“遊び”
「ミユナ~、起きろ~。朝だぞ~」
「んぁ。師匠ぉ~。後五分だけぇ」
「そんな事、言ってたら尻尾をモフるぞ」
朝ですか。って、尻尾にものすごい違和感が……し、師匠?! どうして、私の布団に手を突っ込んで尻尾をモフモフしているんですかっ。
「師匠っ。何でいつも言っていますけどっ。私の尻尾をモフるのは止めて下さい!」
「ちゃんと、言ってだろ? 起きないならモフるって」
そうなんですけど……何だか釈然としませんね。それに毎回、言っていますが獣人の尻尾や耳は家族にしか触らせない場所ですよ。そこを堂々と触るのはどうかと思います。
他人が触れるとしたら、プロポーズの時ぐらいですよ。まったく。
「そう怒るな、怒るな。ほら、朝だからちゃんと準備してから降りてこいよ?」
「はぁい」
そう言うと部屋から出ていきました。下の部屋で待っておくのでしょうか。別にここに居ても構わないのですがね。ま、良いでしょう。今日もまた、尻尾をブラッシングして服を着替えてから降りていきます。
フルートちゃん、シィエルちゃん。どちらも師匠と一緒に待っていました。私が最後だったみたいですね。なんか負けた気がします。朝は苦手なんですよね。
「おはよう! ミユナのお姉ちゃん!」
「おはようございます。シィエルちゃん、フルートちゃん」
何か注文しておいてくれたのでしょう。私が座ってから直ぐに朝食が運ばれてきました。この宿、良いですね。一階がレストランで二階が宿屋なので便利です。
朝だからでしょうか。パンと季節の野菜スープとサラダでした。どれもこれも新鮮で、美味しかったです。なんというか、田舎~って感じの朝食でした。
「さて、夜まで暇だな。何か面白い遊びでもあればいいんだがな」
「あのね、ボク、川に行きたいな。大人の人が居れば川に入っていいんだって!」
シィエルちゃんがそう言いました。川遊びですか。確かに私もしたこと無いですね。どんなものなのか気になります。キラキラした目で、師匠を見ます。
「よし、じゃぁ。行くか」
「珍しいです……あのインドアな師匠が川遊びという外にずっと出ていないといけないハズの遊びに付き合ってくれるなんて……」
二人とも歓声を上げています。普通なら注意するべきでしょう。ですが、周りには誰も居ないので大丈夫でしょう。それと、私は驚きを隠せません。あのヒキコモリ師匠が、外遊びをしようと言うなんて。
あ、もしかして。この師匠がニセモノって可能性もありますね。
「師匠、本当に師匠ですか? 誰かが師匠のように演じている、なんてことは無いですよね?」
「ひっでぇ言い草だな。ミユナ。まぁ、俺の日頃の行いのせいだろうが。ま、俺は本物だろうよ。それに、ミユナが一番分かるんじゃねぇのか?
俺が本物かどうか。それは、お前の判断に任せるさ」
あ、本物ですね。なんとなくですが、わかりました。この話し方、言葉選び、仕草。師匠じゃないと出来ないことだらけですね。
※※※
「冷たいですけど、楽しいですよ! 師匠!」
「そうか、気を付けて遊べよ? 滑るからな」
日に照らされて体は火照っています。でもその火照りを、川の水が冷やしてくれます。水を二人と掛け合って、とても楽しいです。ビシャビシャになってしまいましたが。
尻尾も水を吸って、いつものフサフサさは無くなり細くしっとりとなっています。この状態は少し気持ち悪いですが、川遊びの楽しさを上回ることはないですね。
私達は、朝食を食べて直ぐに川へと向かいました。あ、朝食を食べたいレストランで昼食のサンドイッチを買ってから行きました。その後は、服のままで川に入って遊んでいます。師匠は近くの木陰で見守ってくれていますね。
体に張り付いた服の感覚は、割りと初めてな気がします。雨が降っても、事務所についてから直ぐに魔術で師匠が乾かしてくれますし。
「ほら、師匠も! 楽しいですよっ!」
「うぉっ。止めろっ」
「ボクもっ!」
「ワタシだって!」
私が師匠に向かって水を掛けました。普通なら水が届かない位置にいます。でも、獣人の筋力を最大にまで生かせば師匠まで濡らすことだって可能なのです。
「疑似展開 水竜の咆哮・弱」
「うわっ!」
師匠。それはズルいですよ。だって、魔術を使って私に水をかけてくるなんて。あ、ついでに二人もやられています。
「ズルいですよ! 師匠」
「そうだ、そうだ!」
「ったく。ほら、もうそろそろ昼だぞ。上がってこい」
どうやらあれで最後みたいですね。久しぶりにはしゃいでしまいました。師匠に言われて川から上がってきます。
少し寒くなってきましたね。遊んでいるときは気にならなかったのに。あ、シィエルちゃんがくしゃみしました。
「三属を扱い、彼の者を乾かせ」
師匠の短い詠唱によって、私は乾きました。二人も乾かされたみたいですね。ほぼ、無詠唱に近い詠唱省略でここまで出きる師匠はさすがです。
「楽しかったか?」
「はい、とても楽しかったです。師匠」
「そうか。なら良かった」
そう言いながらサンドイッチの入った籠を私達の目の前に起きました。これからお昼ですね。
「それじゃ、食べるとするか」
「はい。師匠!」
「食べよう! 食べよう!」
「ここのサンドイッチは美味しいの」
確かにここのサンドイッチは、美味しかったです。パンと卵や野菜の調和が取れていました。どうしてこんなに美味しいのでしょうね。これぐらいなら、私も作れそうなのですが。
やっぱり秘伝のレシピなのでしょうか?
「ごちそうさまでした。なんだか、眠くなってきましたね」
「あんだけ動けば眠くなるだろうよ。少し寝てろ、起きてから遊べばいいだろう?」
シィエルちゃん、フルートちゃんもウトウトしていました。ポカポカの日差しに、川の近くだからなのか少し涼しい風。風に吹かれて音をたてる木の葉。だから、眠くなってしまいます。
「では師匠。お言葉に甘えておやすみなさい」
シィエルちゃん達はもう、眠っていました。余程、疲れてしまったのでしょうね。私も原っぱに横になると直ぐに眠ってしまいました。




