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【決算】戦後処理

 カヴァ宙域会戦は終結した。

 同盟した貴族連合も併せると50万隻にも達する艦艇群を動員し、リシャール公とチャン・ユーリン提督の反乱を鎮圧したのだった。


 チャン・ユーリン提督は旗艦を吹き飛ばされ漂流しているところを拿捕され本人は重傷だったが捕虜となった。

 リシャール公はそれ以上の戦闘は無意味とみて降伏した。

 その他、トラン・フー提督は行方不明、彼を逃がすために殿をつとめていたエメット提督は旗艦が破砕されていたのを確認されたため、戦死と推定。ブライト・リンは捕虜となった。

 ランドッグ伯爵、ルーション伯爵、フランツ・ミッテルライン公、ベルナーレ・ヴァッレ・ダオスタ伯も捕らえられた。


 共和国軍は将兵の戦死者こそ数十万に達したものの高級将校である提督・指揮官に損害はなかった。一方、指揮官先頭を貫いたためか解放軍には指揮官クラスの戦死者が目立った。


 可能な限り指揮系統を温存した戦い方を優先したためだ。それは貴族連合にも出来る限り守ってもらったが、一部の血気盛んな小領主たちの突撃による損害はあったがヴァイン公リリザやカルヴァドス伯爵などは健在だった。


 捕虜たちはロアルド提督の任務艦隊が護送することとなったが、今後の共和国と帝国の間をどうするのか、そもそも帝国を誰が統治していくのか、捕虜をどう分けていくかについての会議は設けられた。


 共和国や帝国領地に艦隊が移動していく中、会議はリオハ宙域で行われた。

 会議は貴賓室のある共和国軍旗艦の「ゼウス」で開催された。

 

 会戦後、急いでやってきた大統領エドワルド、宇宙艦隊司令官ノートン大将、大統領たっての希望で涼井、帝国側はヴァイン公リリザ、カルヴァドス伯爵、リリザの同盟貴族として戦った選帝公のガリシア公とトスカナ公が出席した。


 ヴァイン公リリザは銀髪をかきあげ天然素材の木で出来た円卓とその面々を見回し、貴賓室の豪奢な調度品を見つめてふっと笑った。

「共和国にしてはなかなか良い調度品ね。まぁ伯爵クラスといったところかしら?」

「誉め言葉として受け取っておきましょう」とこれはエドワルド。


「姫公爵閣下……うぉっほん!」

 ヴァイン公リリザに視線を送りながら咳こむカルヴァドス伯爵。

 

「さて……」

 涼井が切り出す。

「戦後処理……というわけですが……」

 一同が涼井を注視した。


 今回はあくまで政治マターのため涼井は特に大きな提案をしていたわけではないしその権限もなかった。しかしカヴァ宙域会戦で解放軍を葬り去り、共和国と帝国貴族の同盟という新しい局面を作ったのはまさしく涼井だった。

 

 彼らの視線は畏敬、好意、あるいは若干の畏怖、それらが入り混じったようだった。


 涼井が切り出したことによって話は進んだ。

 先ず帝国についてはリシャール公が消え去ったことによってその領地などが浮いた。さらに6大選帝公も残ったのはヴァイン公、ガリシア公、トスカナ公の3名だけだった。


 共和国としては今回の勝利に貢献したことによって領地を要求するのもひとつの手ではあったが、それは涼井が止めた。争いの種を自ら作っても仕方がなく、共和国としては防衛範囲が広がることは望ましくない。

 数は大きいが多くは新造艦隊だ。

 

 無理な予備役の動員などもしているため、やがて艦艇の規模は順次元に戻さなければならなかった。


 一方、帝国側もリシャール公やヴァッレ・ダオスタ公についた貴族たちを即座に処断というわけにもいかなかった。

 帝国は小規模な貴族たちの大きな連合体であり、中央政府が強権を振るうことができるような立場ではなかった。


 舌を滑らかにするための酒がふるまわれ、意外にも1口だけワインを飲んだヴァイン公リリザが顔を真っ赤にして倒れかけるという椿事はあったもののどうにかこうにか決着はついた。


 1.共和国はこれまで通りの領域を保持する。ハデス・ヘラなどの辺境は共和国がこれまで通り領地とする。

 2.ヴァイン公リリザが新皇帝の地位につき、ガリシア、トスカナはそれを支える。

 3.カルヴァドス伯はミッテルライン公の領地を引き継ぎミッテルライン公爵となる。

 4.交通の要衝であるリオハ宙域には共和国・帝国共同の警備艦隊を置く。

 5.共和国と帝国は戦争状態を解消し改めて不戦条約を締結する


 おおまかな方針は決まったため、後は国務省などの仕事だった。

 共和国、帝国それぞれの本来の言語、および共通言語を正文として条約を締結するのだ。


 会議は決着がつき、意外に芸達者なトスカナ公が古典劇の1人芝居などを披露しはじめたため涼井は場を辞した。


 貴賓室のあるフロアからいつもの武骨な回廊に出る。

 内火艇に乗るために歩いていると、後ろから声をかけてきた人物がいた。


「スズハル提督……」

「!」

 声をかけてきたのはヴァイン公リリザだった。

 さきほど酔っぱらって退出したままだったのだ。


「これは公爵閣下」

「ふ……提督には何度も助けられている。余計な礼儀は良い」

「は……」

「今回は本当に助かった。しばらくしたら私の戴冠式も行われるだろう。戴冠式にはぜひ出席してほしい」

「光栄です」

 リリザはふっと目に哀愁の色を浮かべた。


「……しばらく空位だった帝国の皇帝が出現する。これは帝国内においては安定を意味するかもしれないが、周辺国にとっては……」

 涼井はリリザの意図を図りかね、彼女の眼を見つめた。

 

 リリザは今度は心底楽しそうな表情を浮かべた。

「良い、そう見つめられると照れる。正式には招待状を出そうぞ。またいずれ、涼井提督(・・・・)

「!」


 リリザは謎めいた表情となり踵を返して去っていった。

 涼井にとって、初めて本名を呼ばれたことが驚きでもあった。

 そのことが気になり、彼女の後姿を茫然と見送る他はなかった。

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