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ピーマンが世界を救う

作者: ぴーまん万歳

飼い猫が言ったんです……エイプリルフールなら何をしても許されるって。

だから頭スカスカにして白目剥きながら適当に書き殴りました。

 

 ここは地球とは少しだけ何かが違う世界。

 ある果実がもたらされる事によって変わっていく世界――




 ―――――――




「おっひょっひょっひょっ!ウチの子ったら東大に受かっちゃったのよぉ!まぁったく勉強もしてなかったのにぃ!やっぴゃりぃ、親の血を遺伝しているのねぇ」


 汚い口調で下品に子供の自慢をしている女に嫌悪感を抱くのは当然だろう。

 ここはカフェ。周囲の客の迷惑も考えずに騒ぎ散らかす女は気分良さそうに。


「うぃっひっひ!そりゃあ、羨ましいざます!ウチの上の子は何を言っても聞かなくてねぇ。この子くらい可愛ければいいのだけど」


 そう言ってベビーカーの赤子をあやすように揺らすのは、自慢母の対面に座る女。繰り返すが、ここはカフェ。周囲には多くの客がいる。


(うるせぇな……死ねばいいのに……)

(恥ずかしくないのかしら……)

(汚ねえ喋り方だ……)


 人々から溢れ出す不満にも気付かずに、女たちは醜く笑う。

 軈て我慢しかねた店員がやって来て言った。


「申し訳ありませんが、周囲のお客様に迷惑がかかりますので……」


 何故自分が下に回らなくてはいけないのだろうか。そんな理不尽に疑問を抱きつつ、青年は悪そうな表情を作った。しかし、女たちは逆上する。


「なぁにを言ってるのよあなたっ!楽しんじゃいけないわけっ!?育児に家事、夫の面倒も見なきゃいけないのに、ここでも疎まれなくちゃいけないのっ!?あなたは私たちに死ねと言いたいのっ!?大体男だからって偉そうにするんじゃないわよ!あんた私の息子よりも頭良いのっ!?」


「そーよそーよ!簡単な仕事しか出来ないくせに目上の人に偉そうな口聞いてるんじゃないわよっ!」


 さて、このトラブルをどうやって切り抜けるかによってその人の人格は見えてくるのだが、この青年どうだろうか。


「ざっけんじゃねぇよクソババア!てめぇらこそ頭悪い会話してんじゃねぇ!家事?育児?夫の面倒?それすら満足に出来てねえじゃねえか!こんな時間にママ友ごっこしてるバカが夫の役に立ててるのかよ!?てめぇらの旦那さんは苦労人だなぁ!明らかに簡単な仕事しかしねぇで、自分が楽しむ事を正当化するんじゃねぇよ!大体なぁ、歳とっただけで偉いと思ったら大間違いだよ!子供ってのは大人の背中を見て育つんだ!俺が見たお前らの背中は、絶望色だよ!自分がこんな大人になるくらいなら今すぐ死んだ方がマシだと思えるな!日本のお淑やかで上品な女性は絶滅危惧種かっ!?てめぇらみてぇな下品な下等生物が公共の場を利用できるだけで有難いと思えやカス!」


 そして青年は握った拳を叩きつけた。二人の女に。


「「ぬぴょぴょぴょーん!」」


 女たちは最後までだらし無く、無様にその場に倒れた。

 周囲の客、いや、野次馬は動画に撮ったり、SNSに投稿したりと忙しい。皆、面白いものを見たと満足そうだ。


「けっ、馬鹿は死ななきゃ治らないって偉人の言葉があるけどな、てめぇらは死んでも治らない、来世まで引き継ぎ決定の馬鹿だ!せいぜいそのバッドステータスに苦しみながら懺悔して憐れに過ごせや!」


 そして青年は去る。時期に警察が来るだろう。その前にやっておきたい事があったのだ。




 ―――――――




「いやん、貴方ってば。そんなに私に会いたかったわけぇ?」


 青年が向かった一室で待っていたのは、知能指数の低さを顔に滲み出させた女だ。


「そうだ。ほら、もう暫く来れなくなるから受け取っておけ」


 そう言って差し出された金は、慎ましく生活すれば一月を過ごせる程の額だった。


「やだ、太っ腹ね。ベリベリハッピィよ。うふ、アナタの太いのもベリベリハッピィにしたげる」


 そう言って女は衣服を脱ぎ始めた。

 ああ、なんて楽な人生なんでしょう。私は快楽に溺れているだけで豊かに暮らせる。きっと私が美しいからこその特権ね。私ってば幸運ね。

 女はそんな勘違いを抱いたまま、夜を超えた。




 ―――――――




 青年が逮捕されたニュースを見て、女は笑っていた。


「バカねぇ。後先考えられない男って本当バカ。アナタもそう思うわよねぇ」


 男は鋭い視線を女に向けた。


「てめぇも大概だな。股開きゃ金が入ると思ってる奴はロクなもんじゃねぇ。ラクして生きる奴は、節制がなくなり、脂肪は増えて表情は弛む。わかるか?お前は醜女(ブス)だ。近い内に痛い目みるぜ」


「はぁ?アナタだって私のこと抱くじゃない。上手に生きてる私に嫉妬してるんでしょ?」


 直後、女の顔は潰れた。男の拳がめり込んだのだ。


「けっ、図に乗るとこうなる。金払いがいいから付き合ってやったが、そろそろ価値がなくなる。死んで当然だ。お前ら、処分しておけ」


 そして女は何処かへと運ばれていく――




 ―――――――




「どゅふふふふ。我々はさいきょうであります」

「ぐへへへ、こんなに仲間がいるのですものね」


 男子大学生達が道でたむろしている。彼らは群れることによって自身の価値が増幅したと思い込み、増長する。そして楽しさの為に道を踏み外すことは非常に多い。


「わお、なんだか怖そうな人が来ましたよ」

「君なら勝てるでゅふふふ」


 そして態と男にぶつかる学生は、いちゃもんをつけはじめる。


「困りますね、貴方ちょっとは周り見たらどうです?そんな格好して、目立ちたいのですか?あなたみたいな人種はですね……」


 そして、学生達は数秒後、皆道に倒れていた。


「けっ。どいつもこいつも調子に乗りやがって。むしゃくしゃする……」


 男は呟きながら去って行く。




 ―――――――




 今日もこの世界では、沢山の不満やストレス、怒りが渦巻いていた。


「選挙カーうるせぇぞ!爆破しろ!」


「あんな奴になんの価値があるんだよ!」


「僕がゲイだからって笑ったな!?」


「被害妄想だよてめぇなんかハナから興味ねぇ!」


「リア充目障りだ!」


「ブスは目に毒!」


「童貞ってホントきもい!」


 偏見や凝り固まった価値観によって様々なモノが否定されて行く。


「女ってどうして皆んなだらしないんだ」


「男って欲望丸出しね」


「老いぼれは引っ込んでろ!」


「若者はもっと責任感を持て!」


「「「みんな死ねばいいのに」」」




 ―――――――




 そんな世界に、大量の果実が降ってきた。

 それは緑色の、光沢ある果実。

 味は苦くて、中身はなんと、種子ばかり。

 そう、殆ど空洞だった。


「これはなんだ!?」

「どこから降ってきた!」

「神の果実!」

「この世は救われる!」

「何に用いるんだ!?」

「皆これを食せ!」


 緑色の果実は苦かったが、誰もが食べた。特に大人は、「この苦味は人生の苦味によく似ている」と評した。


 ある日、この果実に名前が付けられた。


「Oh...P-man!!」


 アメリカの予言者が名付けた。彼は言った。


「夢で見たんだ。ピーマンが世界を救うって。世界中の研究者達は今すぐにピーマンの謎を解明した方が賢明だろう」




 この世はまさにピーマンブーム。


「ピーマン!へいピーマン!肉を詰めたら肉詰めピーマン!これなら子供も食べられるまん!」


 家庭では毎日ピーマンが食され、


「ピーマン戦隊、P-manジャー!」


 テレビではPの仮面を被った男が主役の子供番組が流れ、


「この凹みと……この光沢!!うぅん、エクセレンっ!」


 美術館ではピーマンの絵ばかりが飾られた。


 そしてある日、哲学者が言った。


「皆、外側ばかりを意識し過ぎた。ピーマンに大事なのは内側だ」


 皆は頭を悩ませた。

 内には何も無いじゃないか。

 種子に何かあるだろうか。

 いや、違う。何も無いことに意味があるのか?

 人々の考えがそこまで至った時に、答えは出された。


「そう!ピーマンはスカスカ!我々のストレスに対抗する為には、ピーマンをもってスカスカを制するべきなのだ!」


 そして、この世は変わった。




 ―――――――




「へいピーマン!」


「ぬらべっちゃ!ピーマンピーマン!」


「わっしょいピーマン?」


「ノーセンキューピーマン」


 人々は白目を剥き、鼻水と涎を垂らしながら同じ言葉を複数多用する。


「ぴー!まん!ラブリーピーマン!」


「ふぅわふぅわぴーまん」


「ぴひゃぴひゃぴひゃ」


 ある人は世間話を、ある人は演奏を、ある人は絵を描きながら、呪文のように唱える。


「ぴーMAN」


「Pまん」


 両手を掲げて、価値のない踊りを見せる者もいる。


「ぴぴぴふひっ」


 そう、これが人々が出した答え。

 頭をスカスカにすれば、世界は平和になる。


「ぴょえりゃりゃりまん」


「ぬぽぽぽぽ」


 ロクでもない事しか考えないのが人間。

 ならば何も考えられない方が世の為。

 かつては日常的に行われていた暴力も、殺人も、争いも無くなって。


「ぴーまん万歳!」


 これはまさに人々が望んだ平和の形。


「「「ぴーまん万歳!!!」」」


 こうしてこの世から不幸者は一人もいなくなった。



 みんなスカスカで、みんないい。



いやぁ、まぁ、なんというか。

とりあえず一言だけ言わせてください。


ぱぷりか万歳!


あ……間違えた……ぴーまん万歳……

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