“黄金果実”
「おはようございます。師匠」
目が覚めると、もう夕方でした。それに師匠も眠っています。
「凄い……」
周りを見て驚きます。それは師匠の張った結界です。私の使う『神華の大盾』と索敵系魔術を組み合わして、眠っています。意識を離していても暴走しないほどに、緻密に練られている証拠です。
後、師匠の寝顔を初めて見た気がします。いつも師匠の方が遅く眠って、それなのに早く起きるので。
どんな夢を見ているのでしょうか。とても、苦しそうな顔をしています。なんだか、私まで辛くなってきました。これは、何ででしょうか。
「師匠っ。起きてください。もう夕方ですよ」
「……っ。本当みたいだな。ミユナ」
直ぐに目を覚ましてくれました。もうそろそろ日が沈んで月が出てきそうですね。こんなにも眠っていたなんて、相当疲れていたみたいです。
「それじゃぁ、黄金果実を取りに行こうか」
パチンと結界が消えました。その音で二人も起きたみたいですね。でもなんだか、様子がおかしいです。
「いやだっ…………ごろっ……じぃだ………ぐぅ……なぃ……………」
「にげ……でぇっ! じゃなぁ……………どっ、ごろざ………」
「師匠っ」
「今、慌てた所で何も起こらない。ミユナ、戦闘準備。悪いが、躊躇うな。あれは今まで仲良くしていた友人ではない。敵だ。
辛いなら、目を背けて最後まで見るな。中途半端は止めろ。迷惑だ」
「師匠……」
冷たい、とも感じられる言葉でした。でも、師匠の顔もとても辛そうです。それに二人の顔も。だから、逃げません。何かにとりつかれたような二人を救います。
「逃げません。中途半端にもしません。私は師匠の隣に立って戦います」
「よく言ったな。なら手短に終わらせようか」
少しだけ嬉しそうに答えてくれました。ならば、二人を救うために戦います。せっかくできた友達に魔術を向けるのは嫌です。
でも、その友達が苦しんでいます。だから、だからこそ。絶対に助けたいんです。前は家族すら助けられず、ただ泣くだけの弱い存在でした。
だからここで、証明したいんです。私にはもう友達を救えるほどの力があるんだって。
「くふふふ。今日の獲物は二人だね」
「逃げても無駄だよ?」
二人の瞳が金色に染まりました。髪の色は、銀色へと変わりどちらがどちらか分からないです。
「黄金果実はもう目の前にまで迫っている」
「それじゃ、もしかしてっ!」
「あぁ。黄金果実はあの二人のことだ」
師匠がそう言うと、二人はニタリと笑いました。まるで正解だとでも言うようでした。なんだか不気味です。二人とは思えないですね。
「正解だよ。ワタシ達が黄金果実」
「正解のご褒美に、黄金果実を見せてから殺してあげる!」
二人が手を繋ぎながらそう言いました。本人がそう言ったので、そうなのでしょう。すると、灰色の繭のようなものに二人が包まれていきます。
そして、それが弾けた時にそこには灰色の竜がいました。胸元には金色の珠が値を這っているようにこびりついています。
「ミユナ、胸元のあれが黄金果実だ」
「師匠どうして、分かったんですか?」
「そりゃ、企業秘密だ。もう少し大人になったら教えてやるよ」
竜の叫びが聞こえました。すると、岩が槍のように飛んできます。刺されば死んでしまいそうなほどの大きなと鋭さです。
「それは華の盾。華弁は、風に舞い、天へと運ばれる。私は願う。全ての害意を防ぐ神代の華の盾がここに顕現することを《神華の大盾》」
早口で無理矢理、顕現させます。ギリギリの所で発動した神華の大盾は、岩の槍を防いでくれます。今、ここで暴走させる訳には行きません。師匠の手数を増やしてしまえば、負けてしまう可能性が高くなります。
「そのまま、発動させておいてくれよ?」
タンッと銀色の竜に向かって師匠は走っていきます。もちろん、岩の槍が飛んできますがそれは、私が大盾を動かして防いでいきます。
「疑似解放 地の鎖!」
今までに見たことの無い、魔術でした。魔術名だけで発動させる。魔術師としての、魔法使いとしての最高峰技術。その片鱗を見せつけています。
地面からはえてきた鎖は、銀竜をがらんじめにしました。ドンッと音がして地面へと結びつけられます。
「さてさて、大言壮語を吐いた割には弱いな? 銀竜さんよ」
『━━━━━━━━━━』
私には聞こえません。何と言っているのか。でも、銀竜が焦って、驚いているのは分かります。まさか、負けるとは思っていなかったのでしょう。
「ミユナ。お前が黄金果実を取ってやれ。俺じゃなくて、友人であるお前の方が効果的だからな」
「分かりました」
ゆっくりと黄金果実に触れました。普通の石のような質感で、金色であることを除けばそこら辺の石と変わりはありません。
そのまま引き抜くと、スポッと取れました。なんとも呆気なかったです。これで、依頼は達成でしょう。
「師匠、どうして黄金果実の場所が分かったんですか?」
「それはな。黄金果実といっても、それだけ力の強いモノならばオーラが見えるんだよ」
「オーラ、ですか?」
高度な魔術を、陰密なしで発動させた時のモヤみたいなやつですか。私にはそんなもの見えませんが……
「魔術をある到達点に至ると見えてくるさ」
「それで、師匠には見えたんですか」
さすが師匠ですね。そんな頂きにまでたどり着いているなんて。
また銀竜を繭が包み込んで、双子に戻りました。今度は銀色の髪ではなく、黒と白のいつもの髪でした。そんな二人を師匠は抱き上げると、私に言いました。
「それじゃぁ、宿に戻るぞ?」
「はい、そうですね。二人の事が気になりますしね。それと、この事は……」
「分かっているさ。秘密だ……誰も知らないことは、無かったことと同じだからな」
そう言って宿に戻っていきました。さて、二人の意識は戻るのでしょうか……少しだけ不安です。また、最期まで助けられなかったのではないか、と思うと。




