Re:【第三週】銀河商事の逆襲
10000隻もの傭兵艦隊ヤドヴィガは自社で建造したギャラクシー級戦艦を中心に突進してきた。
巡洋艦群を前面に押し立て砲撃しながら突っ込んでくる。
恒星を公転する無数のデブリ円盤に隠れた惑星モルト勢の船は散発的に反撃したが、それらの弱弱しい光弾のほとんどは障壁にはばまれて装甲までも届かなかった。
無数の光弾が飛び交い、無音の衝撃が船艇を破壊した。
デブリに混じって船殻の破片がちらばる。
衝撃でデブリも舞い、時にはそれが船体を傷つけた。
傭兵艦隊ヤドヴィガは至近距離で一斉に回頭した。
右舷をさらしながら円盤デブリに沿って、十分に計画され効率のよい砲撃を開始する。ミリタリーグレードの船からは質量弾が発射され、時にはデブリごとモルト勢の船を砕いた。開拓船などは光弾どころかデブリの破片などでも簡単に撃破されていく。
この時点ですでに15%以上が撃破されていた惑星モルト勢は本格的な砲撃に腰が引けた。
そして意外な敵前回頭に動揺した船もあった。
もともと軍事的な統制がなされている船団ではなく烏合の衆であることが禍いした。特に単なる無法者や賊徒の類はもう逃走をはじめていた。
「逃げるものは追う必要はない」
ロンバルディアは冷静に指示を出した。
傭兵艦隊ヤドヴィガの船団はデブリ円盤に沿うように公転軌道に乗りながら砲撃を繰り返し、デブリの影で散発的に抵抗するモルト勢を掃討していった。
「いかん! このままでは!」
モルト勢のウェストの顔役が悲鳴をあげる。
「奴を出せ!」
ノースの顔役が叫ぶ。
「へいっ合点!」
オペレーターが指示を伝え始める。
「まとまった数の敵が反撃してきます!」
ヤドヴィガのオペレーターの警告にロンバルディアは眉をひそめた。
「ほう?」
「5~600……もう少しいるかもしれません。1000隻弱ほどのまとまった数です」
「予備隊か……」
「こちらの敵ではないだろう?」
「すべて短艇のようです」
「短艇だと?」
短艇といえば民間のシャトルなどと同じような大きさの小型の船だ。
艦隊でも艦艇などに搭載される。連絡や移動、惑星などへの着陸の他、空母のような艦に搭載された武装型の短艇は哨戒や小規模な偵察、寄港中の警戒などに使われることもある。
小回りが利き機動性が高い。
しかしあくまで警備用に留まるのが常識だった。
「よーし行くぞ! この無数のデブリで鍛えられた短艇乗りの心意気を見せてやれ」
その人物は短艇の操縦桿を握りしめながらにやっと笑った。
「はい! カミュ曹長!」
「デブリ群の中で全速力を出す。その後接近戦だ。各戦隊ごとに一列でついてこい」
「了解!」
「社長、連中はかなり奇妙な動きをしています」
ヤドヴィガのオペレーターが言う。
「どのような?」ロンバルディアが問う。
「この宙域の巨大なデブリ円盤に入り込みました」
「戦闘を諦めて逃げるんだろう?」
「いえ……デブリ群の中で高速移動をしています。全速に近い速度です、危険すぎて普通やりませんが……」
ヤドヴィガのオペレーターの言う通り、無数のデブリがおおむね公転軌道に乗っているものの不規則な動きをしているデブリ円盤の中で速度を出すのは自殺行為だった。特に短艇は障壁も装甲も非常に薄い。
しかしカミュ曹長の一隊……というには規模が大きい短艇群は器用にデブリを避けながら全速力を出していた。強化されたリアクト機関が無音の唸りをあげる。
「長年、惑星モルトで警備や警戒活動をやっていると、デブリの傾向がつかめるようになる」カミュ曹長がつぶやく。
「何十年もの積み重ねでアビオニクスの記憶野が把握しているそれを、人間は補助するだけで機動できる。他所者は知らんだろ。モルトの地獄の短艇部隊を」
最大速度まで出した短艇部隊は、突如としてデブリ円盤から躍り出て、デブリ円盤すれすれを航行しながら砲撃を浴びせていた傭兵艦隊ヤドヴィガに襲い掛かった。
デブリと短艇の区別がつきにくいこと。
デブリの群れの中を高速移動されたこと。
接近戦を挑んでいたこと。
これら全てが要因となって傭兵艦隊ヤドヴィガはモルト勢の短艇部隊の接近を許してしまった。艦隊の内部に入り込まれると数が多い側は対応にこまった。
軍艦と違って副砲の類もあまり充実していない。
モルトの短艇部隊は武装は貧弱ながらも機銃から光弾を浴びせかけ、短艇の腹に抱いていた質量弾を食らわせた。
その一連の行動でヤドヴィガの前衛から本隊が混乱した。
「社長!」
オペレーターが悲鳴をあげる。
しかしロンバルディアは眉をひそめただけだった。
「所詮は一時的な現象だ。予想外ではあったがな。まず短艇が入り込んできた船団は、お互いの距離を大きくあけろ。距離を広くあけて散開すれば落ち着いて狙うことができるだろう」
ロンバルディアの冷静な指示でヤドヴィガの船団は散開を開始した。
密集状態よりは密度が薄まるため、短艇を狙う先に味方が存在する危険性が減った。
「そう来ると思ってたぜぇ、今だ!」
デブリの陰に隠れていたモルト勢が一斉に飛び出して銃砲撃を開始した。
密度が薄くなったヤドヴィガの船団に襲い掛かる。
「短艇の襲撃から敵が散開するところまでがこちらのシナリオよ。いつもの海賊どもとかよりは規模が大きい相手だがな」サウスの顔役がにんまりと笑った。
さすがに距離の近さもあり、商船構造の船艇は撃破されるものが続出した。
「社長!」
「いちいち大声をあげてパニックになるな。手は打ってある」
「……重力子感知! ……これは……味方……?」
「ちょうどいいタイミングだな」
ロンバルディアは落ち着いた様子でワインに手を伸ばしてグラスに注いだ。
そうしてメインモニタに向かって乾杯の動作をする。
メインモニタには新たな艦艇の群れが映し出されていた。
それは整然とした隊形を組んだロストフ連邦正規軍の艦艇11000隻だった。





