“修行”
「それは華の盾。華弁は、風に舞い、天へと運ばれる。私は願う。全ての害意を防ぐ神代の華の盾がここに顕現することを《神華の大盾》」
今、私は師匠と一緒に修行をしています。何の修行かと言うと、この前のように心を乱しただけで魔術が暴走しないようにするための修行です。それと、発動までの時間を短縮するためです。
「ミユナ、行くぞ? 気を付けないと、痛い目に合うからな?
疑似展開 氷結竜の咆哮」
ゴウっ、と私の神華の大盾にブレスがぶつかります。周りの空気は極限にまで冷えて、汗で少しだけ濡れていた毛先が凍りついたのが分かります。
でも、ここで集中を乱すわけにはいきません。だって、この前みたいに暴走させるといけないですから。だから、しっかりとブレスを放つ師匠を見ます。
「おぉ、中々、暴走させないな。さすが、この前にぶっつけで発動させただけあるな」
「師匠こそっ。これ、この前のブレスですよね」
師匠が珍しく褒めてくれました。これは、もうとても貴重ですね。何をやっても褒めてくれない師匠ですから。嬉しいです。
っ。危ない。暴走しそうになりましたよ。やっぱりまだまだ、ですね。でも、今度はちゃんと持ち直しました。大分、制御できるようになってきたと思います。
そう思っていたら、ブレスが止みました。これで、一旦、休憩ですね。
「ミユナ、そのまま維持しながら全方向からの氷柱避けろよ?」
「はっ?」
「疑似展開 氷結竜の氷槍」
え? っと、師匠を見るとにぃっ、と笑っていました。慈悲もなく、師匠が全方向から魔術を放ってきます。慌てて、神華の大盾を動かして防御していきます。
これ、かなり難しいですよ。師匠を睨み付けながらも、必死で大盾を動かして、私自身も動いて避け続けます。
避けて、避けて、避けまくってどのくらい経ったでしょうか。未だに、私にぶつかった氷柱はありません。これは、かなり凄いことじゃないでしょうか?
「よし。時間だから帰るぞ」
パンっ、と師匠が手を叩くと氷柱は消えてしまいました。まるで陽炎のようです。でも、私にはこの神華の大盾を解除する気力がもう残っていません。
「師匠、ごめんなさいっ!」
ふっ、と意識が離れて暴走を開始する大盾。またも、真っ白だった華弁は真っ黒に染まって辺りに突き刺さっていきます。私にも襲いかかってくるので必死に避けます。
だって、これ。触れるだけでも危険なんですよ。防御には最適なんですけどね。
「ったく。俺も配分をミスったみたいだな。まぁ、この調子なら大丈夫だろう。
俺は幽霊。魔導空間の守人なり。今、ここに顕現させるは、我が領域。ここに在り、ここに在らず。一時の夢幻で在り、現実でも在り。幽霊はここに在りて、幻と現を混合す!」
この前と同じ詠唱で、暴走した神華は消えました。先程の氷柱のように。やっぱり、師匠の魔術は凄いです。どのくらい鍛練すればあの領域にたどり着けるのでしょうか。
「俺はここを綺麗に慣らしてから帰るからな。ミユナは好きな所で、昼を食ってこい。
俺がペース配分をミスって過剰にやらせてしまった詫びだ」
そう言って、財布を投げてきました。しっかりとキャッチしてから答えます。師匠は、こうと言ったら絶対に聞かないので大人しくどこかで食べに行きましょう。
「わかりました。師匠、今日は夕飯は肉にしますから早く帰ってきてくださいね」
返事はありませんでしたが、左手をヒラヒラさせていたので楽しみにしているのでしょう。師匠は肉が好きですからね。
そう言ってから、食事処の多くあつまる地区へと歩いていきました。
さて、そこかしこから美味しそうな匂いがしてきますね。どうしましょうか。何時もの食事処でもいいですが、たまには違うところも行ってみたいですね。
でも、やっぱり今日はいつもの所で少しだけ豪華に食事をしましょう! だって、今日は師匠にも褒められたですしね。そう思って、いつもの道を歩いていきます。
「いらっしゃい~。ミユナちゃんか。今日はどんなメニューにするかい?」
「ん~、どうしましょう。迷いますねぇ。やっぱり、いつものをお願いしますっ」
「分かったよ。じゃ、少し待っててな」
ここの食事処はよく行くので、顔も名前も覚えられています。私が初めて、師匠と行った食事処ですからね。少し汚れていますが料理はとても美味しいです。
ちなみに、いつものとは店主の日替わり串焼き、野菜のスープ、パン二つです。全部、単品で頼んでいても他の食事処よりも少し安くで済むので経済的です。
「はい。おまちどうさま」
「じゃぁ、いただきます!」
少し遅いですが、昼食ですよ。どの料理からも良い匂いが漂ってきています。今日の串焼きは鳥系の肉ですね。ソースは、しょうゆという遠い国で使われているソースだそうです。
「ごちそうさまでした! 料金は置いておきますね」
こうして、私は外に出ます。料金が盗まれるなんてことはありません。だって、私しかいないので。この時間帯はあまり人がこないです。不思議なことに。
ここからは、買い物をして帰るつもりです。今日は肉料理を作るつもりなので買うものも多そうですね。肉屋とパン屋と青果店に行かないといけません。
※※※
ミッションコンプリートです。全て買うことができました! これで後は帰るだけですね。荷物は少し重いですがこれぐらいは、まったく支障はないです!
「あの! お姉さん。少し良いですか?」
「はい。大丈夫ですよ。どうしたんですか?」
子供に呼び止められました。振り替えると双子の女の子ですね。顔つきはそっくりで、髪色だけが違います。黒と白の二つの似た顔が私を見ています。
私が了承したので、双子達は安心した顔をしました。なんだか可愛いですね。
「実は、ここに行きたいんです。でも、場所がわからなくて……」
黒髪の子が私に地図を渡してきました。あれ、これって、師匠の家ですね。じゃぁ、もしかして今回の依頼はこの双子ってことですか?
「ここなら私の家ですね。一緒に行きましょうか」
「いいの?」
「ありがとう、お姉さん!」
片方は遠慮がちに、もう片方は嬉しそうに答えました。子供特有の場の入り込み、といいますか、独特な距離感が懐かしいですね。
「私は、ミユナです」
「ワタシ、フルート!」
「ボクは、シィエルです」
黒髪の方がフルートちゃんで、白髪の方がシィエルちゃんですね。うんうん、覚えましたよ。
「それじゃ、いきましょうか」
「うん!」
フルートちゃんが元気よく笑顔で言いました。