女達の話し合い
「晩餐会にはまだ時間がありますので、それまで皆様とお話したいと思います。海彦様のことをお聞かせ願えませんか? 私は何でも知りたいのです」
「……まあ、いいわ」
「そうねん」
雅が威張りくさっていたら、教えたりはしなかっただろう。
下手にでられたからには、無下にするわけにもいかない。
フローラは海彦との出会いから、これまでの事をかいつまんで話した。
思い出話のはずが、いつのまにか海彦の自慢話になっているのに、フローラは気づかなかった。
リンダやハイドラも海彦を褒め称え、雅は感心しながら聞いていた。
ただ不満も口にする。
「……やはり、海彦様はすばらしい殿方ですね。ミシェルからも聞きましたが、どんなに危険な場所でも、人を助けるためなら飛び込んでいくそうですね?」
「命しらずなだけよ。見てるコッチはハラハラさせられるわ! 死んだらどうすんのよ!」
「お兄ちゃんは、本当に困った人なの」
「海彦は人を助ける仕事をしてたからねー……」
「らいふせいばー、だったわねん」
惚れてる女達からすれば、海彦のことが心配でしかたない。
ちょっと目を離すと、後先考えずに突っ走ってしまうのだ。
「……そうですか。ところで、私は馬車の中で海彦様を誘ってみたのですが……」
「オイ、コラッ!!」
「すげなくされて、相手にされませんでした。何故なんでしょう? それなりに顔や体にも自信があったのでショックでしたわ……皆さんはどうなんです?」
「あたいらも何度も迫ってるけど、手は出してこないよ」
「ま、まさか! 男色家なんですか!?」
「ぶっ! ハイドラじゃあるまいし同性愛者じゃないわよ。それは間違いないわ!」
「フローラひどいわん。私は両性愛者よん!」
エルフ二人は、どうでも良いことでしばらく騒ぐ。
少し落ち着いてから、ロリエが言った。
「海彦お兄ちゃんはね、故郷の日本に帰りたがっているの。だから私達と関係を持ってしまったら、帰れなくなるから我慢してるの」
「真面目な男だからねー。前に聞いたら、『女に手をだしたら責任を取るのは当たり前!』と言ってるし、かなり頑固だよ」
「私は遊びでもいいんだけどねー、でも種付けはして欲しいわん」
「だからハイドラは、海彦から避けられるのよ」
「……なるほど、よく分かりました。海彦様の心はヘスペリスにはないわけですね。しかし困りました。私はココに残っていただきたいです。好きだから……大好きだから!」
「……あんた以外に正直ね。なかなか口に出して言えるもんじゃないわ」
「いえ、私は『海彦様をとる』と宣言しただけですわ。おほほほほほ!」
「負けないわよ!」
「はい」
この場にいる女達は笑う。女の意地とプライドをかけた勝負なのだ。
雅もライバルとして認められたと言って良い。
「なら、もう隠し事はなしね。みんなにも知ってほしいことがあるわ」
「何でしょう?」
「……とっくにヘカテーの湖は浄化されて、オドの力は戻っているわ」
「それって!」
「私が霊道を開けば、海彦は明日にでも日本に帰ることができる……でも帰したくない! 帰ってほしくないのよ! 私だって海彦のことが好きなんだからー!」
「なっ!?」
「…………」
涙を流すフローラを、四人は代わる代わる慰める。
好きな男に悲しい嘘をついており、悩んでいた。
フローラは一人で秘密を抱え込んでいたがもう限界、皆に苦しい胸の内を明かす。
聞いた女達も驚く以上に困り果てる。言うべきか? 言わざるべきか?
しかし、海彦がこれを知ったならばヘスペリスからは去ってしまうだろう。
とても自分の口からは絶対に言えない。ならば――
「……でしたら、黙っていましょう。何とかヘスペリスに残っていただけるように、海彦様を引き留めるしかありません。どんな手を使っても……皆様よろしい?」
「うん」
「これで全員が共犯者ねん。フローラだけが悪者じゃないわ」
雅の提案に皆がうなずいて賛同する。この秘密はずっと守られることになった。
決まったところで雅はパン、と手をたたく。
「さて辛気くさいお話はここまでにして、気分を変えましょう。晩餐会の前にそろそろ準備しませんと。皆様ついてきてください」
「何をするの?」
「それは、ついてからのお楽しみで。おほほほほほ!」
女達は雅について行き、ある部屋へと入った。
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