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【辞令】昇進

 涼井は共和国首都星のある惑星ゼウスに久々に降り立った。

 第9艦隊は首席幕僚のバークに任せ、護衛のロッテーシャ大尉と数名の陸戦隊、副官のリリヤだけを伴った気軽な出張だ。


 惑星ゼウスでは共和国と帝国の停戦、長年の宿敵だったリシャール公の捕縛、内乱の鎮圧を祝って盛大な祭りが広がっていた。特に都市部ではありとあらゆる建物から共和国旗が翻り、人々が溢れていた。昼間から酒をあおっている集団もたくさんいた。


 迎えの車に乗って涼井は宇宙軍総司令部に向かった。

 宇宙軍総司令部では儀仗兵がずらりと並び涼井の来訪を歓迎していた。

 整然と並び旧式の小銃で捧げ筒の態勢をとった儀仗兵はきらびやかな制服、青空と相まって実に見事だった。


 司令部に入ると案内の広報官によって司令官室に通され、そこではノートン元帥が背筋を伸ばしかしこまって立っていた。


「スズハル君、本当に良くやってくれた……」

 初老のノートン元帥の目には慈愛さえ浮かんでいるように見えた。


「いえ……皆様の力です。皆様の協力がなければここまでのことはできなかったでしょう」

 涼井はジャパニーズサラリーマンならではの謙遜で軽く頭を下げた。


「ずいぶん謙虚な男になったものだ。皆を立て、あくまで相談という形で協力を要請し、結果としてあれだけの大会戦を戦う組織を作ったのだ。見事というほかはない」

「ありがとうございます」

「我々もどうやって君に報いたら良いのか分からないが……」


 ノートン元帥が目くばせするとノートンの副官が何やら箱を携えて持ってきた。

「まずは名誉としてはこの共和国黄金剣章を受け取ってほしい。もちろん知っていると思うが、これは軍人最高の栄誉で歴代大統領も数名はこれの受勲者だよ」

「ありがたく頂戴します」


 その勲章は立派な箱に入った黄金の剣を象った勲章だった。

 共和国の紋章も入っている。

 涼井は素直に受け取った。


「そして辞令だが……私はこのたび統合幕僚長に昇進した。ロドリゲス元帥の後任でね。そこで君には私の代わりに宇宙艦隊司令長官を引き受けてほしい……もちろん大将への昇進とセットだ。どうかね?」

「大変ありがたいお話です……」


 涼井はしばし黙考した。

 確かにこれは共和国が涼井の能力と実績を評価した結果の昇進だ。

 もちろん宇宙軍総司令官という立場になることで新たなステージも見えてくることだろう。この世界で共和国宇宙軍そのものを指揮できるというのは非常に名誉なことだった。


「ありがたくお受けいたします」

 涼井は決断した。


「おぉ! やってくれるかね!」

 ノートン元帥は破顔した。


「正式な任命式はまた別だが、今日は大統領も時間をたっぷりと取っている。盛大に祝おうじゃないか」

「ありがたく……」


 その様子をロッテ―シャとリリヤは見ていたが、ロッテーシャは背筋を伸ばし直立不動の態勢だったが感激のあまりか感涙を流していた。

 ぎょっとするリリヤ。

「ちょっと……大尉、感動してるんですか?」

「私が仕えてきた提督が総司令官になるのだ、これほど素晴らしい日はない」

「えぇー……でもまぁ私たちも少しは昇進できますかねー?」

 とリリヤ。


 広報官がうぉっほんと咳をすると二人とも黙った。 

 

――その日の大統領官邸で開催された宴会は盛大なものだった。


 大統領エドワルド、統合幕僚議長のノートンをはじめ、第9艦隊の主要な面々も招待され、保守派の著名人や政治家が多数出席していた。その会場では何やらよくわからない年月熟成されたワインがふるまわれた。

 涼井は素直に感謝しその宴会も楽しんだ。


 エドワルドもいつになく酔っ払い、ボールルームにしつらえられていた休憩用のソファに寝っ転がって寝始めていた。

 彼は彼で共和国のリーダーであるという重責に耐えながら帝国との戦争を指導する一方、選挙戦も戦わなければならないという重圧の一部からようやく解放されたのだ。


 涼井はいつも通り大いに楽しむ一方、翌日に酒を残さない程度に付き合い、大統領官邸を辞した。


 車で軍人用の割引があるホテルに向かう。リリヤとバークがまだ飲んでいる姿を見かけたような気もしていたが、ロッテ―シャ大尉と護衛の陸戦隊員はすっと涼井についてきた。車の中から共和国首都の夜景が見える。

 

 宇宙艦隊司令長官!

 帝国とは停戦したが、ヴァイン公リリザの戴冠式もあり、カルヴァドス公爵によるリシャール公の領地引き取りもあり、まだまだ火種はたくさんある。


 それにこの世界の二大勢力は確かに共和国と帝国だったが、他にも独立した勢力がいないわけではない。あのフォックス・クレメンス社と関係があると思われる商業ギルド同盟、帝国からの飛び地が元になったリマリ辺境伯領やアルファ帝国の宗教騎士団のクヴェヴリ騎士団領、共和国から昔分離したロストフ連邦など中小規模ながら侮れない勢力を持った国々がいる。


 戴冠式にはそうした国々も招かれるということだから、結構なハプニングが起こるかもしれない。まだまだ安心して羽を伸ばせる状況ではなさそうだった。


 しかしそうした思いを巡らせているうちにホテルに到着した。

 涼井は色々と考えるのは明日に延ばすこととして制服を脱ぎ、そのままベッドに倒れ込み眠りに落ちるのだった。

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