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【カイゼン】リシャール侯の決心

 アルファ帝国では「ヴァイン公爵の叛乱事件」は終結した。

 選帝会議を開くことはなくむしろヴァッレ・ダオスタ公爵は明確に味方になった。

 カルヴァドス伯爵のような半ば独立系の貴族たちはリシャール侯がヴァイン公艦隊を瞬殺したことでおとなしくなった。


 ヴァイン公爵リリザの生死は不明(おそらく死んだのだろう、とリシャール侯は考えていた)。彼女には係累が他にはなく家が断絶しかかっている。

 皇帝は不在で実質的に家宰のリシャール侯が帝国の全権を握っている。


「時は来た」

 リシャール侯は端正な顔をゆがめてほくそえんだ。

 彼は貧乏貴族の出自で、貴族の名前があるがゆえに苦労を重ねた。

 その自分が今やアルファ帝国の権勢を手中におさめている。恍惚の極みだ。

 

(……しかし……)

 実は手にいれた。あとは名が足りない。


 リシャール侯の決断は早かった。

 彼は即日、主力を失ってどうすることもできないヴァイン公の領地に侵攻し公爵家を接収した。

 その後、リシャール侯が実は「ヴァイン公の血縁であった」という「証拠」が公の領地から「発見」された。

 

 リシャール侯が係累のいなくなったヴァイン公の公爵位を引き継ぎ、ファクティス・リシャール・ヴァイン公爵を名乗ることになった。

 晴れてリシャール公となった彼は盛大な宴会を開き内外にそのことをしらしめた。

 ボルドー伯、ブルゴン伯などの古くからの部下であり盟友に加え、ヴァッレ・ダオスタ、ミッテルラインといった選帝公達、その他帝国の重鎮たちが集まった。

 

 帝国首都アンダルシアの丘の上に立つアンダルシア宮殿には絢爛豪華な装飾がほどこされた。

 古びた本物の石を使い丘の上に建てられた宮殿は夜の闇にも輝き訪問客は列をなした。


 宮殿の宴会場はきらびやかな貴族と諸将で埋まった。

「公爵万歳! 帝国万歳!」

 各所で歓声があがりリシャール公も酒杯を片手に宴会に混ざり歓談にふけっていた。


 宴もたけなわとなったころ。

 リシャール公はふと不在となっている宴会場の皇帝の座の傍に立った。

 さすがに眉をしかめるものもいたが、大多数の貴族たちにとっては自然な行為と映った。


 彼がすっと手を揚げると、広大な宴会場が一瞬で静まり返った。

 ヴァッレ・ダオスタ公、ミッテルライン公も静かに彼の言葉を待っている。

 これそのものが彼の現在の権勢をあらわしていた。


「私は……」

 リシャール公はその白色に近い金髪をきらめかせ演出のように天を仰いだ。


「私はここにひとつ決断をくだす。我らの長年の仇敵、共和国を滅ぼすとな」

 宴会場にはざわめきが起こった。


「そうだ。これまでは単なる小競り合いで小規模な領土のやり取りに過ぎなかった。しかしアルファ帝国の栄光ある未来にとって共和国は邪魔者だ。私はここに帝国の総力をあげて共和国を滅ぼすことを宣言する」

 

 場は静まり返った。

 領土の大きさは帝国のほうが上だ。しかし小規模な半ば独立した貴族たちも多く全力で戦えたことはなかった。

 それがゆえに小規模な小競り合いに終始しどちらかというと冷戦に近いような状態が続いてきたのだった。


「さっ……すがリシャール公閣下! 我らはついていきますぞ!」

 静寂を大声がやぶった。ヴァッレ・ダオスタ公だった。

「帝国万歳! 共和国を滅ぼせ!」

 続いてミッテルライン公が叫ぶ。

 それに続くかのように宴会場の貴族たちも次々に主戦派の声に巻き込まれ「帝国万歳」を叫ぶようになった。

 

 当然だがヴァッレ・ダオスタ公もミッテルライン公も仕込みだ。

 今や帝国の公爵位を手に入れたリシャール侯はその宴会場の様子に恍惚の表情を浮かべながら、同時に吹き上がるような野心をその両眼に映し出していた。


翌10月2日、共和国を攻撃する軍編制が発表された。


 第一梯団(第一陣) ヴァッレ・ダオスタ公、アルザス伯 40000隻

 第二梯団 ミッテルライン公、ブルゴン伯、プロヴァンス伯 54000隻

 第三梯団 リシャール公 60000隻

 第四梯団 ボルドー伯、シャンパーニュ伯、ローヌ伯 60000隻

 

 合計21万4000隻となる空前の大艦隊だ。

 それらはアンダルシア星域では収まりきらず、帝国首都周辺に10か所以上の終結地を設けて集合。

 それぞれ梯団を編成して帝国辺境へ進撃を開始した。


 後の世に言う「秋の黄昏作戦」の開幕であった。

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