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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅

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船旅は楽しい

「わざわざ、ありがとうございます……て、手紙が読めん。フローラ頼む」


「……ようは人間の国への招待状よ。丁寧に書いてあるだけで、他は特にないわ、本当よ……」


 そう言ったフローラを俺は疑った。どうもコイツは嘘をつくとき目線をそらす癖がある。

 ハイドラも手紙を見て、ニヤニヤしているだけだった。


 俺は後で知ったが、「娘を紹介するのでよろしく」という文言が手紙に書いてあったのだ。

 この時の俺は知りようもなく、後でもめ事になる。


「分かりました。明日にはセレネ湖に向けて出航するので、恐らく二、三日で国に到着すると思います。王様によろしくお伝えください」


「了解しました。では直ちに!」


「気をつけて」


 俺はハンスさんを見送り、旅の準備をする。のんきに構えるつもりはない。

 時は金なり、即断・即決・即行動である。

 食料や荷物をクルーザーに積み込んでいる内に、夕方になっていた。


 夜にはみんなが集まって、壮行会が宿泊所で開かれることになった。

 エンジン開発の成功と、旅の安全を祈願しての宴会だ。


 なんやかんや理屈をつけても、大勢でビールを飲みたいだけかもしれない。

 族長達は娘と離れるのは嫌そうだったが、止めようもないのだろう。


 もう大人になった以上、いつまでも束縛そくばくすることはできないし、旅を反対しようものなら恨まれる。

 それは親にとっては辛い。


「海彦殿、娘達をよろしく頼む」


「分かりました。頑張ります」


 男親達は俺に頼むしかなかった。ただ、娘の身を案じたのではない。

 俺は何だか新婚旅行ハネムーンに行くような気分にさせられていた。

 ヘスペリスに夫婦で旅に出る風習はないが、娘を俺にあずけて子作りをさせようという魂胆だ。


 嫁にもらったわけじゃない!


 ……それから数時間後、宴会に終わりがなかった。空のビール瓶が山となる。


 うわばみどもめー!


「いい加減、お前ら寝ろ――――!」


 俺が喚いても無駄である。どうも亜人達は、イベント前日に騒ぎたがるようだ。

 前夜祭の方が楽しいのだろう。五月蠅いので俺はクルーザーで寝ることにした。

 


 次の日の早朝、酔いつぶれた父親達は寝ており、母親達が見送りにきてくれた。

 フローラ達は、手を振って叫ぶ。


「いってきまーす!」


 こうしてクルーザーは出航した。それから十数分後……。


「あー! 行ってしもうたー! 海彦ー! カムバックー!」


 走ってきたドリスは間に合わなかった。

 旅に出ることはドワーフを通じて知っていたので、一緒についてくるつもりだったらしい。

 俺とは人間の国で合流することになる。


 外にいた俺は操舵室に戻り、適当に作った地図で場所を確認する。

 ダークエルフの村がヘカテー湖の北東にあり、そこから南に行くとエルフの村がある。

 人間の国は更に南方で、セレネ湖もそこにあるようだ。


 まずは、湖と湖をつないでいる水路へと向かうことにした。


 旅は順調でエンジンの調子もいい。夜になればクルーザーを止めて錨をおろす。

 湖に障害物がなくても、暗い中を進むのは危険だ。無理な旅はしない。

 飯を食ったら風呂に入り、室内ゲームで女達と遊ぶ。


 トランプ・ボードゲーム・テレビゲームなどだ。

 力勝負では負けるが運の要素があれば、俺も勝つことができた。やった!


「もう一勝負よ!」


 ただ、俺が負けないうちは終わりがなかった。

 又はテレビでビデオを見て夜を明かした。やはり旅行は楽しいものだ。


 船旅は神怪魚ダゴンでも出ないかぎり、水の上では襲われる心配はなかった。

 森では獣やゴブリンが出てくる可能性もあり、火を焚いて寝ずの番をせざるを得ない。

 陸路ではやはり大変だっただろう。


 食料の心配もせずにすんだ。

 魚を釣って食えばいいし、肉と野菜もクルーザーに大量に積んで、冷凍冷蔵庫に入れてある。

 太陽光発電があれば電気には困らず、いざとなればハイドラに充電を頼めばいい。


 炊事も交代でやったので、負担は少なかった。まあリンダが、ほとんどやってくれたが。

 不便なことは何もなく、クルーザーはまさに動く家である。


 特にトラブルもなく、俺達は人間の国についた。

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