだ時間あったらさ…」

「ミッチ、夜は彼氏来るから」

(人の話は最後まで聞けと教わらなかったのか?)

(さっき、誰かいないかな?って言って無かったか?)

「そか。 じゃあ帰ろうか」

「うん」

殆ど覚えていない映画の話をしながら駅に向かう

こういう時にみんな思うんだろうな

【時間よ止まれ!】



商店街に流れる「SAY YES」が心に突き刺さる



右手の汗は完全に引いていた

帰りの電車で僕が呟く

「寒いね」

同じ体温になった僕と彼女を

向かい側に座った子供が見つめている

帰りの電車で彼女が呟く

「寒いね」

「…うん」



「今日は付き合ってくれて、ありがとうね」

「楽しかった」

「ミッチも楽しかったよ!」

「次はミッチスペシャル♥️ 食べさせてね!」

「ははは」

「それじゃ」

「バイバーイ」

(変わらず明るい 脈無し 彼氏いるから当然か…)



帰りは僕が手前の駅で、彼女は次の駅で降りる。

僕が降りた駅のホームで、僕を追い越していく電車の窓越しに軽く右手をあげて無言の「またね」を送り合う。



二十数年振りにテレビでプリティーウーマンを観る

これってこんなに泣ける映画だっただろうか?



(そうか… 寝坊して学校を遅刻した日に、ミッチも遅刻で同じ電車に乗っていたんだった)

そのまま駅ビルの喫茶店でアイス珈琲とクリームソーダ

「また今度!」って

いくら思いだそうとしても、思い出せなかった記憶

ほんのりと浮かび上がる彼女の輪郭

(えっ? あれっ?) 

引き換えに失われるもの…

ミッチ、今どうしているのかな…?



僕は自分で自分の事をあだ名で呼ぶ女は嫌いだ…。

初めての小説執筆となります。

約30年前の思い出恋愛ストーリーです。

現実にはもう少し色々な出来事がありました。

もしも、もっと読んでみたいと言う方がおられましたら、アイス珈琲とクリームソーダの続編を描きたいと思います。

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