悪夢。
リヒト視点
「こんなはずじゃぁぁ!こんなつもりじゃなかった!!」
喉が枯れるんじゃないか?と思うほど、俺は泣き叫ぶ。腕には、息も絶え絶えな黒髪の美女。
「これでいいのよ・・・」
綺麗な白い手が、力無く俺の頬に優しく触れる。血の気の引いた白い手。その手に、あいている自分の手を重ねる。
「これしか方法はないのよ・・・。ごめんね・・・」
紅い瞳が俺を見つめる。
「俺を置いて行くな!お願いだから!!俺を・・・置いて一人で・・・逝かないでくれ・・・うぅっ」
涙が止まらない。
「泣かないで・・・きっと・・・また会える・・・から」
サラサラと、砂がこぼれる様に、俺の指からこぼれていく君。
「またね・・・リヒト・・・」
嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!!!
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
「うわぁっ!びっくりした!」
目を開けると、俺を覗きこむ紅い瞳。風に揺れる綺麗な黒髪。
驚いた顔をしているな。
周りを見渡す。
村の外れの木陰・・・。あぁ、そういえば、ローゼが村に情報を聞くとかで、俺は暇だからここで休んでいたのだったかな。
それにしても、嫌な夢を見た。胸が苦しい。
きっと昨日、名前を呼ばれたからだ。
「何か収穫はあったか?」
「特に何も。やっぱり王都とかの大きな街に行かないといけないな」
「だろうな」
ローゼが見つめてくる。
そんなに見つめられると、居心地が少し悪い。
「顔色が悪いぞ?大丈夫か??」
多分あの夢を見たせいだろうな。
まぁ大丈夫だろうが、それでも残された時間は少なくなってきている・・・か。
酷い運命だ・・・・。
「大丈夫だ。問題ない」
まだ、これは言う必要はないな。もう少しだけ・・・このままで。
「そっか。それなら行こう。この先の宿屋をとっておいたから」
「同じ部屋か?」
「別々に決まってるだろ!ほら、早く立て」
喧嘩腰に寝転んでいる俺に、手を差し出してくる。その手を掴むのに、少しだけ戸惑う。
「早く行くぞ!」
ローゼの小さな手が、戸惑う俺を引っ張り起こす。
その暖かさが、泣きそうになる。
君にやっと、会えた。