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【休暇申請】銀河商事

——どこからか声が聞こえる。女性の声だ。

「課長!? 課長、大丈夫ですか!」


 涼井の意識は意識の中から浮かび上がってきた。

 手足に感覚が蘇る。

 しかし何か違和感がある。


 いつもの共和国の軍服ではない。スーツを着ているような感じがする。


「……ここは?」

「あぁ! 涼井課長、良かったです!」

 涼井はゆっくりと目を開けた。

 ざわざわとした人の声が聞こえる。


 背中にフロアカーペットの感触を感じる。

 光が飛び込んでくる。

 スーツ姿の男女が涼井を囲んでいた。


「課長、さっき急に倒れられたんです。いま救急車を呼んで……」

 スーツ姿の女性だが、どうも見覚えがある。意識がはっきりしてくるとようやく識別できるようになった。彼女は涼井の部下の吉田係長(29)だ。

 他にも課員の男女が心配そうな表情を浮かべている。


「そうか、私は倒れていたんだな」

 涼井は立ち上がった。


「課長、よかったです、てっきり……」

 と吉田係長。

「いや、大丈夫だ……」

 ふと地球での記憶が蘇る。

 

 そうだ。

 涼井はこの事業を統括する事業部長と、その管掌役員の不正を発見したのだ。

 

 ちょっとした横領ではなく外部に対する発注における水増しとキックバックだった。

 特別背任だ。


 検収のために納品物や単価を細かく見ていた涼井はそれを発見した。

 その告発のために徹夜を続けついにコンプライアンス委員会に報告したのだ。

 全ては愛する銀河商事のためだった。


 そして涼井が退職勧奨を受けたのはそのすぐ後だ。

 コンプライアンス委員会を統括していた管理職も結局不正行為の仲間だったのだ。


 自らの考えの浅さを悔い、疲れ果て、そして課に戻ってきて倒れたのだった。


 見慣れたデスク。自分の机だ。やや幅広で無垢の木材で作られている。老舗の総合商社だが比較的見た目はモダンで洒落たデザインに統一されていた。


 デスクトップPCが一台、それに打ち合わせ用のノートPC。

 それに暇つぶし用に買ってきていた「軍師に学ぶ現代ビジネス戦略」と題された文庫本。

 

 細かい名刺やら紙の書類、決済中の稟議書なんかはサイドチェストに収納されている。

 整理整頓は涼井のモットーだ。


 涼井はちらりと腕時計をみた。

 12:05分。ちょうど昼休憩の時間だ。


「……心配をかけた、すまんが私は少々外出する……」

「でも……」

「大丈夫だ」

 

 涼井は自分のバッグにノートPCと電源を詰め込みフロアの外に出た。

 エレベーターホールに向かいすぐに下に降りる。

 

 警備員のいるロビーを通り外に出た。

 圧倒的な雑踏。人口密度が高いのだ。

 そして大量の地上を走る車、騒音。背の低いたくさんのビル。

 

 東京にしては比較的落ち着いた地域のはずだが、涼井は今は違和感を感じていた。


 涼井は雑踏を抜け駅前の書店に向かった。

 その書店で大量の本を買いプラチナカードで決済した。

 さらに家電量販店に向かい電子書籍端末を購入した。


 すぐにアカウントを登録しいくつか目当ての本を買う。

 涼井には予感があった。

 

 彼は公園に向かいベンチに腰をおろした。

 手には書籍の入った紙袋、PCや電子書籍端末の入ったバッグ。

 大丈夫とは言ったもののやはり目眩がし、手足がしびれていた。

  

 そして。

 血流が逆流し、心臓の挙動がおかしくなる。

 意識が混濁し吸い込まれるように暗黒に向かう。


(心臓発作だ……)

 彼は薄れゆく意識の中でそう思った。

 そして今度の心臓発作は確実に死に向かうものであると感じた。最初にあの世界に旅立った時とは異なる。


 その瞬間、涼井は目を覚ました。

 ばたばたと駆け回る見慣れた軍服姿の憲兵。

 心配そうなロッテーシャ大尉の顔。


(帰ってきた)

 涼井は微笑を浮かべた。


「提督! お怪我は!」

 ロブ少佐まであわてて駆け寄ってくる。


「大丈夫だ」

 あまり長いこと「居なかった」わけではないようだった。

 ロッテーシャ大尉に撃たれ斃れた襲撃者の遺体はまだそこにあった。


「……提督、それは何をお持ちで? さっき持ってましたか?」

 ロブ少佐が眉間に皺を寄せる。


 涼井は成功を確信した。

 彼の手には地球のノートPCを入れたバッグ、書籍の入った紙袋、そして電子書籍があった。

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