Re:【議事録】本日の議事録をご確認ください
涼井は立ち上がって全員を見回した。
明らかに不快そうな表情を浮かべているもの、驚いたように見えるもの、黙ってこちらを見ているだけのものなど様々だ。
「それではお手元の資料をご確認ください」
すっとバークとリリヤが紙の資料を持って現れ、それぞれに配布していった。
どうやらこの世界では紙は貴重でステータスの証らしく演出に効果的と判断したのだ。
大統領のエドワルドがにやにやと微笑を浮かべている。大量の紙とハードコピーはエドワルドに頼んで用意してもらったのだ。もちろん左上を止め、綺麗に揃えている。プリンターやホッチキスが一般的ではない世界なので非常に大変だったがバークとリリヤが頑張ってくれた。
会議室からはほう……と感嘆のため息が漏れた。
「ではご説明させていただきます。まずは1ページ目のエグゼクティブサマリーをご覧ください」
ぴしっとした涼井の声にうながされるようにそれぞれが紙をめくる。
エグゼクティブサマリーはわかりやすい概略のようなものだ。
涼井の提案はこうだった。
まず前提として、いまは共和国の宇宙艦隊は主都市ゼウスに駐留する第1艦隊をはじめ、第12艦隊まである。
涼井の率いる艦隊は第9艦隊だ。
それぞれが1万2千隻ほどの艦艇を持っているが、第10から第12までは治安維持用で駆逐艦やフリゲートで構成されている。涼井が過去の会戦結果を分析したところ、どうも帝国は1個艦隊が2万隻前後で、そもそも数で負けているケースがたくさんあった。全体の艦艇は帝国のほうが多いから仕方がないのかもしれないがそれも不可解だ。
共和国の艦隊は連合して戦うこともあるが、個別の艦隊がわりと自由に動いているようで、敗戦が多い共和国の中でもスズハル提督が無敗、ロアルド提督はほかの艦隊と比較して勝利数が多く、ピアソン提督は善戦が多かった。
また、組織として統合幕僚本部があり、その下に宇宙艦隊司令部とその幕僚組織があり、さらに個々の艦隊がある。おまけに実は陸軍も別にあったり、沿岸警備隊や国境守備隊みたいなものも別にある。陸軍もフネを持っていたり沿岸警備隊と治安維持のための第10〜第12艦隊と任務がかぶる……という状態で、どうも非効率に感じてしまった。
実際に縄張り争いのようなものが発端となって会戦に敗北した事例も結構あった。
そこで涼井の案としては、ズバリで「宇宙艦隊」を廃止する。
統合幕僚本部に統合してしまって幕僚組織も効率化する。
統合幕僚本部直下に宇宙軍、陸軍、沿岸警備隊を置く。
第10〜12艦隊のうちフリゲートは沿岸警備隊に編入(さいわい艦艇の種類や形式、武装は同系統だった)、逆に沿岸警備隊の大型の巡視艦などは改装の上駆逐艦、軽巡洋艦として宇宙軍に編入する。
宇宙軍、陸軍の間でも任務がかぶる部分は組織を整理する。
もともと宇宙艦隊にも惑星を警備する陸戦隊がいるが、これは逆に陸軍に統合。
陸軍から派遣されて艦艇の治安維持や海賊・密輸船への立ち入り検査を行う部隊は逆に海兵隊として宇宙軍に統合する……などをポイントを押さえて説明した。
「私はこの案は良いと思う。宇宙軍の改革という形で政策上も新しい風を演出できる」
エドワルドが涼井の案を推す。会議の空気は涼井支持に傾いてきた。
ポストも減るわけではなくむしろ増える部分もあり、軍政を担当してきた高級将校からも反対が出にくいように配慮していた。
さらに艦隊もいくつかは統合し、4〜6個に集約する。
現在、中将が艦隊を指揮しているが、統合された艦隊は大将が指揮をとる。
このあたりは自由気ままにやってきた提督たちの憮然とした表情が気にはなった。
しかし問題は春の大遠征の中止を求める動議の際に起こった。
「私は大遠征中止などありえないと断じます! そんなことをすればそもそもの宇宙艦隊の創設意義すら怪しくなってしまうではありませんか!」
興奮した若い幕僚が立ち上がった。憎悪に近い視線を涼井に向ける。
涼井はそんなもの毛ほどにも感じなかったが、しかし会議の流れが怪しくなってきてしまったのは事実だった。