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Re:【棚卸】女公爵が進撃する件

 ヴァイン侯爵の艦隊は横列をしいてブルゴン伯爵の艦隊に迫りはじめた。

 32000隻の艦隊が圧力をかけてブルゴン伯爵の艦隊に激しく撃ち掛ける。


 ブルゴン伯爵の艦隊はじりじりと下がりながら応戦する。

 光線が虚空をつらぬき障壁が飽和状態に達した艦艇が撃ち抜かれて爆発四散する。

 剥離した装甲板の破片が飛び散り、爆発ごとに数百の兵士が艦と運命を共にした。


「なかなか優勢ですこと」

 ヴァイン公爵リリザが冷たい微笑を浮かべる。

「はっ……とはいえリシャール侯爵がどう動くかはまだ分かりませぬ」

 執事のスワンソンがかしこまる。

「気になるとしたら……ブルゴン伯爵がやや消極的に見えることでしょうか。何らかの罠では?」

「罠……?」

 

 リリザが目を細め侮蔑したような表情を浮かべる。

 若干19歳の少女にしては冷たい、にじみ出る様な迫力と負の威厳がある表情だった。


「この状況でどんな罠があるというのかしら? 軍人はいつもそう。そうそう奇策や奇手なんてないのよ。……押しなさい!」

 リリザの号令でヴァイン艦隊はますます圧力を増していった。

 

「これは……まずいな」

 ブルゴン伯爵は顎に手をやって考え込んだ。

 灰色の髪は短く刈り込み、髭を端正に整えた壮年に差し掛かりかけた男性だ。

 リシャール侯爵の元で長年働き、元平民だったが最近貴族に列せられた。


 ブルゴンは消極的な戦いを見せることでまさに罠と思わせるつもりだった。

 しかし19歳の小娘と侮っていたヴァイン公爵リリザは思っていたのと違い、こちらの手に乗る気はないようだった。

 敵が優勢のようでこちらにも流れ弾が飛んできている。

 ブルゴン伯爵の座乗する旗艦「ノワール」はその衝撃で身をよじらせるように揺動した。

 ヴァイン公爵の攻勢は盛んだが案外基本には忠実だった。

 

 戦艦群を守るように巡洋艦が中心に展開して砲撃する。

 駆逐艦はその機動性を活かして広く展開して矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。

 ある程度こちらの被害を受けてきたら次は戦艦の出番なのだろう。戦果を拡張すべく殴り込んでくるはずだ。


 戦艦「ノワール」の近くで爆発が起こる。

 真円に白熱した爆発が起こり破片が飛び散る。いくつかはノワールの障壁を貫通し装甲に突き刺さった。

 司令部直轄の戦隊にも被害が出始めているのだ。 

 その爆発はブルゴン伯爵の旗艦のメインモニタに映し出され、ブルゴン伯爵の整った髭面を照らし出した。

 表情は不敵、の一言だった。


「罠と思わせて時間を稼ぐつもりだったがこうなっては仕方ないな。応戦しながら時間を稼ごう」

 彼はにやりと笑い指示を飛ばしはじめた。


 戦況はヴァイン公リリザの優勢で進行している。

 しかしブルゴン伯爵は粘り強く応戦し劣勢ながら善く戦っていた。

 

 リリザはいらいらとメインモニタを見つめる。

 確かにこちらが優勢だがブルゴン艦隊の動きが彼女の直感に引っ掛かっていた。

「奇妙ですこと、明らかに劣勢でこのままああいう闘いをしていても時間稼ぎにしかならないというのに」

「左様ですな……」


 ブルゴン伯爵は戦艦や重巡洋艦を前に押し立ててその火力と装甲で抵抗している。

 しかし重装甲の艦艇は数も多くはなく、それらがやられてしまえば一気に戦闘能力が低下していってしまう。


 リリザはここまで侵攻するのに色々と手をまわしていた。

 リシャール侯の主力部隊は同時に侵攻しているヴァッレ・ダオスタ公爵の牽制のために出撃しているはずで、この宙域には基本的にはリリザしかいないはずだ。

 小規模な貴族たちはいつもの通り風見鶏を装いどちらにもついていない。もちろん好意的中立に引き込んでいる貴族も少なくはなかった。


 さらにリシャール侯爵は複数の敵を抱え常に全力を出すことはできない。

 前回の敗戦で主力に被害が多少出ているのも好機だった。


「……何を待っているというの?」

 リリザはメインモニタの向こうの虚空にいるブルゴン伯爵を睨みつけた。

 その瞬間艦橋にブザーが鳴り響いた。


「敵艦隊発見!」

「敵ですって!?」

「その数……よ、40000隻!」

「!!」

 

 リリザは思わず立ち上がった。

「敵はリシャール侯の直轄艦隊と……ヴァ、ヴァッレ・ダオスタ公爵の艦隊です!」

「……してやられたわ」


 リリザは思わず提督席に座り込んだがそれでも気丈さは失わずメインモニタを睨みつけ続けた。

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