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【新規発注】史上最大の作戦

 涼井の出張とは、大統領エドワルドに話した"秘策"の下準備だった。

 事実上の大統領決済を得たので正式に動かすことができるようになった。

 

 ただその間にもリオハ臨時人民共和国は正式に「リオハ民主主義人民共和国」を名乗った。


––真の民主主義国家を目指す––といえば聞こえはいいのだが実際やっていることは、かつて涼井の地球(・・・・・)にも存在した、典型的な紅の独裁主義国家にすぎなかった。

 

 事実、政権はほぼチャン・ユーリン提督の知人と友人、戦友で固められた。

 なんとあれだけアルテミス宙域の騒動で暴れた元宇宙軍少将のブライト・リンも古くからのチャン・ユーリンの知己だった。


 そしてそうこうしているうちにリオハ民主主義人民共和国艦隊は帝国で暴れ回り、さらにヴュルテンブルク宙域も押さえた。ヴュルテンブルク宙域は航路上はそれほど重要な地帯ではないが、3つの惑星と5つの衛星を穀倉地帯とした食物の一大産地だった。これによってリオハ民主主義人民共和国は兵糧の供給源を得たわけである。


 その間に散発的な帝国貴族による偵察や襲撃はあったが、皇帝位の長期不在、まがりなりにも貴族をまとめていたリシャール公や、権力のあった選帝公の戦死や逮捕などがあり、全くまとまりはなかった。


 そして新たな新年を迎えた。


 リオハ人民共和国は新年を祝い、そして同時に彼らにとって「右翼的な思想を持つ」軍人と市民を数十名も人民裁判にかけて一部を処刑、一部を投獄した。


 しかし全体的にはリオハ人民共和国は英雄であるチャン提督を事実上のトップに持ち、熱狂的にその政権を支持した。首都惑星とされた惑星リオハの都市では人々が道に溢れかえり、元帝国市民、共和国市民や共和国軍人関係なく花を空中に投げ新政権の不滅を願った。


 共和国の艦隊が侵入してきたとの報告がチャン提督にもたらされたのは1月4日のことだった。

 

「共和国艦隊? 新年の祭りを邪魔しにくるとはずいぶんと無粋だね」

 チャン提督はスキットルを手に昼間からウィスキーを飲んでいた。 

 ここはもとはリオハ宙域の行政府だった建物だ。


 行政官の貴族を追い出し占領し、チャンのオフィスにしていたのだった。


 呼気に酒気が混じり、報告したオペレーターは顔をしかめた。


「重力子による観測ではかなりの数のようです。正確には偵察艦が報告してくると思いますが……」

「いいさ、迎え撃とう、いつもの通り撃破すれば良い」

「はっ……」


「仮面参謀」

 チャンが声をかける。

「ここに」

「行くぞ」

「承知した」


 仮面を装着した異様な風態の男はチャンに従い席を立った。


 数日でリオハ民主主義人民共和国の艦隊は体制を整えた。

 ヴュルテンブルクを押さえ、周辺の貴族の艦隊を傘下に収めたことで数は増えており、3個艦隊5万隻にまで膨れ上がっていた。

 解放軍第一艦隊は自身が、第二艦隊をエメット提督が、そして第三艦隊はもとはチャン艦隊の分艦隊司令で勇猛果敢なトラン・フー提督に任せていた。


 チャン艦隊は慎重に前進し、老練なエメットの指揮通りに前進しながら隊形を整えた。

 リオハ宙域の星系辺縁部に到達したあたりで前進させていた偵察艦から報告があった。


 偵察艦からは重力子通信が送られてきているが、敵からの妨害が激しいのかノイズが入り込んでいて聞き取りづらかった。


『てっ敵を発見! 重力子観測で……きれない………規模です!』

「よく聞こえないなあ。要するに敵はどのくらいだ?」

『は……8個艦隊96000隻です!』


 いつも表情に眠たげな余裕を浮かべているチャン・ユーリンの顔色が一瞬変わった。

「8個艦隊だと?」


 リオハ宙域は交通の要衝でもあり多数の航路が重なっている。

 それだけに危険な領域も少なく大軍が展開するのに向いていた。

 だからこそ小規模な要塞が複数設置されていたのだった。


「くっ! いつも通りにやるぞ、第2艦隊!」

 メインスクリーンに解放軍第2艦隊のエメット少将が出現した。


『いつも通りですな、お任せあれ』

「頼んだぞ」


 なんとなく単縦陣であった解放軍は第2艦隊が速度を増し先行した。

 そして相手側の攻撃射程ぎりぎりで左右に奇妙な機動を行いいつものように幻惑しようとする。


 おそらく進撃が止まるであろう相手に対応しようとチャン艦隊とトラン艦隊が左右に分かれる準備をする。


 しかし、今回の敵は2個艦隊を先頭にそのまま突っ込んできた。

 質量弾を乱射しながら激しく攻撃してくる。射程外ながら、いくつもの火線がエメット艦隊の先鋒を捉える。

 真空において破壊された艦艇が砕け散り、破片がばらまかれた。


 これはチャンにとっては予想外だった。


 司令官席で思わず立ち上がる。

「何だと!」


 珍しく血相を変えた司令官に周囲のスタッフ、幕僚たちは彼の挙動に注目した。

 その空気に気づき、チャンはやや慌てながらも司令官席に座り直した。


「まだ秘策はある……」

「てっ提督!」

「……どうしたんだい?」


 オペレーターが悲鳴のような声をあげる。

 チャンはそれに対しかろうじて余裕がありそうな表情を作っていた。


「バローロ宙域から連絡! す、少なくとも7個艦隊の敵が出現!」

「な……何だと! 馬鹿な!」

 チャン提督は拳を握り締めて目の前のコンソールを叩いた。

 激しい激昂に、しかし周囲はそれどころではなかった。

 あらゆるところから悲鳴のような報告が飛び込んでくる。


「ようやく始まったな……スズハル君」

「えぇ、ただこれからが勝負ですよ」


 そこからやや離れた場所。

 かつて第1艦隊の旗艦であったゼウスの司令官席で元帥の階級章をつけたノートンが隣に佇む涼井に話しかけたのだった。


「これからですよ」

 涼井は、とはいえ、先ずは思惑通りに状況が動きはじめたことに微笑みを浮かべていた。


 帝国領内における史上最大の作戦は始まったばかりだった。


 

 

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