“旅路”
ふぅ。朝からなんとか間に合いましたね。あの後、フルートちゃん、シィエルちゃんが起きてきて手伝ってくれました。その為、少し量を多目に作ることができました。よかったです。
今は、馬車に揺られながら二人の村に行っている最中です。ガタゴト、ガタゴトと揺られながら黄金果実について話しています。
「黄金果実は全てを奪う呪い品で、そんなに大きく無いんだろ? 昨日の話だと。そもそも、全てを奪う呪いってのは何なんだ?」
「それは分からないわ」
「だろうな。ったく。村にヒントがあると良いんだけどな……」
師匠の質問にシィエルちゃんが答えました。その返答を聞いて、頭を掻いています。手掛かりもヒントもない。これでは、見つけようがないと言われるのも仕方がないかもしれません。
「お兄さん達、面白い話、してるネ。その『黄金果実』ってのは、凄いオタカラじゃないカ? トレジャーハントの類なのカイ?」
「えっと? 何か知っているんですか?」
「有名な話サ。黄金果実は、不死の霊薬。一度嘗めれば、万病が癒えるって噂の石っころサ」
「その話、本当ですかっ!」
馬車を貸してくれている商人さんが答えてくれました。まさかの思いがけないヒントです。黄金果実は、石なんですね。
「他には何か知っているんですか?」
「ハハ、知っているサ。でも、ここからは、ネ?」
情報料が必要ってことですか。これは、困りましたね。今日の持ち合わせではきっと足りないでしょう。きっと、えげつない金額を提示してくるに決まっています。
「なら、情報交換ってのはどうだ?」
「何を知っているノカ?」
「この前の、温泉街を攻撃した竜の動機と事の顛末」
「嘘、偽りは無いのカ?」
「己の生に誓って」
おぉ。師匠が大きく出ました。『己の生に誓って』という言葉は、一種の魔術のような働きをします。嘘をつくと全身に激痛が走るという不思議な高価を持っています。有効期限は、三十分だけ。
「それなら、大丈夫だネ。交渉成立サ」
「ならば少し、お耳を拝借」
師匠が小さく商人に事の顛末を教えていました。その一言一言に驚いていました。でしょうね、だって。まさか、竜の密売なんてことがあっていたのですから。
「まじカ。本当なんだよナ。その言葉」
「あぁ。誓っただろ?」
「じゃぁ、こちらもだナ。黄金果実は竜が守護する石っころサ。近づくだけで、猛烈に攻撃されて大変だって。あぁ、コワイコワイ。これが本当の命懸けってやつサ」
「竜が守護している、ですか。これなら、少し簡単になりそう、ですね? 師匠」
私の呟きに聞いてから、でしょうか。商人さんがニヤニヤして師匠に話しかけてきます。何を聞くのでしょうか? なんとなく、敵意や害意がないのは本能で分かるので大丈夫ですが。
「ってことは、さっきの話、アンさんなんだろ? 魔術師サマ」
「さぁ? どうだろうな。俺は一言も魔術師とは言ってないぞ? しがないの錬金術師かもしれないし、ただの村人かもしれないぞ?」
「カカカ、そーゆーことにしといてやるヨ」
そんな風に話していると、フルートちゃん、シィエルちゃんが話してこないなぁ、と私が思って後ろを振り向くとスヤスヤと眠っていました。昨日はあまり眠れなかったのでしょうか?
まぁ、暇だったから、という可能性もありますよね。
商人さんは、そう言った後に話さなくなりました。これで会話は打ちきりだと言うように。その後に師匠も黙ってしまったので、沈黙がここを支配します。少し辛いですね。やっぱり、私は騒がしい方が好きです。
※※※
どのくらい時間が経ったのでしょうか。ウトウトしていたので分かりません。でも、目的地には着いたみたいですね。村の前に馬車は止まっているので。
「着いたゼ。じゃ、またな」
「ミユナ~。起きろ~、就いたぞ」
師匠に起こされて、目を覚まします。フルートちゃん、シィエルちゃんはもう起きてたみたいですね。私と目が合いました。
「ありがと! 商人さん」
「ありがとう」
双子が仲良く商人さんに挨拶していました。もちろん、私も師匠も降りるときに言いましたよ。礼儀ですからね。
「ここがワタシ達の故郷」
「自然が豊かですね、師匠」
「あぁ、そうだな」
川の隣には大きな風車が建っています。ザ・田舎というような感じの場所です。私達の事務所のある町では見れないような光景が広がっていました。
「ワタシ達は宿をとってくるわ。とっておきの場所なの」
「ボク達に着いてきて!」
土地勘があるからか時々、私達の方を振り返りながら駆け出していきました。まだまだ子供なんですね。多分ですが、久しぶり帰ってこれたのでしょう。そんな気がします。
「はぁ~い。ほら、師匠。行きますよ!」
「そうだな。だが本当に黄金果実なんてあるのか……」
そういうことは言わないのが決まりですよ。探し物なんて、あるかも知れないって場所で見つかるものなんですから。
どうやら、私達が歩くのが遅かったからか二人が先に部屋を取っておいてくれたみたいです。二人部屋を二つ。最初はシィエルちゃんが全額払うと言っていましたが、無理に師匠が半分出しました。やっぱり、居心地悪いですもんね。子供のお金で泊まるって言うのは。
「よし、それじゃぁ。二人とも。思い出の地に連れていってくれ。黄金果実探しは明後日からでも十分だろ?」
「師匠っ。それじゃぁ、」
師匠はニヤッと私にだけ分かるように笑っていました。まぁ、そうですよね。ここは二人にとっては母親を失った地でもあるんですからね。失念していました。
「いいの?」
「あぁ。ここら辺を観光していたら、ヒントも見つかるかも知れないしな」
シィエルちゃんとフルートちゃんの頭を同時に撫でながらそういいました。え、もしかして師匠って、ロリコンだったんですか?
まぁ、いいです。たまには、観光も良いかもしれませんね。
「それじゃ、行きましょう。シィエルちゃん、フルートちゃん。それに師匠!」