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Re:Re:Re:【進行中】秋の黄昏作戦

「ブハッ! なんじゃあの数は!」

 アルファ帝国第一梯団の先陣でヴァッレ・ダオスタ公がワインを吹き出した。

 帝国の貴族たちは戦闘中であってもワインを飲むことがあった。

 彼は19歳の女公爵リリザと共に帝都に進撃し、その挙句にリシャール公に鞍替えしていた。


 いま帝国の秋の黄昏作戦の第一梯団の要の一人として出陣、無理矢理割り込んできた後続の第二梯団ブルゴン伯戦死の混乱の中、第一梯団は立て直し、今こそ反撃というタイミングだった。


 帝国の第一梯団40000隻、第二梯団54000隻は共和国艦隊の思わぬ反撃ですでに損害を被ってしまっており、12000隻ほどが失われていた。損傷を受けて戦闘続行が不能の艦隊もいる。

 一方、逃走のため反転していたロアルド提督の艦隊もまだ30000隻近く健在のようだ。

 そこに新手の共和国艦隊、それも帝国の難敵と名高いスズハル提督が52000隻も引き連れている。

 

「これは困ったわい」

 ヴァッレ・タオスタ公はビロードに金糸飾りの豪奢な提督席に座り込んだ。

「実に困った」


「スズハル提督、いよいよ総攻撃ですね?」副官のリリヤが目をきらきらと輝かせて問うてくる。

「うむ。まぁ順番にな」


 スズハルこと涼井は眼鏡をくぃっと直した。

「あえて眼球移植とか強化ガラスに変えないでメガネを着用している提督、素敵です」とリリヤ。

 涼井はそれを無視して全艦隊に指示を告げた。


「右翼カルヴァドス艦隊! 左翼ヴァイン艦隊! 奇策は弄せず中央と同時に出る。行くぞ!」

「おうよ!」

 燃えるような赤毛に屈強な体躯のカルヴァドス伯爵が気勢をあげる。

 以前、共和国の辺境に攻め込みハデス・ヘラの両宙域を領有していたがスズハル提督に破れ、共和国の捕虜となっていた。その彼はいま共和国の高速戦艦「ノルマン」を与えられ、旧家臣たちを指揮していた。


「もちろんですわ」

 こちらは銀髪に白磁のような肌の色をした少女。帝国の皇帝として選ばれる資格のある選帝公だ。ヴァッレ・ダオスタ公に裏切られ敗走したところを共和国に救助されていた。

 こちらも共和国の戦艦ではあるが「ヴァインⅡ」と名付けた戦艦に座乗している。


 涼井は公爵位についたリシャール公が急速にその地位を固め、ヴァイン公撃破や、ヴァッレ・ダオスタ、ミッテルラインの両公爵の帰順など、勢力が膨れ上がっているのを承知していた。そして戦力比は大きく帝国側に傾き、共和国が危険な状態にあるとも考えていた。

 その対応策として前線のロアルド提督や、大統領エドワルドとは連携をしており、共和国側で確保している有力貴族やその家臣たちを共和国艦隊の補助として使うということを考えていたのだった。

 そのためリリザやカルヴァドスを説得し、もともと反リシャール公の意識の強い彼らは旧家臣や反リシャールの貴族たちの戦力をかき集めた。涼井は従前指揮している第9艦隊、第12艦隊に加え、カルヴァドス伯、ヴァイン公に指揮させた帝国貴族の私兵をもって帝国と、正確にはリシャール艦隊と戦うという奇手となったのだった。


 いないはずの戦力がいること自体が空間的、状況的な奇襲となった。

 今やアルテミス宙域で対峙する戦力は互角近くにまでなったのだった。


 その様子をメインモニタで見ながらヴァッレ・ダオスタ公爵は頭をかかえていた。

「実に困った」


 なぜならこの宙域にいまいる戦力は第一、第二梯団のみになっていたからである。


「ヴァッレ・ダオスタめ、ちゃんと仕事をやってるであろうな」

 リシャール公は自身の戦艦オー・ド・ヴィの提督席で、なかなか思い通りに動かぬ彼の部下たちのことを考えていた。

 白髪に近い金髪を振り乱し、豪奢な家宰の旗印と共に座る彼は、まるで英雄を題材にした絵画のようだった。


 いま彼の率いる本隊60000隻はアルテミス宙域を離れ、共和国のヘラ宙域にさしかかろうとしていた。

 秋の黄昏作戦は大戦力を共和国に見せつける。

 第一梯団と第二梯団が派手に進撃する。そして共和国の艦隊を激しくひきつける。その間に本隊はアルテミス宙域から離脱し、共和国へのもうひとつの侵入ルートであるハデス・ヘラ宙域へと向かっていたのだった。第四梯団であるシャンパーニュ伯たちはこの辺境領域を通るにあたって邪魔な貴族の私兵たちを潰すために高速な艦艇だけで構成され私兵の制圧と鎮撫を任務としており先遣としてこちらに来ていた。


「閣下! 重力を感知!」

「貴族の私兵か?」

「い、いえ、共和国艦隊です! その数40000隻!」

「何だと!?」

 

 リシャール公の目の前に、アルテミス宙域に集中されていないはずの共和国艦隊が確かにいた。 

 彼らはヘラ宙域の連星となっている恒星を背後に布陣し待ち構えていた。

 ここでも新たな決戦の幕が切って落とされたのだった。

 


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