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【新規案件】バローロ宙域会戦

 涼井とエドワルドが会談している間にも、リオハ共和国艦隊は帝国領土内に深く侵攻していた。

 帝国領は縦深が非常に長大で、首都惑星アンダルシアは奥深くにあった。

 

 多少の損害を被ったものの17000隻の艦隊は散発的な帝国艦隊の抵抗を排除しながらバローロ宙域に到達した。


 バローロ宙域は帝国最大の要害だった。 

 巨大な連星が互いに互いの重力によって複雑な公転をしていた。その距離はかなりのもので、連星のメビウス型の公転軌道の真ん中には小規模とはいえ禍々しく光る重力レンズ現象を起こしたブラックホールが鎮座していた。


 そのため重力の流れが非常に複雑で艦艇が安全に軌道できる空間は限られていた。

 バローロ宙域ではブラックホールの重力圏付近に設けられた時空耐性型の要塞がいくつかあり、ここに1万隻程度の艦隊が駐屯していた。指揮するのはかつてリシャール公の旗下にあったローヌ伯だった。


 彼は巻毛気味の黒髪をふりみだし、その長身を司令官席からメインスクリーンに乗り出すようにして指揮をとった。


 リオハ共和国艦隊はいつもと違い、チャン・ユーリン提督の指揮する解放軍第1艦隊が布陣したのち、エメット提督の指揮する解放軍第2艦隊5000隻が前進した。

 

 対するローヌ伯は、自身の艦隊のうち3000隻をベリーズ男爵に任せ解放第2艦隊に指向し、残る7000隻でブラックホールのシュバルツシルト面(事象の地平線)ぎりぎりに展開した。背水の陣というより地形をよく知るローヌ伯としては、うまく敵軍を誘い込んでブラックホールに落とし込んでしまうつもりだった。


 それを知ってか知らずか、エメット艦隊は近づいては離れ、近づいては離れ、という機動を繰り返した。


「これは罠か?」

 ローヌ伯は顎をつまむようにして司令席からメインスクリーンを覗き込んだ。

 

 エメット艦隊は前進と後退を繰り返しながら次第に分裂し、100隻程度の小艦隊の大群に分かれていった。

 それはあたかも風で綿毛が舞い散るような幻想的な美しい機動だった。


「こっこれは罠に違いない!」

 ローヌ伯は思考停止した。

 もし涼井がこの場にいれば「1000%罠ではないから突っ込め」と助言しただろう。

 しかし彼らはフリーズしてしまった。


 考えてみれば小艦隊が戦術的に意味もなく機動しているだけである。

 正攻法で攻撃すれば撃破できてしまうだろう。しかしローヌ伯はチャン・ユーリン提督の武名によるバイアス効果もあってすっかり罠にハマり込んでしまった。


 ベリーズ男爵の艦隊は前進をやめ、エメット艦隊の機動にあわせるように相対速度を保った。

 ふらふらと前進後退を繰り返し、ベリーズ艦隊の陣形に綻びが出た。


 その刹那、猛烈にチャン・ユーリン提督の解放軍第1艦隊が斬り込んできた。

 質量弾を惜しげもなく乱射し、その火線は乱れたベリーズ男爵の艦隊を捉えた。

 

 いくつもの真円状の爆発が起き、連鎖するように艦艇が破砕された。

 それをみたエメット艦隊が割り込んで当たるを幸いベリーズ艦隊の艦艇を至近距離から薙ぎ倒した。

 老練なエメット少将は小艦隊群をうまく指揮し、着実にベリーズ艦隊の腹を引き裂いた。


 それを見たローヌ伯は慌てて本隊を動かした。

 しかし総崩れになり退却し始めたベリーズ艦隊に膚接するようにエメット艦隊が接近してくる。

 ローヌ伯は質量弾を出会い頭に放つような決断はできなかった。味方を切り裂いてしまうのは明白だった。


 その躊躇を見過ごさず、いつのまにかローヌ伯の左翼方面に布陣していたチャン・ユーリン艦隊が猛攻を加えてきた。

 チャン艦隊は圧迫するような陣形でローヌ伯の本隊を追い込んだ。

 ローヌ伯艦隊は押されるようにして撃攘され後退したが、そこは自ら敷いた背水の陣だった。

 艦隊はシュバルツシルト面(事象の地平線)に次々に飲み込まれた。


 ある帝国戦艦は、シュバルツシルト面(事象の地平線)に入り込んだ後、きしむようにして引き延ばされ、異様な形状となって装甲も砲も裂かれながらブラックホールに向かって落ち込んでいった。

 

 その間にもエメット少将はベリーズ艦隊を降伏させていた。

 全て終わったことを悟ったローヌ伯は降伏する意図を伝え、抗戦を停止するとともに艦隊の武装解除に協力した。

 そして降伏の後処理を打ち合わせるべく会談のためにチャン・ユーリン提督の旗艦ポセイドンに趣き、そこで処刑されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] しょ処刑 (;'∀') 結構きついですね (´;ω;`)ウッ…
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