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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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婚約者なんて知らない

「ぶるるるる! 何やら悪寒がしたが、気のせいか? ここは気温は高いのにな。それよりも……」


 俺はこの状況に頭を抱えていた。


 ダークグリーンの瞳をしたみやびは、化粧が薄い素美人である。

 ケバいアイドルより、かなり綺麗に見えた。

 黒目ではないので恐らく東洋系ハーフなのだろう。


 うーん、その目には見覚えがあるんだが……誰だっけ?

 雅は俺を見ながらニッコリ微笑んでいた。


 それとは裏腹に、亜人の女達は眉を吊り上げて怒っている。

 一番大人しいロリエでさえ、ふくれっ面になっていた。

 雅が俺の婚約者などと、名乗ったからである。


 もちろん俺は知らない話だし、寝耳に水でお姫様とは初対面だ。


 俺に気のある……いや体を求めている女達からすれば、いきなり割り込んでこられたら、面白くもないのだろう。


 今までモテたことなどなかったが、ヘスペリスでは次から次と女が現れてくる。

 モテ期というより、俺は女難にしか思えない。ああ、頭いてえー!


 険悪な雰囲気の中、ミシェルがしゃべる。

 王女様の発言に困った顔をしていたが、この場を収めようとしてくれたので助かる。


「ゴホン、雅様。海……勇者殿も着いたばかりでお疲れでしょうから、まずは城に御案内いたしましょう」


「そうですわね、ミシェル。勇者様にお会いした感激で、すっかり見とれてましたわ。いけませんねー私。それでは側妻・・の皆様もどうぞこちらへ」


「誰がめかけだー!」


 雅はさらに燃料を投下する。勘弁してくれえー!


 フローラ達は激オコぷんぷん丸である。


 どう見ても悪びれた様子がないので、天然なのだろう。

 いや、王女なので世間知らずなだけか? 穂織に近いのかもしれない。


 ただ、これ以上喧嘩にはならなかった。

 雅はフローラ達を無視して、俺の手を強引に引っ張っていったからだ。

 その先にあるのは馬車だ。人間の女でもかなり力が強く、男の俺でも抵抗できない。


 こ、こいつ!


「あっ! こら!」


 フローラ達が追いかけてくるが、親衛隊に阻まれて近づけない。

 俺は馬車に押し込まれるように乗せられ、後から雅とミシェルが乗り込んできた。


「出発!」


 御者が鞭を振るうと馬が走り出し、パカパカとひづめの音が鳴る。

 天蓋てんがいのある箱馬車で、装飾もされており内装もかなり立派だ。


 振り返って後ろの小窓をのぞくと、ブーブー文句をたれてるフローラの声が聞こえてきた。

 ほろもない荷馬車に四人は乗せられており、待遇があからさまに違う。

 どう言いつくろっても、差別してるようだった。


 女の争いKOEEEEー!

 

 俺は落ち着かない中、今度はドア窓から街を見てみると、大通りには人だかりができていた。

 人々は笑顔で手を振り叫んでいる。


「万歳! 万歳! アルザス万歳!」


「王女様おめでとう!」


 ちょっと待て! 何を祝ってるんだー!

 雅は外に顔を出して、にこやかな笑顔で手を振っている。

 この状況に答えてくれるとすればミシェルだけだが、言いづらそうにしていた。


 それでも俺は知りたかったので問うと、観念かんねんしたようだ。


「これはパレードなのか?」

「そんな予定はなかったのだが……民衆にはある噂が広まっていてな……」


「それは?」

「……『勇者が婿にくる!』という話だ」


「ぶっ!」


「それで本日、雅様が海彦を直接出迎えられてしまったので、これは『婚約者のお披露目』ということになってしまったのだ。民達の反応はあっと言う間で、我が王が正式に声明を出したわけではない」


 ミシェルから事情を聞いて、俺は頭を抱える。

 あのね、俺は日本に帰るから婿にはなれん! 童貞もやらん! ……くどいようだけど。


 他に男はいねえーのか? 身分はともかく二枚目だったらエルフがいるだろう?

 初めて会った俺を選ぶ理由が全くわからない。


 とにかく姫さんときっちり話をつけようと、俺は声をかけたのだが……。

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