Re:Re:Re:【新規発注】史上最大の作戦
涼井はこの作戦に出る前にまずチャン・ユーリン提督との対戦方法を緻密に分析した。
基本的には奇策で勝利するタイプで、この世界の「なぜか罠に引っ掛かりやすい軍人たち」を手玉にとる傾向があった。
ただどんなに言い含めても「誰かがやっぱり罠に引っ掛かる」可能性と、シンプルに歴戦の軍人たちを揃えたチャン艦隊の戦力は侮れないものがあった。
そこで涼井は地球で調べてきた戦例に乗っ取って、「戦術的に勝つ」ではなく大兵力をぶつけて押しつぶすという方針に出た。
そこから涼井は猛烈に働いた。
商社時代のように出張に行き、軍需工場を視察しその生産力を子細に調べた。
先日、アテナ星域の暴動から始まってポセイドン宙域の軍需工場を押さえるのに成功していたのも役立った。
また案外、艦艇は共和国域内での生産だけではなく、案外域外の別の勢力に発注して購入している分もあることが分かった。商業ギルド同盟などが主な発注先で、その発注量は年間数万隻に達するなど侮れないものであった。
涼井は大統領エドワルドに頼んで国家予算の内訳を確認した。
共和国の財政は度重なる戦争にも関わらず非常に健全だった。
国債も発行されているが9割は共和国の国民と金融機関が購入していて、また共和国は帝国と並び屈指の軍事力を持っているがゆえに共和国の貨幣は基軸通貨としても流通していることが分かった。
そこで涼井は共和国としては初の試みとして国債を外国の金融機関や国家に購入してもらえるよう広く働きかけ、さらに国内でも改めてキャンペーンをかけた。税収を増やして民心を離れさせるのではなく国家としての資金調達を正攻法で行うことにしたのだ。
その結果、相当な収入が見込め、涼井はその資金のかなりの部分を艦艇の購入に費やした。
商業ギルド同盟からは帝国に売却する分もやや強引に買い取り、同時に国内の軍需産業にも大々的に発注を掛けて増産した。
一方、涼井は出張によって共和国内で療養していたヴァイン公リリザやカルヴァドス伯爵と会談を重ね、彼女たちに帝国内の貴族たちを糾合してもらうことにしたのだった。そのための工作資金も用意し、リリザたちは旧領の回復を条件に帝国領に潜入し、旧ヴァイン公家中の者を使って反リシャール公貴族や中立貴族をかき集めた。
反応は予想以上によく、あっという間に無数の盟約が結ばれた。
これはチャン・ユーリン提督が非道を行っていたことも彼女たちにはプラスに働いたのだった。
さらに涼井は軍内部でも主に指揮官・提督クラスと1on1の面談を重ね彼らの人となりを理解し、評価を重ねていった。これらの動きはすべてサラリーマン時代に培ったものだった。
涼井は指揮官提督クラスを理解すると、次は大増産される艦艇に対して軍の組織の改編を始めた。
これまでは最大の戦略単位が「艦隊」で、基本は12000隻前後。たまに艦隊を組み合わせるがあくまで臨時であって、基本は艦隊がある程度勝手に動く、というのが共和国や帝国の在り方だった。
それを今回は期限付きで改定し、艦隊1つ1つをタスクフォースに組み込んだ。
既存で練度の高い艦艇を中心に、新造艦艇を順次訓練を繰り返しながら組み込んだ。
既存の艦隊も基幹要員を6割残し、4割を予備の人員で埋めるなどし、そのかわりに現役の兵士たちが新造艦隊にも配備されていった。
それらも一人一人と話すことで理解を得た。
リリザ達が帝国内での盟約を一通り作り終わり、やや烏合の衆であっても12万隻に達する勢力を作り終わる頃、涼井も4個任務艦隊30万隻の大軍を作り上げていたのだった。
やや計画が間に合わず任務艦隊といっても数にばらつきがあるが、辺境方面とアルテミス宙域に2個任務艦隊を残し、2個任務艦隊18万隻とヴァイン公リリザ、カルヴァドス伯爵の率いる12万隻によってチャン・ユーリン提督の3個艦隊を総攻撃したのだった。
しかもこうして後詰を置くことで補給体制を完備し、もし長引く場合は艦隊の後退や弾薬の補給についても完璧を期していた。「そこまでやるのかね……」とノートンに言わしめるほど涼井は緻密に計算し、民間商船だけではなく外国船までも傭船して、質量弾や推進剤、食料などを大量輸送した。
各辺境星域や帝国内にも補給拠点を設けた。
その壮大な罠はチャン提督を補足し、いままさにチャン提督はわずか3個艦隊でその10倍もの艦隊群に待ち伏せされることになったのだった。





