婚約者なんて知らない
「ぶるるるる! 何やら悪寒がしたが、気のせいか? ここは気温は高いのにな。それよりも……」
俺はこの状況に頭を抱えていた。
ダークグリーンの瞳をした雅は、化粧が薄い素美人である。
ケバいアイドルより、かなり綺麗に見えた。
黒目ではないので恐らく東洋系ハーフなのだろう。
うーん、その目には見覚えがあるんだが……誰だっけ?
雅は俺を見ながらニッコリ微笑んでいた。
それとは裏腹に、亜人の女達は眉を吊り上げて怒っている。
一番大人しいロリエでさえ、ふくれっ面になっていた。
雅が俺の婚約者などと、名乗ったからである。
もちろん俺は知らない話だし、寝耳に水でお姫様とは初対面だ。
俺に気のある……いや体を求めている女達からすれば、いきなり割り込んでこられたら、面白くもないのだろう。
今までモテたことなどなかったが、ヘスペリスでは次から次と女が現れてくる。
モテ期というより、俺は女難にしか思えない。ああ、頭いてえー!
険悪な雰囲気の中、ミシェルが喋る。
王女様の発言に困った顔をしていたが、この場を収めようとしてくれたので助かる。
「ゴホン、雅様。海……勇者殿も着いたばかりでお疲れでしょうから、まずは城に御案内いたしましょう」
「そうですわね、ミシェル。勇者様にお会いした感激で、すっかり見とれてましたわ。いけませんねー私。それでは側妻の皆様もどうぞこちらへ」
「誰が妾だー!」
雅はさらに燃料を投下する。勘弁してくれえー!
フローラ達は激オコぷんぷん丸である。
どう見ても悪びれた様子がないので、天然なのだろう。
いや、王女なので世間知らずなだけか? 穂織に近いのかもしれない。
ただ、これ以上喧嘩にはならなかった。
雅はフローラ達を無視して、俺の手を強引に引っ張っていったからだ。
その先にあるのは馬車だ。人間の女でもかなり力が強く、男の俺でも抵抗できない。
こ、こいつ!
「あっ! こら!」
フローラ達が追いかけてくるが、親衛隊に阻まれて近づけない。
俺は馬車に押し込まれるように乗せられ、後から雅とミシェルが乗り込んできた。
「出発!」
御者が鞭を振るうと馬が走り出し、パカパカと蹄の音が鳴る。
天蓋のある箱馬車で、装飾もされており内装もかなり立派だ。
振り返って後ろの小窓を覗くと、ブーブー文句をたれてるフローラの声が聞こえてきた。
幌もない荷馬車に四人は乗せられており、待遇があからさまに違う。
どう言いつくろっても、差別してるようだった。
女の争いKOEEEEー!
俺は落ち着かない中、今度はドア窓から街を見てみると、大通りには人だかりができていた。
人々は笑顔で手を振り叫んでいる。
「万歳! 万歳! アルザス万歳!」
「王女様おめでとう!」
ちょっと待て! 何を祝ってるんだー!
雅は外に顔を出して、和やかな笑顔で手を振っている。
この状況に答えてくれるとすればミシェルだけだが、言いづらそうにしていた。
それでも俺は知りたかったので問うと、観念したようだ。
「これはパレードなのか?」
「そんな予定はなかったのだが……民衆にはある噂が広まっていてな……」
「それは?」
「……『勇者が婿にくる!』という話だ」
「ぶっ!」
「それで本日、雅様が海彦を直接出迎えられてしまったので、これは『婚約者のお披露目』ということになってしまったのだ。民達の反応はあっと言う間で、我が王が正式に声明を出したわけではない」
ミシェルから事情を聞いて、俺は頭を抱える。
あのね、俺は日本に帰るから婿にはなれん! 童貞もやらん! ……くどいようだけど。
他に男はいねえーのか? 身分はともかく二枚目だったらエルフがいるだろう?
初めて会った俺を選ぶ理由が全くわからない。
とにかく姫さんときっちり話をつけようと、俺は声をかけたのだが……。




