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【必読】重要な内容のため課長はご確認ください

 涼井 晴康(すずい はるやす)は銀河商事 第三営業課長である。

 だったが正しいのかもしれない。 

(私はいまや「共和国」の提督で英雄らしい。ライバルはアルファ帝国のリシャール侯)

 

 そこまで手帳に書いたが、涼井の手は止まった。

(だがちょっと待ってほしい)

 

 便利なフレーズで思考停止する。

 いったいどういうことなのだろうか。共和国だの帝国だの、とあるAAA級のSF映画ではあるまいし。

(……いったん情報を整理しよう……)


 涼井はコーヒーを一口飲んだ。

 紙コップのようなプラスチックのような不思議な感触のコップだ。何かのSF的素材なのだろう。

 彼はため息をつきながら椅子に沈み込んだ。


 ここは提督専用の個室。

 共和国宇宙艦隊の戦艦ヘルメス内部にある。

 

 提督の個室といっても狭く、四畳半程度しかない。

 そこに執務用のデスクやベッドが詰め込まれている。無味乾燥な部屋だ。


 涼井は昨日の夜、戦勝を祝う席でいろいろと艦橋スタッフと話しをして情報をため込んだ。

 それを整理していたのだ。


(いや……何はともあれ、これは夢じゃない。何か事情はあるのだろうが私はいま共和国の人間として認知されているらしい)

 壮大なドッキリでないのも明らかだ。

 少なくとも現実世界に存在しない素材や技術が山のようにある。


 涼井は知りえたことを手帳に書き出してみた。困ったことにパソコンのようなものが見当たらず、どこにあるのか、そもそも存在するかもわからなかったため、なぜか胸ポケットに入っていた紙の手帳を使っている。


 ――ここは共和国の領宙の外縁に近いあたり。

 接続宙域といわれている。

 この銀河にはいくつかの国があるが、その中でもっとも強大なのがアルファ帝国だ。

 共和国はいくつかの都市国家から成り立っているが実質的な連邦制をとっていて大統領もいる。


 『大統領のエドワルドはほんとーに嫌なやつなんです! 俗っぽすぎ!』とはリリヤの言だ。

 まぁよくSFなんかに出てくる嫌われ者の政治家なのだろう。


 さて、いまの状況としては共和国と帝国はよくて4:6か3:7で劣勢らしい。

 帝国はリシャール侯爵という若き天才が出現してから好戦的になり周囲に戦争を仕掛けるようになった。

 

 ほとんどの国は帝国に服属するか、消極的な友邦となり、帝国に正面から喧嘩を吹っかけているのは共和国だけのようだった。

 もともと敵対的な関係が続いていたが冷戦状態から戦争状態に変わったのが5年前。

 以来いくつかの会戦で共和国は敗北を続け、かなり大きな領宙をいくつか失ったという。

 

 『そこに! 天才リシャール侯爵のライバル、スズハル提督が現れたわけなんですよ!』

 リリヤが髪を振り乱し目をきらきらさせて昨晩力説したのを思い出す。


 どうやらスズハル提督なる人物は共和国宇宙艦隊の軍人で、35歳。

 士官学校出の生え抜きで艦隊勤務や練習艦隊提督などを経て昨年のいくつかの会戦で少数の艦隊ながらリシャール侯の艦隊と渡り合い善戦したらしい。もちろん共和国艦隊は全体としては敗北していたが、スズハル提督の第9艦隊だけはいまだに気炎を吐いて帝国の侵入を許さないという状況のようだった。


 ただスズハル提督は政治面にはやたらと潔癖で大統領のエドワルドなど内閣とはうまくいっておらず、辺境の一艦隊司令官として冷や飯を食ってはいるが民衆からは絶大な支持がある……とのことだった。


 涼井は皮肉な笑みを浮かべた。

(……俺とは真逆な男だな……清廉潔白か……)


「提督! その顔、その顔ですよ!」

 突然目の前にリリヤの映像が出現する。

 手を組み合わせて目をきらきらさせていた。

「……はぁ?」

「もうサイコーです提督! その邪悪な笑み! 最近の提督冷たさに磨きがかかってますね!」

「……」


 涼井は眼鏡をくいっと押し上げた。

「何の用だ?」

「……失礼しましたぁ、大統領のエドワルドさんから祝電です。いつも通り破棄でいいですかぁ?」

 リリヤが申し訳なさそうな表情になる。

「……いや今回は見てみよう。送ってくれ」

「はぁーい!」


 涼井はとにかく情報を欲していた。それが何であれ。

 大統領のエドワルドなる人物にも興味がある。それがこの世界を理解することにつながるだろうと彼は考えていたのだった。

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