初めての晩餐会
俺はエリックさんと離れ、ミシェルに客間に案内されたが誰もいなかった。
テーブルに紅茶とお菓子が残っているだけである。
「みんなどこに行ったんだ? 姫さんと喧嘩してないと良いが……」
「その心配はない。たぶん雅様達は、あそこにいるだろう。私が見てくる。海彦はココで休んでくれ。あとで、女中に会場まで案内させる」
「分かった。晩餐会まではジッとしてる。しかし、俺はパーティなんぞ行ったことがないから、マナーなんか知らんぞ? いいのかミシェル?」
「問題ない。これは海彦の歓迎会なのだから」
「俺は偉くもないんだがな……」
「謙遜するな、少なくとも私は感謝してるぞ。またあとでな海彦」
「ああ」
ミシェルは笑いながら、そそくさと部屋から出て行った。
一人残された俺は、残っていたポテトチップスとチョコレートを食べる。
「美味い……食い物も日本と変わりなくなってきたな、やれやれ」
あまり食いすぎてはマズイと思うが、どうにも手が止まらず食うのをやめられない。
あちこち歩いたせいで、小腹が減っていた。
結局残っていた菓子を全部食ってしまったが、量が少なかったので満腹にならずにはすんだ。
そこにメイドさんがやってくる。
「勇者様お待たせしました。会場に御案内いたします」
「あ、はい! よろしく」
俺はメイドさんの、後についていく。
荘厳な両扉の前にくると、メイドさん達が開けてくれた。
大部屋の中は思った以上に明るい。天井には大きなシャンデリアがある。
蝋燭は使っておらず、おそらく魔法による光だろう。
二列あるテーブルには、真っ白なテーブルクロスがかけられ、料理が並べてあり湯気が立っている。
花瓶に飾られている花も綺麗だった。
会場を見ているうちに俺は、クルーザーに戻りたくなる。
「……貧乏人の俺には、場違いな空間なんだよなー」
「海彦殿、こっちに来てくれ」
先に座っていたエリックさんに呼ばれて、俺は上座に向かい勧められるまま、椅子に座るしかなかった。
主賓で招かれたからには、パーティをいまさら辞退する訳にもいかない。
居心地の悪さを察してくれたのか、エリックさんが俺の肩をポンポンと叩く。
どうも気安いが、王様なのに偉ぶらないのは好感がもてる。
「なーに、飯を食って酒を飲んでくれりゃーいい。今宵は要人をもてなす、親睦会でもあるんじゃよ」
「あ、そうか! フローラ達は部族の代表なわけですね?」
「そうそう、亜人達とは仲良くしておきたいからのー。雅の出迎えがひどかったから、詫びねばならん。娘はじゃじゃ馬で、本当に困ったものだ」
「なるほど……て、あいつら何時まで何してるんだ?」
「まあまあ、女は支度に時間がかかるものじゃよ。もうそろそろ来る頃じゃろ」
そうエリックさんが言って間もなくすると、部屋の両扉が開け放たれた。
「なっ!」
振り返った俺は思わず立ち上がり、口を開けて固まってしまう。
雅を筆頭に会場内に女達が入ってくる。驚いたのはその格好だ。
全員、絹のドレスを身に纏い、煌めいていた。
衣装も様々でそれぞれの体型に合わせてある。色も赤・青・黄・紫・白・黒で多彩だ。
女達は化粧をしており、別人かと俺は見まがうほどだった。
えーと、どこの女優さん?
ああ、「女は化ける」とはこのことか……。
固まっている俺を他所に、フローラ達はエリックさんに挨拶と御礼を述べている。
族長の娘達は堂々としたものだった。
ボーッとしていた俺は、エリックさんに肘で突かれて正気に戻る。
はっ! いつのまにか目の前にはフローラがいた。
ここで世辞を言うのはマナーだが、俺は思わず本音で言う。
「うん、綺麗だ」
「見直した?」
「ま、まあな」
「よし!」
フローラは嬉しそうにしながら自分の席につく。他の女性達も俺に褒められて、喜んでいた。
俺も空気を読める男になったな、うん。
と格好をつけてみたものの、胸のドキドキが収まらず、着飾った女達に見惚れていた。
……やばいな。




