“観光”
意外と、色々な店がありますね。人は少ないですけど。こんなにも沢山の店があると、一日ぐらいは直ぐに過ぎてしまいますね。
「師匠、師匠。本当に大丈夫なんですか? 依頼は」
「あぁ。黄金果実はもう見つけたぞ?」
「はぃい?」
あんなにさっきまで、頭を悩ませていたのに見つけたんですか? もしかして、最初からどんな物か知っていて悩んだフリをしていた、とかですか? 意地が悪いですね。
「そ、それで。どんな物なんですか? 教えて下さいよ。師匠」
「ダメだ。ミユナ、お前は直ぐにそうやって解決したがる。少しは肩の力を抜け、な? そうしたら見える世界もある。最短で走ることは、大切だが、重要ではない。たまには、回り道もしてみな。
それと、こうでもしないと、俺はミユナと買い物できないだろ? たまには、師匠らしくしてやらなぇとな。あ、それと、この話はあの二人にはまだ内緒な」
むむむ、師匠がイケメンに見えます。師匠の癖にっ。顔が赤くなっていくのが自分でも分かります。師匠はそう言って先に歩いていきました。
「ねぇねぇ。どうして、二人とも顔が赤いの?」
テテテ、と走ってきたフルートちゃん、がそう聞いてきました。やっぱり師匠も顔が赤くなっていたんですね。今日の夕方にも弄りましょう。さすがに今は、私も顔が赤いですからね。
「あっ、もしかして。ちゅ……」
「違いますよっ。ほら、行きますよ!」
不穏な単語が聞こえてきたので、無理矢理話題を変えます。ちゅ、まで聞こえましたからね。危険な香りがします。
無理矢理、話題を変えられたフルートちゃんはちぇ、という顔をしながらも着いてきました。
ふと、隣を覗いた時に見えた男向けのネックレスが目につきました。とても綺麗なネックレスです。真っ黒な宝石を丁寧に飾り紐で編んであります。きっと、師匠にも似合うでしょうね。
うぐぅ、持ち合わせじゃ足りませんね。値札がチラリと見えましたけど。また次、来たときに買うとしましょう。
この後は、沢山の場所に行った訳ではありませんがとても楽しかったです。近くの子供達をも巻き込んで、大規模な鬼ごっこをしました。最初は師匠が鬼だったのですが、ずぅっっっと私を追いかけてきました。もちろん、師匠の身体能力を遥かに上回る私が負けるわけが無いですがね。
師匠、最後には諦めてシィエルちゃんを鬼にしていました。その後はリタイアして子供達の安全に遊んでいるか見てくれているようでした。転けそうな割れ目、小石は魔術でササッと消しているのを見かけましたよ。
それに師匠、とても楽しそうでした。私もとても楽しかったです。だって、私には友人と呼べる人は居ませんでした。それに、家族も。
なのでこんな体験は、したことが無かったかです。遊ぶのって、こんなにも楽しいことだったんですね。
※※※
「ミユナのお姉ちゃん。お風呂、入ろうよ!」
「ボクも、一緒に入りたいな?」
シィエルちゃん、フルートちゃんともすっかり仲良くなりました。こうやって、お風呂に誘われるぐらいには。広場と言えども、走れば砂ぼこりが舞います。それが汗で湿気った肌にくっついて汚れてしまいましたし。
「師匠、覗かないでくださいよ?」
「分かってるって。ったく、この前もそう注意して行ったよな。俺はそんなに信用ないか?」
まぁ、言ってはいますが。見ないことは分かっていますよ。ちゃんと信用しています。師匠には絶対に言わないですけどね。言ったら、弄られるのがオチですし。
「それじゃ、行ってきますね」
「おう。三人とも行ってこい!」
師匠はそう言うと椅子に座ってお酒を飲み始めました。珍しいですね。何かあったら困るから、といつもは旅先では飲まない筈なのに。
温泉、ではなくて水を火で暖めて温水にしているようでした。ここには私たち以外は誰も居ません。宿屋に泊まっているのも私達だけのようですし。
「ねぇ、ミユナのお姉ちゃんのお母さんはどんな人なの?」
「あ、ボクも聞きたい!」
尻尾を洗っている時にそう質問をしてきました。私のお母さん、ですか。ん~、あんまり覚えてないんですよね。
「私のお母さんはですね。師匠と同じ、魔術師だったんですよ。あ、お父さんも魔術師でしたよ。沢山の竜と対話して、多くの無益な争いを無くしてきた、って話です。私の自慢の両親ですよ」
「今はどうしてるの? 魔術師だった、ってことは今は違う仕事をしてるの?」
「違いますよ? 両親は、私を助けるために死にました。暴れた竜によって、です。両親が助けてくれなかったら私はここに居ませんでした」
「えっ…………」
「ごめんなさい。聞いたらいけないこと、だったみたいだね。ボク達と同じなんだ……」
「別に構いませんよ? 過去は過去です。今からどう生きるか、が大切なんですから」
「ねぇ。それじゃぁ、最後にさ。どうして、魔術師を目指しているの? やっぱり、復讐のため?」
「これも違います。私は、もしも両親を殺した竜に会ったら聞きたいんです。どうして暴れたのかを」
「そうなんだ……」
「なんだか、暗い雰囲気になってしまいましたね。ごめんなさい。二人とも」
「ううん。ボク達こそ、ごめんね」
「えぇ、ワタシが変なことを言わなければ……」
「そんなこと無いですよ」
「ワタシ達は先に上がっているわ。ゆっくり、お風呂に浸かっててね!」
「気にしなくて良いのに……って。気を使われちゃいましたね。あ、そう言えば明日は満月ですね」
空に浮かぶ、ほんの少しだけ欠けた月を見てそう呟きました。なんだか、少しだけ涙が溢れました。やっぱり、昔の話で気にしないのは難しいですね。気を使われて良かったのかもしれませんね。