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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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女達の話し合い

「晩餐会にはまだ時間がありますので、それまで皆様とお話したいと思います。海彦様のことをお聞かせ願えませんか? 私は何でも知りたいのです」


「……まあ、いいわ」


「そうねん」


 雅が威張りくさっていたら、教えたりはしなかっただろう。

 下手にでられたからには、無下むげにするわけにもいかない。

 フローラは海彦との出会いから、これまでの事をかいつまんで話した。


 思い出話のはずが、いつのまにか海彦の自慢話になっているのに、フローラは気づかなかった。

 リンダやハイドラも海彦を褒め称え、雅は感心しながら聞いていた。


 ただ不満も口にする。


「……やはり、海彦様はすばらしい殿方ですね。ミシェルからも聞きましたが、どんなに危険な場所でも、人を助けるためなら飛び込んでいくそうですね?」


「命しらずなだけよ。見てるコッチはハラハラさせられるわ! 死んだらどうすんのよ!」

「お兄ちゃんは、本当に困った人なの」


「海彦は人を助ける仕事をしてたからねー……」

「らいふせいばー、だったわねん」


 惚れてる女達からすれば、海彦のことが心配でしかたない。

 ちょっと目を離すと、後先考えずに突っ走ってしまうのだ。


「……そうですか。ところで、私は馬車の中で海彦様を誘ってみたのですが……」


「オイ、コラッ!!」


「すげなくされて、相手にされませんでした。何故なぜなんでしょう? それなりに顔や体にも自信があったのでショックでしたわ……皆さんはどうなんです?」


「あたいらも何度も迫ってるけど、手は出してこないよ」


「ま、まさか! 男色家なんですか!?」


「ぶっ! ハイドラじゃあるまいし同性愛者じゃないわよ。それは間違いないわ!」


「フローラひどいわん。私は両性愛者よん!」


 エルフ二人は、どうでも良いことでしばらく騒ぐ。

 少し落ち着いてから、ロリエが言った。


「海彦お兄ちゃんはね、故郷の日本に帰りたがっているの。だから私達と関係を持ってしまったら、帰れなくなるから我慢してるの」


「真面目な男だからねー。前に聞いたら、『女に手をだしたら責任を取るのは当たり前!』と言ってるし、かなり頑固だよ」


「私は遊びでもいいんだけどねー、でも種付けはして欲しいわん」


「だからハイドラは、海彦から避けられるのよ」


「……なるほど、よく分かりました。海彦様の心はヘスペリスにはないわけですね。しかし困りました。私はココに残っていただきたいです。好きだから……大好きだから!」


「……あんた以外に正直ね。なかなか口に出して言えるもんじゃないわ」


「いえ、私は『海彦様をとる』と宣言しただけですわ。おほほほほほ!」


「負けないわよ!」

「はい」


 この場にいる女達は笑う。女の意地とプライドをかけた勝負なのだ。

 雅もライバルとして認められたと言って良い。


「なら、もう隠し事はなしね。みんなにも知ってほしいことがあるわ」


「何でしょう?」


「……とっくにヘカテーの湖は浄化されて、オドの力は戻っているわ」


「それって!」


「私が霊道アウラを開けば、海彦は明日にでも日本に帰ることができる……でも帰したくない! 帰ってほしくないのよ! 私だって海彦のことが好きなんだからー!」


「なっ!?」


「…………」


 涙を流すフローラを、四人は代わる代わる慰める。

 好きな男に悲しい嘘をついており、悩んでいた。


 フローラは一人で秘密を抱え込んでいたがもう限界、皆に苦しい胸の内を明かす。


 聞いた女達も驚く以上に困り果てる。言うべきか? 言わざるべきか?


 しかし、海彦がこれを知ったならばヘスペリスからは去ってしまうだろう。


 とても自分の口からは絶対に言えない。ならば――


「……でしたら、黙っていましょう。何とかヘスペリスに残っていただけるように、海彦様を引き留めるしかありません。どんな手を使っても……皆様よろしい?」


「うん」


「これで全員が共犯者ねん。フローラだけが悪者じゃないわ」


 雅の提案に皆がうなずいて賛同する。この秘密はずっと守られることになった。

決まったところで雅はパン、と手をたたく。


「さて辛気くさいお話はここまでにして、気分を変えましょう。晩餐会の前にそろそろ準備しませんと。皆様ついてきてください」


「何をするの?」


「それは、ついてからのお楽しみで。おほほほほほ!」


 女達は雅について行き、ある部屋へと入った。


 ◇◆◇◆

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