僕は勇者でした。
ゴロゴロゴロゴロ。
雷が鳴り、おどろおどろしい空。
そんな背景とミスマッチな人物が、僕の目の前にいる。
その容姿、輝くほどにまぶしい金の絹のような髪。肌は白くきめ細かい。瞳はルビーの様な赤い色。背が高く、スラリとしたモデルのような体型。
「勇者・・・か?」
低いが、聞き取りやすい艶のある声。その一言だけでも、村のお姉様達は腰が砕けた模様。
まるで天使の様な・・・・
「ここここここここの者が、勇者でございます!魔王様!」
魔王でした。
そして、僕は村長に売られたよ。
村長グイグイと僕を魔王の方へと押す。
「ちょっ!押さないで!てか、勇者って何?!初耳だし!!」
僕は16年前、この村長に拾われたらしい。
容姿も普通・力も普通・特殊能力無し、普通の村人として育ててくれた。
だからいきなり、『勇者』と言われても困る。
「お前は、我を倒す勇者だ。我がその者に赤子のお前を預けて、育てるように命じた」
「何で、お前を倒す僕を育てるように命じるんだ?!普通、赤子のうちに殺すだろ?」
「殺せばよかったか?」
「殺されたくないよ!」
「では問題なかろう」
「殺さないでくれてありがとね!」
訳がわからない!
「さぁ、勇者よ!我を倒すのだ!」
何で、あいつは両手を広げて、ウェルカムしてるんだよ。倒されたいのか?
だがしかし、僕は武器を扱った事がない。
村の外には滅多に出ない。出て魔物に遭遇しても、戦わずに走って逃げる。
そんな僕に魔王を倒せと?死亡する未来しか見えない。
「武器無いし、戦えないし、倒せない」
ボクと魔王、向かい合ったまましばらく沈黙。
村長はいつの間にか、僕の後ろにある家の壁に隠れながら様子を見ている。
未練がましく残ったわずかな産毛をもむしりとってやろうか。
「武器がないのか。ではコレを使うといい」
魔王は、ぽいっと僕に剣を投げてよこした。
綺麗な装飾が施された柄に、宝石がちりばめられている鞘。豪華な細身の剣だ。コレなら僕でも扱えそう。
て言うか、
「何で、敵に武器を贈るんだよ!」
「我は魔王だ。勇者に倒されなくてはならない」
「僕じゃなくてもいいだろ?」
「お前・・・ローゼじゃないと意味がない」
「何で僕の名前知ってるんだよ!」
「我があの者にお前を預けたのだ。我が名付けた」
「魔王が名付け親な勇者なんて、どこにいるんだよ!」
「目の前にいるが?」
「そーだよね!」
魔王とは、恐ろしい者ではなかったのだろうか?魔王の印象が、ガラガラと、音を立てて崩れていく。
「ではローゼよ。我を倒すために強くなる旅に出ろ」
「何でだよ!ってか、何で僕が勇者なんだよ!」
「一目見た時から、我には分かった。ローゼは勇者だ。我は最果ての古城に住んでおる。強くなって倒しにこい」
そう言ってから、魔王の背中から羽が生え、暗雲な空へと飛んで行った。
ポンと、僕の肩に誰かが手をおいた。
振り返ると、満面の笑みの村長&村人達。
「頑張れ、勇者様」
少しばかりの餞別を渡され、僕は旅立ちという名の、村から追い出しをくらった。
疑問と不安しかない。
どうなるんだろう、僕の人生。
ローゼは旅に出た。
ローゼ
職業:勇者
種族:人間