“結末”
「原因が村長さん達じゃないってことですか?」
私は驚きが隠せません。なら、どうして師匠は嘘をついたのでしょうか。
「あ、そうだ。話は変わるがな。ミユナ、この竜がな、お前を認めたぞ。自身の最大威力のブレスを曲がりなりにも防ぎきってたからな。ほいっ」
話を逸らされた気がします。師匠から投げ渡されたのは、目の前の竜と同じ色の欠片でした。驚いたことに、それを持った瞬間、竜の感情がはっきり聞こえます。
『ミユナ嬢よ。お前が我のブレスを防ぎきった初めての人間だ。これは我と対等として認めねば、我の面目が立たぬ。我は、氷結と浄化の青竜 イシュフィードだ』
「え、ど、どうして、感情が聞こえるですか! これが、師匠の聞いてる世界なんですね! 凄いです! 初めまして、イシュフィードさん」
そう言えば、最初に名乗っていましたね。ブレスで返されましたけど。それにしても、すごいです。こんなに綺麗に感情が聞こえるなんて。
「ミユナ。その欠片はな。イシュフィードの鱗だ。竜が自ら砕いた鱗を持つ者は、その鱗を持つ竜と対話ができる。だが、俺は欠片が無くとも対話できるがな。ま、才能の差ってやつだ」
師匠が水を指してきます。むぅ、分かっていますよ。少しぐらい褒めてくれても良いじゃないですか……
『ミユナ嬢よ。竜が砕いた欠片を一つも持たずに朽ちる魔術師の方が多いと我は聞いている。故に、誇るといい。我が鱗を持つ者として』
イシュフィードさんの方が、よっぽど大人な感じですね。師匠とは大違いです。ふーんだ、明日から師匠の苦手な食べ物のオンパレードにしてやるもん。
「本題に戻るぞ。それでだ。イシュフィードが求めているのはゴミ掃除だ。それも、とびっきりのゴミ屑だ」
「それって……」
師匠がゴミ屑と言う時は、竜の密猟者が関わっています。竜は変化で人に変わることができます。その状態を狙って、拉致して術式をかけて竜に戻れなくしてから売る。
そんな、人と竜の関係を壊しかねない存在です。
『そうだ。ミユナ嬢よ。我が娘が、野蛮な害虫に浚われてしまったようなのだ。我ではもうどうしようもできない。苦渋の選択として主ら魔術師に来させたのだ』
そう言うことだったんですか。まったく、バカで運の悪い人達もいたものです。よりによって、師匠に目をつけられてしまったんですから。
「ちょっくら言ってくるから、少し待っててくれよ」
「ちょっと! 師匠、私も連れていって下さい!」
『我もだ。なぜ、お前に獲物をやらねばならぬ。我が止めを刺すのだ。横取りはやめてもらいたいぞ』
イシュフィードさんも同時に師匠を止めます。師匠がめんどくさい、って顔をしていますが今日と言う今日は引き下がりませんよ。この前も良い感じにあしらわれたんですから。
「俺一人の方が、圧倒的に早いんだけど……」
『効率の問題ではない。義理の話だ。野蛮な害虫を潰すのは我だ』
「分かった、分かった。ミユナは俺と一緒に行きたくて、イシュフィードは賊を潰したい。なら、イシュフィードそこで待ってろ。俺とミユナ。二人で速攻で全員を拉致って来るから。速く助けるに越したことはないだろ?」
「それなら良いです……」
『背に腹は変えられぬ。お願いする、魔術師』
むぅ、なんか違う気がしないでもないですが、これ以上ごねたら結果が悪くなりそうなのでここで妥協ですね。
「ミユナ、俺に捕まっていろよ? 離れたら探すのが、大変だからな。
俺は幽霊。魔導空間の守人なり。今、ここに顕現させるは、我が領域。ここに在り、ここに在らず。一時の夢幻で在り、現実でも在り。幽霊は望む場所へと姿を顕す」
ざぁっ、と力に飲み込まれる感覚がしました。ゾワゾワしてしまいます。でも、師匠の手を道標になんとか転移に成功しました。さすが、師匠です。
きっと、ここからは荒事になるでしょう。なのでここからが、私の力の見せ所ですね!
目を開くと、凄惨な場所でした。洞窟の中なのはかろうじて分かります。ですが、酷く血の匂いがしました。それも、強い匂いです。
「師匠、ここは……」
「あぁ、ミユナが戦っている時にな。村長とお話、したんだよ。そしたら、ここだけ妙に結界が張られていてな? ま、当たりだったて訳だ」
「さてさて、やりますか」
師匠が体を軽くほぐしてから、歩き始めました。何やら小さな話し声が聞こえてきます。複数の男の人と一人の女の人が話していますね。
「師匠、話し声が聞こえます。多分、男の人は六人、それと女の人の声が一人」
「あぁ、知っているよ」
「師匠?」
おかしいです。隣に居るのは師匠のはずです。でも、なんだか少しだけ違う気がします。師匠のようで、師匠じゃない。別人のような気がしてしまいました。
確認するように、師匠の顔を見ました。すると、師匠は笑っていました。そうです、笑っていたんです。少しだけ面白そうに。
「まったく、竜ってのはバカだなぁ。お前もつくづく、自分のバカさに呆れるだろ?」
「うるさいっ。アンタ達なんか、お母様が来れば一瞬なんだからっ!」
じゃらり、と金属と金属が擦れる音も聞こえ始めました。それに、声も普通に聞こえます。耳を澄ませる必要すらありません。
え、師匠。そのまま行くんですか? 私はまだ心の準備がっ。
「あぁ? なんだ、てめぇ」
親分みたいな人がナイフを持って、師匠に歩み寄って行きます。ですよね、知らない人に悪事の現場を見られたら目撃者を消すのが早いですもんね。
このままだと、師匠が危ない気がするのでナイフを奪いに師匠に駆け寄りましょう。いや、師匠の「俺は幽霊だ~」の下りが終わってから駆け寄りましょう。
「俺か? 俺は幽霊さ。お前らみたいな密猟者に殺された、哀れな哀れな子さ」
「あぁ? 意味が分からねぇこと言ってんじゃねぇっ!」
「師匠っ!」
師匠の決め言葉がいつもと違います! 少しだけそれに動揺してしまったじゃないですか! でも、師匠が危ないのでナイフを弾きに走り出します。
師匠のお腹にナイフが刺さる前に、私の蹴りが親分さんの手に当たりナイフは天井に突き刺さります。この前の劇で見た蹴りを真似して見ましたがなかなか当たるものですね。
「ちっ、ガキがぁ」
「師匠、どうするんですか?」
師匠を見て、ぞっとしました。これは、私の本能が危険だと、早く離れろと騒いでいます。このままだと、このままだと。
━━私も殺されてしまう、と。