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Re:Re:【終了】秋の黄昏作戦

 アルテミス宙域、およびペルセウス宙域の会戦は終わった。

 アルファ帝国は総計で21万隻以上もの艦艇をつぎこんで撃退された。

  

 戦死者の列にはブルゴン伯、プロヴァンス伯、アルザス伯、ミッテルライン公など名だたる貴族、将帥が並んでいた。

 抜擢されたグルナッシュ男爵など長くリシャール公を支えてきた貴族も戦場の露と消えた。

 21万隻中、まとまった第四梯団以外は甚大な損害を受け、10万隻以上が轟沈もしくは行方不明となった。

 行方不明者のリストにはリシャール公爵本人の名前も連なっていた。


 一方、共和国艦隊はその全力を尽くしたと言えた。

 ノートン艦隊、ロアルド艦隊、涼井の艦隊もその戦力の2割から3割を喪失もしくは損傷を受け、弾薬類はほぼ使い尽くした。補充用の艦艇や武装商船、使えそうな巡視船までかき集めた、かなり厳しい勝利ではあったが、とにもかくも帝国の撃退には成功した。


 涼井は直轄艦隊の第9艦隊だけを率いて首都星ゼウスに戻っていた。

 第4惑星の衛星軌道上の泊地に艦艇を収容し、弾薬の補給、損傷の補修などを依頼した。

 アルテミス宙域には引き続きロアルド艦隊、辺境のもうひとつの出入り口であったヘラ・ハデス両宙域に於いてはノートン大将から暫定的に第6艦隊の提督であるルアック中将が指揮権を引き継いだ。


 涼井は主席幕僚のバークと副官のリリヤ、護衛の陸戦隊を少数引き連れて内火艇に搭乗、首都星に降り立った。

 指揮をルアック中将に引き継いだノートン大将も合流して同じ機に乗っていた。


 もともとは非公式のつもりだったが、大統領エドワルドの要望で公式の行事となった。

 激戦をくぐりぬけたノートン大将、涼井は礼装で内火艇から降り立ち、儀仗隊から盛大な歓迎を受けた。


 祝砲が鳴り響き、赤絨毯が宇宙港に敷かれ、マスコミや群衆がおしかけ大変な騒ぎになった。

 大統領エドワルドは満面の笑みで二人を迎え、そのまま手をとって車に案内、そのままパーティ会場へと向かった。


「いや本当によくやってくれた」

 エドワルドはノートンと涼井の手を順繰りに握りしめた。

 今回、ノートン大将も共に帰還の栄誉を受けるべきと進言したのは涼井だった。エドワルドは涼井を第一功と考えていたが、涼井は頑としてノートン大将か、可能だったらロアルド提督の同席にこだわった。それを受けてエドワルドがこの形にしてくれたのだった。


(一人で栄誉を受けすぎると必ず嫉妬する人間が現れる。だから功績はみんなで分けるべきだ)

 涼井はエドワルドの心底の笑顔を見ながら思った。


 パーティ会場では各界の名士が招かれ良いワインが振る舞われ、これまた盛況だった。

 ホテル「トライアンフ」のシェフが腕によりをかけコース料理を振る舞い、それに相応しいワインが選定されていた。


 涼井も食事を楽しみ、大統領の演説に拍手をし、大いに飲んだ。

 そしてホテル「トライアンフ」の一室に戻ってきたのは0時過ぎだった。

 疲れ切っていた。しかし戦には勝ち、大統領も上機嫌、ノートン大将の面子も立った。

 内外ともに文句なく大勝利だ。


 涼井は制服を脱ぐのももどかしくベッドに倒れこんだ。

 自分の呼気がすっかりワインの香りに染まっているのが自分でも分かる。


 しかし実際、大統領の援護は今回の戦で大きかったのだ。


 帝国の接近を察知した共和国側はとにかく戦力を可能な限りかき集めて、できるだけ数でもある程度対抗できるようにすること、それが最大のタスクだった。


 侵攻が予想されるルートもアルテミス宙域、ヘラーハデス宙域の辺境の2つあった。

 しかし帝国はアルテミス宙域に共和国を誘引する必要があったからか、辺境宙域では偵察活動はあまり活発ではなかった。危険な宙域を主攻正面とすることは考えづらく、悩んだすえにアルテミス宙域はロアルド艦隊をそのまま貼り付け、涼井が大統領令を活用して艦艇を集め再編成し、反リシャール派の帝国貴族まで利用して戦力を整えて増援。

 ノートン艦隊には辺境に詳しい海賊紛いの船までつけて辺境を張らせたのだった。


 万一、主攻が辺境宙域に向いたとしたら、涼井は全速力で辺境に向かう計画だった。

 こうした戦略的な配置ができたのも数に多少の余裕があったからというのと、急速な膨張やヴァイン公を追い落としてまで権力を握ったリシャールに反抗する貴族たちが少なからず居たというのもあった。


 ひとつひとつロジックを重ね、それを政治的にも援護をもらい戦略的には拮抗のところまで持っていけたのはまさに政治的な協力者がいたからに他ならなかった。


(……思想家を気取って政治を否定するのも良い。ただその代わり自由にできるのは自分の部下だけになる。いろいろな妨害も出てくる。逆に協力体制を築ければこういうこともできる)


 涼井はふと、晩餐会で出た50年もののワインの味を思い浮かべながら、ゆっくりと眠りに落ちて行った。


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