【第三週】銀河商事の逆襲
惑星モルトは開拓宙域の中でも比較的、活気のある栄えた惑星だ。
色温度の高くある意味で若い白色矮星を恒星として、第五惑星が居住地である。
もともとはこの白色矮星が赤色巨星だった時代に惑星系は一度飲み込まれたが、白色矮星となっていった過程で金属の核や残骸が生き残り、それらがこの白色矮星を公転していた。
豊富な金属の塊を採掘するために多数の開拓民が集まってきたが、それを狙った無法者や賊徒も出没した。銀河商事の領域からはやや離れていたため、自然に開拓民が自主的に武装したり、フリーの傭兵が流れ込むことで、小規模な民間軍事会社などが乱立した。
またそれらの需要を当て込んだ享楽的なギャンブル業者や飲食店などの業者もやってきて、開拓宙域の中でもちょっとした歓楽惑星として有名だった。
惑星は重力も低いため、それこそ天を衝くような建造物もあり、地上から2〜3000mに達するような建造物もあった。もっとも地表は荒れた金属であるため、金属の粉塵などによる公害もあり、高い建物や空中をゆったりと浮遊する大型飛行船などは実用品でもあった。
衛星の打ち上げも重力が低いために容易で、惑星の衛星軌道上にはぎらぎらと輝くネオンのような灯火をつけた衛星が多数展開され、接近する宇宙船からみると派手で賑やかな一方、その異様な煌めきは一種の奇観としても有名だった。
その惑星モルトの顔役たちのところに銀河商事の代表取締役ロンバルディア・ミヤタから重力子通信を介して書状が届いたのはつい先日のことだった。
顔役たちはモルト一番のカジノの貴賓室で落ち合い会合を開いていた。
銀河商事は最近の海賊の無法ぶりや急速に成長したヘルメス・トレーディング社という会社がいかに悪辣かを丁寧に書いた上で、惑星モルトを保護すると言ってきたのだった。
数千隻の船団を派遣する。
そしてロストフ連邦などとの協力関係も匂わせていた。
「どうするよ」顔役の1人が言う。
「そりゃ決まってる」もう1人が答えた。
「そりゃそうだわな」と別の顔役が頷く。
「ふざけんな!」複数の顔役が唱和するかのように意気を上げた。
「保護」のためにやってくる銀河商事の船団を迎え撃つために、ありとあらゆる武装船がかき集められたのは数日後だった。
惑星モルトの周辺では、かつて惑星だった岩石などの破片がデブリ状の円盤を形成し白色矮星を公転しており、格好の隠れ蓑になる。通常は恒星の両極方向から接近するのが常だ。
このデブリ円盤には、機関砲を無理やり載せた開拓船、武装商船などの交易船、この界隈で利益をあげてきた密輸商人たちの船、フリーの傭兵たちの乗る武装短艇などが多数集結した。その数は5000から6000隻に達した。
短艇とはいってもその軽快な機動力で機関砲を当てることさえできれば馬鹿にできない戦力だ。
海賊たちとは距離を置いていたので、参戦した海賊はいなかったが、戦場の匂いを求めて賊徒や無法者の船も「強いものにつく」理論で集まっていた。
カジノなどからあがる収益で買った違法な巡洋艦などのフネも複数存在した。
それらはどうみてもミリタリー・グレードだったが開拓宙域には統一された司法は存在しない。ある意味でやりたい放題だ。
それらの船艇群はデブリの影に隠れ、一部の重武装の船やこれまた違法なミリタリーグレードのセンサーを積んだ船が数百隻、囮のように惑星系の北極側に展開していた。
惑星モルトのカジノは大きく分けてイースト、ウェスト、ノース、サウスのグループがあり、何となくこの大船団の指揮もそれぞれのカジノの顔役が執っていた。
古株の顔役が乗る違法な巡洋艦のオペレーターが大声をあげた。
「来ましたぜ! 銀河商事ですぜ。ご丁寧に銀河商事であることを四方八方に堂々と宣伝してやがります」
「来たか。たかだか1〜2000隻の船団、いかに傭兵艦隊とはいっても完全なアウェイだ。数だけならこちらのほうが圧倒的に上だ。囮にはまったら引き込んで至近距離で叩くぞ」
「へいっ……おや?」
オペーレータが首をかしげる。s渉センサーで計算しないと分かりませんが……こ、こいつぁ」
「だからどうしたんだ?」
「い、いち……一万隻! 一万隻です!」
「何だとぉ!」
銀河商事の船団はゆっくりと接近していた。
巡洋艦などの艦艇を前面に出していたが、それ以上に傭兵艦隊ヤドヴィガの全勢力の半分に達する1万隻もの船団だった。
その中心にいるのは戦艦ギャラクシー級の戦艦群。
そして傭兵艦隊旗艦でありロンバルディアの座乗する戦艦メルクリウスが存在していた。
「惑星モルトを押さえればカジノからあがる巨額の収益が手に入る。我が銀河商事が開発に参加すればもっと素晴らしい惑星にできる」
銀河商事の代表であるロンバルディアは提督席に座りメインモニターを見つめていた。
そこには最新型のセンサーによる分解でデブリ円盤に潜む惑星モルトの船団が克明に映し出されていた。
「攻撃開始だ」
ロンバルディアは芝居がかった仕草で腕をあげ、振り下ろした。
その合図によって傭兵艦隊ヤドヴィガは一斉にリアクト機関をふかし、青い光を噴き出しながら、惑星モルトの船団に向かって突進を開始したのだった。





