第186話 Re:要件定義の件です
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ヴァッレ・ダオスタは玉座に飛びついた。
涼井の護衛の陸戦隊兵士数人がさっと涼井の前に飛び出して銃を構える。
「何をしている?」
涼井は眼鏡の位置を直しながら聞いた。
ヴァッレ・ダオスタは皇帝の玉座に座ってこちらを振り向きにんまりと笑った。
「撃つのかね? 丸腰のワシを? ただ哀れな老人が皇帝の玉座がほしくて取りついているだけではないか」
「不審な動きはなさらないでください」
陸戦隊士官がヴァッレ・ダオスタに拳銃を向けながら指示を出す。
「スズハル提督……君は実に奇妙な男だ。ある時から急に変わってしまった。もともと優秀な指揮官だったと聞いているが今はあまりに有能すぎる……この時代ではあり得ないほどに」
涼井は表情を消した。
「皇帝の三種の法具はこの帝国の成り立ちに関わっている。そもそも今隣の銀河がなぜ攻め込んできているのか……隣の銀河とは何なのか興味はないかね?」
たしかにヴァッレ・ダオスタの思わせぶりな口ぶりではあったが、興味のある話ではあった。それが真実かどうかは分からないが。
「皇帝の三種の法具のひとつは間違いなくここだ。この玉座の間自体が法具というのは嘘ではない。ただしこの玉座がキーであることは言っていなかったな」
ヴァッレ・ダオスタは笑った。
底のない悪意のある笑いだった。
「リリザは知るまい。この法具は他の2種類とは違うものだ。代々選帝公本人のみに伝えられる。そして皇帝の正式な即位の儀式の際に使われるのだ」
ヴァッレ・ダオスタは言いながら玉座のひじ掛けのあたりを触っていた。
「公爵閣下!」
陸戦隊士官が緊張度を上げて近づこうとした。それを涼井は目で制した。
「元帥閣下、しかし」
涼井は無言で眼鏡の位置を直した。
「この玉座は異なる世界につながっている」
ヴァッレ・ダオスタはつづけた。
「ワシは見た。先代の皇帝の即位の儀式をな。先々代は病弱で死の床にあった。しかしこの皇帝の玉座……本来は何だったかもわからないし誰が製造したかもわからんがな。この玉座をもって転生していったのだよ。体は置いてな。逆に別の世界から呼んできた別人格を入れることもできるというぞ」
「錯乱していると思います。制圧の許可を」
陸戦隊士官が言うが涼井はそれも制した。
「ただし制約もある。皇帝の代替わりの際に1度だけしか使えないのだ。理由は知らん。リリザは即位の儀式を正式な手順では行っていない。したがってまだ使われていない……予想通りだったようだなブハハハハ!」
精神だけ転移してくる。
それはまさしく涼井がこの世界に来たのと同じ状況ではないか。
ヴァッレ・ダオスタの言うことが全てまやかしだとは思えなかった。
玉座が怪しく青い光を放ち始めた。
ヴァッレ・ダオスタが懐から小さな拳銃らしきものを取り出した。
反射的に陸戦隊員が発砲する。
しかしその銃弾は何らかの障壁に阻まれて届くことはなかった。
「以前スズハルくんはわざわざリアクト機関を玉座の間に接続してまで皇帝を守ったことがあったな? しかし不要なのだ。 本来この玉座を使えばな…… ではさらばだ! ワシはこのまま転移させてもらう……ブハハハハハ!」
青い光が強くなり……そして消えた。
「あれぇ?」
ヴァッレ・ダオスタが困惑した表情を浮かべた。
「今度こそよろしいですね?」
陸戦隊士官の問いかけに涼井は無言で答えた。
「拘束申し上げろ!」
数名の陸戦隊が素早く寄ってヴァッレ・ダオスタの拳銃らしきものを叩き落とし彼をあっという間に拘束した。
床に組み伏せられたヴァッレ・ダオスタはまだ信じられないというような表情を浮かべていた。
186話です。
涼井の転移の秘密が明かされる?
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